異能社会でも生活は楽じゃないんだよ!?

空戦型ヰ号機

プロローグ 異能社会も金次第

 西暦2020年、地球文明でとあるエネルギー源が発見された。


 その名も『霊素アイテール』――宇宙を満たす未知の再生可能エネルギー。この発見は瞬く間に世界中に拡散し、技術も発見者の意向で世界中に拡散。半永久機関である『霊素機関』の出現に伴うエネルギー革命、『霊素革命』は世界中のエネルギー問題に大いなる希望を齎した。


 無限に等しいエネルギー源を得た事によって世界中で技術革新が絶え間なく発生する社会。しかしそのエネルギーは多くを解決すると同時に、人類に新たな問題を生み出していた。


 アイテールは、当初、これまで存在を立証できなかっただけで常に世界に充満しているものであるために人体に無害なエネルギー源とされていた。故に制約の少ない霊素機関は社会中に溢れた。

 そして異変は起きた。霊素機関が放つ波動に包まれて生まれた次世代の子どもたちの中から、それは現れた。


 子供が手を触れずおもちゃを動かした。

 子供が火を噴いてベッドを燃やした。

 子供が分身してどちらが本物か分からない。


 完全無害だと思われていたアイテールにはただ一つだけ――胎児の脳細胞に微細な変異を起こし、固有の超常能力を齎すという予想だにしない影響を与える作用があったのだ。


 これは正確にはアイテールそのものではなく、このエネルギーを電力等に変換する際に発生する固有の波動が原因であることが後に突き止められるが、既に霊素機関は世界的に普及し、世界は突如として大量の異能者に溢れた。


 異能を持った子供たちは、一様にベルガー波と呼ばれる脳波の発生が異常に強くなる。そのため世間は、この特徴から取って異能を持った子供たちを「ベルガーチャイルド」と呼んだ。


 ベルガーは間もなく、法制度の間に合わないまま学習過程を経て社会に解き放たれていった。子供チャイルドという年齢でなくなった彼等はやがて「ベルガー」と呼称され、常人と余りに異なる力の使い途と社会の立ち位置を模索していった。


 しかし、異能とは、異能を持たない人間で構築された社会においては異物でしかない。社会の枠組みはすぐ彼らを受け入れることは出来ず、世界各所で規格からはみ出した人間たちによる危険な異能の使用が横行した。それはやがて犯罪者たちの目に止まり、常人を逸脱した力に酔いしれた人間や異能のせいで居場所を失ったベルガーの受け皿となった。

 ベルガーによる犯罪行為――俗に言う異能犯罪の誕生である。


 日本では発生当初こそ警察でなんとか対応出来ていたが、チャイルドだったベルガーはやがてシニアになって狡猾な能力の使用方法や知識を身に着けており、数に限りある公僕と増加の一途をたどる異能犯罪との熾烈な争いは「異能の有無」という不利が次第に警察の足を引っ張るようになる。


 この頃、社会で二つの流れが発生した。


 一つ、常人でもベルガーに対応できるような枠組みを作り、霊素革命が齎した最新技術を用いてベルガーに対抗しようとする従来型社会の対策。


 そしてもう一つが、ベルガーに力で対抗できる存在――同じベルガーによって社会悪や問題を解決しようという対策である。


 問題発生当初は特に、異能犯罪は警察を頼っていては解決が困難になるケースが大多数だった。それに、直接的な現行犯であれば一般市民であっても特別な権利なしに相手を取り押さえることが出来る。異能犯罪は社会におけるベルガーの信用と立場を損なうものだったこともあり、この活動に賛同する者も多かった。


 善意で集結したベルガーたちは自警団のような形で自主的に異能犯罪に立ち向かい、日本の治安は危ういところを何とか持ちこたえた。


 だが、問題の解決はまた別の問題を呼び寄せる。

 法整備が間に合い、警察や自衛隊が対ベルガー部隊やベルガーで構成された部隊を正式に立ち上げることは、自警団が「善意の治安維持組織」から「統率の取れない異能集団」になることを意味する。

 元々自警団を構成する人間は異能を持て余して居場所を求めた人も少なくなく、社会の異能法制化は彼らに別の選択を強いる結果となった。


 警察や自衛隊、民間警備会社、一部のスポーツや舞台などの脚光を浴びる世界……ベルガーの受け皿がまだ小さかった社会の流れの中で、一つの定番が生まれる。合法的に異能を用いて多様な問題を解決する自営業――「何でも屋」である。

 法制化が間に合ったとはいえ、異能犯罪のリスクは依然として存在していたし、異能は通常では解決困難な問題を短期間で解決するのに適している部分もある。仲間内で結成された何でも屋はすぐに全国に増加した。


 やがて異能を見ることが珍しくなくなってきた頃――西暦2064年。

 軽度な異能犯罪が増加傾向にある中で、何でも屋は需要が高騰。いつの間にやら不安定な職の筈なのに競争率は跳ね上がってしまっていた。一部の何でも屋は高給取りとなり、ヒーロー的な存在として子供たちの憧れにもなっている。


 とはいえ、人気商売故に競争についていけなければ店が潰れるのも世の常。どこもかしこも懐が温かい訳ではない。能力不足、ノウハウ不足、実績不足、不祥事、苦情、etc……問題は幾らでも存在する。

 つまり、世には経営を続けるだけで精いっぱいの自転車操業的業務を強いられる店もある訳で。


「金がねぇ……仕事は減らねぇのに金がねぇよぉ……」


 これは、電卓片手にパソコンと睨めっこする事務所の所長がちょっとした大犯罪事件に巻き込まれるだけの――少なくともこの世界ではそう珍しくもない物語である。

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