ニュー・ワールド ~悪魔があふれた世界で、最強の悪魔と契約した僕は英雄となる~
まさひろ
第1話 プロローグ
太陽がさんさんと降り注ぐ真昼の繁華街に、絹を裂くような悲鳴が木霊する。
近くに居るひとは、我先にと逃げ出し、離れたひとは対岸の火事とばかりにスマホを向ける。
その騒動の中心部には、繁華街には似つかわしくない異形があった。
身の丈は2mを遥かに超える、針のような剛毛を全身に纏った熊だった。
いや、よく見ると熊では無い。
体のあちこちに鋭利な角を光らせ、15cmはある鎌のような爪を持つ動物を熊とは言うまい。
「悪魔だ! 悪魔が出た!」
逃げかう人々の流れに逆らい、不敵な笑みを浮かべ立つ少年の姿があった。
前髪が目にかかる、少し猫背がかった野暮ったい雰囲気の、学生服を身にまとった少年だった。
「いくよ、ジャバウオック」
少年が手馴れた手つきでスマホを操作すると、ワイヤレスイヤホンから音楽が漏れ聞こえた。
それと同時に少年の真下から突風が吹き上る。
学生服の下に着たパーカーがバタバタとはためき、少年の目を隠していた前髪が逆立った。
髪の下に隠されていた目は、真紅に染まっており。ギラギラとした闘争心に輝いていた。
「――――――!!」
ビリビリと大気を震わし、心臓をわしづかみにするような咆哮が響き渡る。
少年はその声に、ニヤリと口角を歪めた。
その声の主は、少年の眼前にあった。
少年に背を向けたそれもまた、異形の怪物であった。
大きさ的には熊の怪物と同等の鈍色の巨躯。
西洋甲冑を着込んだようなフォルムであり、大きく張り出した肩、異様に太い前腕、鋭く尖ったかぎ爪を持っていた。
弱々しい姿の少年と対比すると、正しく真反対の力と暴にあふれた存在であった。
「悪魔だ! 悪魔使いだ!」
パシャパシャと、カメラのフラッシュが少年と怪物を飾りたてる。
少年はわずかに鼻を鳴らすと、目の前の怪物へ指令を飛ばした。
「行くよジャバウオック。
君の爪は理不尽を断ち切る為、君の拳は不条理を打ち砕くため
敵の方がレベルは上だが、そんな事は些細な事、僕たちは無敵だ!」
ジャバウオックと呼ばれた怪物は、歓喜の雄叫びを上げながら、弾丸のような速度で熊の怪物の元へと駆け出した。
小細工など無し、大きく振りかぶった右腕を叩きつけるように振りぬいた。
防御も回避も間に合わない、いや防御も回避も無駄だった。
ジャバウオックの凶爪は一撃の内に敵の体を引き裂いた。
敵の左腕は肩口から吹き飛ばされ、派手な音をたてビルの外壁へとめり込んだ。
ジャバウオックは雄たけびをあげながら、左腕を敵目がけて突き出した。
鉄条網のような剛毛に覆われた敵の胴体であったが、ジャバウオックの左腕はやすやすとそれを貫いて、鈍く光る凶爪が敵の背から顔を出した。
既に敵は絶命しているが、ジャバウオックの攻撃衝動はおさまりを見せずに金色の瞳をランランと輝かせ、その剛腕でもって敵を引き肉へと変え、死肉へ食らいつこうとする。
「もういい! そこまでだ! ジャバウオック!」
少年はそう叫ぶと、スマホを操作した。
イヤホンから漏れ聞こえていた音はやみ、ジャバウオックと呼ばれた怪物など最初からいなかったように掻き消えた。
後には、ひび割れた道路といった戦いの痕跡だけが残ったのだった。
「はっはー、相変わらずえぐい強さだな
ニットキャップを被った少年が、そう笑いながら少年に肩を組んでくる。
「僕が強いんじゃないよ
耕平と呼ばれた少年は、そう言いながら窮屈そうに肩をすくめた。
「おんなじことだ、悪魔使いの悪魔が強いって事は本人が強いってこった」
達也はそう言ってニシシと笑みを浮かべた。
『悪魔』
空想の産物でしかなかったその存在が、現実のものとして現れたのはつい最近の事である。
彼らは、何の前ぶれもなく、突如として現れた。
現れ、そして物理的、人的被害をもたらした。
彼らの力は強力で、生身の人間ではとても太刀打ちできる存在では無かった。その対応には少なくとも小銃程度の武装が必要であった。
だが、彼らは予告なしに何処にでも現れる。その結果対応はどうしても後手に回らなくてはならず、対策など立てようも無かった。
だが、程なくして、その悪魔をコントロール出来る人たちが現れた。
彼らはそれぞれ固有の悪魔を従え、ある者は悪魔と戦い、ある者は己の欲望のままにその力を振る舞った。
新たな世界。混沌の時代の幕開けだった。
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