第18話 あんなのが『ヒロイン』!【前編】
そして——。
「では、ローゼンリーゼの事はお願いしますわね」
「うん……色々ごめんね……本当……色々……」
「大丈夫です。慣れております……というのも変ですが……」
「…………」
一週間はあっという間に経ってしまった。
なんと、ローゼンリーゼはわたしとアンリの話をまるで聞く気はなく、わたしたちが話しかけると鬼の形相で喚き散らし、近くにあったものを投げつけたり、わたしたちがライバル役じゃなかった場合のライバル役、リルちゃんをどついて虐めたりと……まあ大変。
話にならないとは、まさにこの事……!
前作舞台である『風蒼国』の学園でわたしがやってきた事を、完コピか、ってくらい同じパターン。
痛い。
とてつもなく! 痛い!
同じ事をして追放された身としてはあまりの痛さに転げ回りたくなるぅ〜!
「……なんにしても、彼女とはきちんと話して鍛錬をしてもらわなければ……。『大災禍樹』は間違いなく生まれます。そしてそれを『
「ええ……」
「……続編でルナリーゼは攻略対象と結ばれる事はあっても、『
「ええ、必ず彼女と話すわ。あのままじゃ本当に詰む!」
「はい」
彼女にだけ詰まれる分には構わないのだが、彼女に詰まれると世界まで詰みかねないのが恐ろしい。
彼女はわたしのようにたやすく追放されてもらっては困るのだ。
厄介な事ではあるけれど、あの凝り固まったヒロイン思考をなんとか正常に戻してもらい、真っ当に攻略を進めて頂くしかない。
…………ヒロイン思考……痛……。
い、いや、それはどうでもいいわ。
クロエ様と獅子王ジルレオンと、隠れ攻略君以外の王の難易度は、今から攻略するには高すぎて無理。
もっとも攻略難易度の低い『熊王』ベアゼス様ならばなんとか間に合う。……はず。
アンリと色々話した結果、イベントの発生条件とかも聞いたから、彼女を説得したあとは攻略のサポートに徹しよう!
アンリミリアとアストル様を見送り、うん、と気合を入れ直す。
どうしたらローゼンリーゼと会話が成立するだろう。
とにかく、こちらの話を聞かせる必要があるのだが……。
彼女の目的は一応、わたしたちとも一致はしている。
邪魔されなければゲーム通りに愛される……と思っているのが問題だ。
わたしとアンリは一週間、攻略対象と会話などしていない。
わたしがクロエ様に声をかけられて会話する事はあったけど……そしてわたし……ルナリーゼが当て馬、というのも、あながち間違いではなく、アンリの話では『ローゼンリーゼと攻略対象が会話中に声をかけてくる』のだそうだ。
好感度が高ければ攻略対象はローゼンリーゼを優先する、というわけね。
「…………うーん」
今のところ、ローゼンリーゼが攻略対象と話しているところに割って入った事はないのだけれど〜……。
わたし、ちゃんと全然邪魔してないわよ?
やはりあの押せ押せ行動が仇になっているわね。
獣人族は血気盛んだから、押せ押せ女子は好まれるけれど……相手は王様たちだ。
都合も考えず押せ押せは、圧倒的に逆効果!
アンリの話だと、王様たちは基本的に鍛錬しているヒロインに声をかけるシチュエーションが多いらしい。
ゲームの中でも鍛錬ちゃんとしろって事を、暗に伝えてたのね。
つまり……あれ?
押せ押せで王様たちに声かけまくってるって事は……ローゼンリーゼ、まさか、鍛錬……してない?
って、事なのでは?
「ま、まずーい!」
「なにがまずいんだ?」
「おああぁっ! クロエ様!? おぉ、おはようございます!?」
「おはよう。仕事を頼みたかったのだが、都合が悪いのか?」
「え! 仕事ですか? いえいえ! お受けしますとも!」
廊下で叫んでしまった。
そして、そこに他の種の王たちを見送ったであろうクロエ様が現れた。
……クロエ様……一週間も他の種族の王たちと会議してたのに……休まないのかな。
クロエ様が休まないのに、わたしが仕事を休むわけにはいかないよね。
「そうか。では新しく作った水晶の眼鏡と、新しいブラックトルマリンのペンダントを二つ……そして、また魔剣の調整を頼む」
「承りました。……魔剣、また使うんですか?」
「ああ、西の森にまた『
「…………」
「そんなに心配はいらない。今回の伐採には——」
「私も行きます!」
え? で、出たぁ!? ローゼンリーゼ!
どうしてここに……いや、城と学園は同じ敷地内だからいるのは不思議じゃないけど、わたしとクロエ様が話している途中で乱入してくるのは貴女の立場からすると『逆』なのではー!?
これじゃ、まるで——!
「またお前か……」
ああああぁ、クロエ様のうんざりした顔ー!
ホラー! ここは貴女の出番じゃないのよ!
なんで出てきたのー!?
「次の『
「なんだと?」
「私は『風蒼国』から戦い方を学びにこの国に来たのです! 戦果もなしに帰れません。一つでも多い実戦経験が欲しいんです! 連れて行ってください!」
「!」
ローゼンリーゼ……彼女なりに『攻略』を進めようとしている、のね?
でも、アンリから聞いたクロエ様の攻略イベント『邪樹伐採戦』はある程度の鍛錬を積んでヒロインの戦闘レベルがなければ断られる。
ど、どうなの?
クロエ様のイベント発生条件を満たしているの?
……というか、まさかとは思うけどこの好感度の低さでクロエ様を攻略しようとしてる?
マジでーーーー!?
「ふん、いいだろう」
マジで!?
クロエ様の『邪樹伐採戦』イベント参加レベル到達済み!?
って事はちゃんと鍛錬はしてたのね!
なんだ、偉いじゃない!
すごく心配してたんだからな〜?
それなら、ラスボス戦も問題な——……。
「貴様のその軟弱さでついて来られるか……楽しみにさせてもらう」
「!?」
あるぇ!?
「あ、ありがとうございます!」
「では明日の朝、西の門の前で待て。ルナ、魔剣と予備の眼鏡とペンダントは頼むぞ」
「あ、承りました……」
ちら、とローゼンを見る。
ドヤァ! と、ドヤ顔をされた。
私の方からでは、ヒロインの戦闘レベルは……分からない。
でも、クロエ様は『軟弱』と言い放っていた。
まさかとは思うけど……。
「貴女、ちゃんと鍛錬はしてるの?」
「はあ? あんたにそんな事関係ないでしょ! そんな事より、クロエ様の魔剣の手入れ、ちゃーんとしておいてよね」
「くっ……」
話をするどころじゃない。
いや、でも……このチャンスを逃すわけには!
「分かってるの!? ちゃんと鍛錬して、戦闘レベルを上げないと……貴女には『死亡エンド』があるのよ!」
「!?」
あれ、驚いた顔をされた?
まさか、知らなかったの!?
「……最近しつこかったのは……、……そう、やっぱりアンタにも前世の記憶があるのね」
「まあね。でも、ほとんどはアンリミリアから聞いたのよ。彼女の方がゲームに関しては覚えているから。彼女心配してたのよ、貴女の事。ちゃんと鍛錬してるのかって……!」
「余計なお世話よ! 鍛錬なら授業でちゃんとこなしてる!」
「!? それだけじゃ足りないわよ! ちゃんと放課後の自主鍛錬もやらないと——」
「うるさいわね! やってるわよ!」
ほ、ほんとかなぁ!?
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