今日もわたしは元気ですぅ!!(キレ気味)〜転生悪役令嬢に逆ざまぁされた転生ヒロインは、祝福しか能がなかったので宝石祝福師に転身しました〜【WEB版】
古森きり@『不遇王子が冷酷復讐者』配信中
第1話 ヒロイン、追放される
はあ、はぁ、はあ……。
わたしは夜の道を駆けていた。
信じがたい事が、起きた。
今日の祝賀パーティーで、わたしは勝利宣言をするはずだったの。
それなのに、それなのに——!
『ルナリーゼ、君は私の婚約者、アンリミリアに随分と様々な嫌がらせをしてくれたようだな』
『え? お、お待ちください殿下! それは誤解です! わたしは……』
『男爵令嬢とはいえ、それは君の父上の爵位であり君のものではない。だというのに、国の英雄の娘が聞いて呆れる』
『! ち、違いますわ、マクシミリアン様! わたしは……』
『証拠は全て揃っている。証言者もな!』
『ア、アストル殿下まで……』
わたしも見ました、俺も、と手を挙げる生徒たち。
しばしこのあたりを脅かしていた魔物を撃退して、皆高揚しているのだ。
そうに違いないわ!
だからこんな事が起きるのよ。
自分に見当違いな理由を言い訳して見せて、頭の片隅でそんなわけがないと分かっていても体は怒りで震えた。
だってここは、だってここは——!
『ま、待ってください殿下、確かに色々ありましたが……彼女にも事情があったんです! だからこんな吊るし上げのような事はおやめになって!』
そう殿下の腕にまとわりついて制止を促すのは、アンリミリア公爵令嬢。
殿下の婚約者だ。
カッと頭に血が上り、顔に熱が集まる。
『ふ、ふざけないで! なによその言い方! 悪役令嬢はアンタでしょ! なんでわたしが断罪イベント食らってるの!? これはアンタの役目でしょ!? わたしの殿下よ! 触らないで!』
『きゃあ!』
『アンリ! ……貴様! 取り押さえろ! 衛兵!』
『ハッ!』
『え、ちょ、ちょっと!』
鎧の金属音。
槍や剣をを持った兵がわたしを取り囲む。
わたしが突き飛ばして床に尻餅をついた悪役令嬢アンリミリアを、攻略対象たちが囲んで支え起こす。
……なんなの?
なにが起きてるの?
こんな事ってある?
だってここは乙女ゲームの世界で、わたしがヒロインよ?
それなのに、なんで——!?
『……ま、待ってください、殿下! わたくしは大丈夫ですから!』
『アンリ、君はまだこの女を庇いだてするのか?』
『だって……』
『君がその女を思いやる気持ちはよく分かった。英雄である彼女の父の顔もある』
『では!』
アンリミリアが嬉しそうに殿下を見上げる。
それが腹立たしい反面、これで拘束から解放される……と安堵した。
そ、そうよね、わたしはヒロインなんだもの……こんな扱い間違ってるよね?
『学園からの強制退学だ。それで許そう』
『え……』
え?
待って?
た、た、た、退学?
退学って言った?
いやいや、おかしいでしょ。
わたしはヒロイン。
ストーリーはまだ中盤!
だというのに攻略対象たちと悪役令嬢、その他モブ生徒に見送られ、荷物ごとポーイと学園から追い出された。
いやいやいやいや、ありえない。
ありえないでしょ!
わたしはこれから、攻略対象……王子様と甘い恋に落ちて、育まれた愛の力で『特別な浄化の力』に目覚めるハズ——!
な の に !
「……嘘……」
ギイイィィ……バタン!
と、門が閉まる。
門番により固められたその場所へ、わたしはしがみついた。
「ちょ、ちょっとおおぉ! 嘘でしょ! わたしヒロインなのよおぉ!」
叫んでも門番に「なに言ってんだこいつ頭おかしいのか」的冷たい眼差しで見下ろされる。
あれはドン引きしてる目だ。
その場にしゃがみ込み、見上げる『舞台』。
と、途中退場……?
「いや、そんな……そんなバカな事……!」
「おい、さっさとどこかへ行け!」
「実家に帰って田畑でも耕すんだな。ほら」
「や、やめてよ! 冗談じゃないわ! わたしはヒロインなのよ! なんで悪役令嬢が残ってわたしが追い出されるのよ! ちょっと! 誰かなんとか言いなさい!」
「「…………」」
な、なによこの門番たち〜!
「こりゃ追放されても無理ねーなー」みたいな顔でアイコンタクトしてぇ〜!
大体こちとらヒロインとして王子様と大恋愛の末に世界で最も特別な浄化の力、『
実家になんて……!
「…………っ!」
じ、実家には帰れないわ。
父は確かにこの国に押し寄せた魔物を、自分の傭兵団だけで退け、国から爵位を賜った英雄。
でも、その分とても厳しくてついていけない頑固オヤジ。
学園に入学が決まった時、もう戻ってこないからと宣言したわたしを「ああ、お前は二度と家に入れさせん」と冷静に切り返してきた男。
多分本当に入れてもらえない。
……つまり、わたし……。
「…………嘘……でしょ……」
——つ……詰んでる……。
い、いえ……いいえ!
わたしはヒロインなのよ、ここで負けるわけにはいかないわ!
というか負けるはずがない!
だってわたしはこのゲームの主役! 主人公! ヒロイン!
ここで終わるはずがないのよ!
終わってたまるか!
わたしは立ち上がるのよ、だってヒロインですもの!
き、きっとわたしの知らない隠れルートかなにかなのよ、きっとそう!
「よ、よし、切り替えましょう」
とにかくいつまでもここにいても仕方ない。
門番にヤバい奴を見る目で眺められているのも腹が立つ。
誰かが迎えに来てくれるまで、王都で待っていればいいわ。
そう考えて、宿へと向かう。
そこで——。
「え? お、お金?」
「ああ、一泊銅貨五枚だよ」
「……あ、えーと……」
小銭入れを探る。
お金……は、アルバイトで稼いでいるけど、まあ、その、なんていうか……。
「まさかお金がないのに泊まろうとしたのかい?」
「…………」
「困ったお嬢ちゃんだねぇ。親に連絡してあげるから、住所をこっちの紙に書いておきな」
訳、親に支払い請求するから住所を教えろ。
「っ! や、やっぱり大丈夫ですぅうぅ!」
「え! あ、ちょっと!」
はあ、はぁ、はあ……。
深く息を吸い込み、吐く。
ようやく呼吸が落ち着いてきた。
「なんで、こんな事になってるのよ……」
わたしは四十歳の時に旦那の親の介護、大学生の息子と旦那の世話で疲れ果てていた。
息子も旦那もなにもしない、してもらって当然、という奴ら。
血の繋がらない旦那の両親は痴呆で頭がおかしい。
両親は遠くに住んでいて手が借りられず、いつの間にか旦那の兄妹が親の遺産目的でわたしを除け者にして、遺書を書かせようと色々手を回してくるようになる。
お前らが面倒見ろよ、お前らの親だろう!
と、言ってやりたいのを耐え、さりげなく旦那の親の面倒を押しつけようとしたが失敗。
それどころか、旦那の親は血の繋がった旦那の兄妹に全て渡すと遺書を残して、おっ死におった。
旦那の激怒。
その矛先がわたしに向いた時に……「お前が面倒見てたのになんで遺産が俺に入らないんだ! おかしいだろう!」と叫んだその言葉にプツリとなにかが切れてしまったのだ。
気づけばわたしは山の奥におり、ロープで首をくくっていた。
もう、誰もわたしに構わないで。
その一心だった。
……それ以外望みはなかったのよ。
そして、目を覚ました時……目が覚めたという事に最初に驚いたものだけど……この世界が結婚前に遊んでいた乙女ゲーム『風鳴る大地』の世界だと気がついた。
それも、ヒロイン!
ルナリーゼ・フォトン!
可憐な容姿、英雄の父、優しい母。
そして、十五歳になれば王都の学園に招かれカッコいい攻略対象たちに囲まれてちやほやされて過ごすの。
キラキラとした貴族の学園。
ステキな美少年たち。
愛を囁かれ、大切に守られ、甘やかされる日々……。
これはきっと、ご褒美よ。
前世であんなに辛い想いをしたんだもの。
今世では幸せになるの。
そう、思っていた。
でも、現実は少し違う。
英雄と呼ばれた父は傭兵団上がりの男爵で非常に厳しく、女のわたしにも剣を叩き込もうとした。
母は優しかったが病弱で、そういえばゲームのストーリーではヒロインの母親は病死した事になっていたのだと思い出す。
それは、なんか可哀想な気がしたので前世で培った介護の経験を活かし、母には長生きしてもらう事が出来ている。
それはいい、そこは後悔もしていないし、母が病弱という点で攻略対象たちから同情心を引き出せると思ったし。
でも、厳しい父だけは嫌だった。
怒鳴られるのがとにかく嫌。
前世で怒鳴り散らされたあの日々を思い出す。
だから、父とどんどん疎遠になった。
母の療養のためにと家を出て、領地の中に別邸を建て、そこで過ごし、実際母の体調がよくなったので父はなにも言わなくなる。
剣の稽古は全力でサボったし、礼儀作法は攻略対象たちとの恋や王妃になるのに必要だからと頑張って覚えたわ。
……それなのに……肝心の学園生活であの悪役令嬢がストーリー通りに動かなかった。
アンリミリア・ステヴァー。
この国の公爵令嬢。
この国、いえ……『風鳴りの大地』の舞台である『風蒼国』は和風なファンタジー世界。
服は着物に似たワンピースやドレス、甚兵衛や袴など。
王子様と聞くと金髪碧眼の洋装を思い浮かべるものだけど、この国の王子様、アストル様は黒髪で紫の瞳を持つ。
これだけ和風設定なのに人の名前が洋風なところが、このゲームの魅力の一つとも言える。
それに、完全に和風というわけでもない。
和と洋の融合した世界、というと幾分想像しやすいだろうか?
どちらかに偏る乙女ゲームの新境地として設定されているので、現代日本のようなカオスっぷりがプレイしていて飽きないのだ。
……うん、ツッコミどころ満載とも言う。
まあいい、話を戻そう。
ともかく、そうしてわたしは『風蒼国』の王立学園に入学した。
ストーリー通りに。
しかし……その入学時点で……悪役令嬢アンリミリアは別人のように穏やかな性格になっていたのだ。
お陰で王子様も他の攻略対象たちも悪役令嬢にべったり……!
しかし、それでもイベントをクリアしていけば大丈夫。
だってわたしはヒロインだもの!
そう、思ってたのに……!
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