Hentaiはメダパニをとなえた

第91話 筋肉痛は未来の象徴である


 先日、近くの山(250㎞先)へ車を飛ばしてスノーボードへ行ってきました。安モーテル1泊泊りがけといういつも通りの行程です。2/7(日)がNFL(アメリカ最上位プロアメリカンフットボールリーグ)の決勝戦であるスーパーボウルの日ということで混雑もなく、一面青空と雪化粧が広がる快晴の週末でした。


 人がいないことを良いことに2日で約100㎞を滑りました。僕はグラウンドトリック(通称グラトリ)という跳ねたり、回ったり、片足で滑ったりするトリックを練習しているので、傍目では不審な動きをしながら、時々こけている変な人に見えたことでしょう。それでも、これだけの距離を滑ることが出来ました。


 また、パーク(いろいろなアイテムが置いてある遊び場)でも、キッカー(ジャンプ台)でストレートエア(まっすぐ飛ぶだけ)を練習出来ました。(普段はめちゃくちゃ上手いパーク常連がいるので入りづらい)


 つまり、滑りながら飛び跳ね、飛び跳ねてきた先でも飛び、リフトに乗って再び山に登るということを繰り返していたわけです。


 当然、その反動は凄まじいモノになる。


 まず、起き上がれない。ももや腕が動かない。ベッドから出るのも一苦労です。靴下を履きたくても足に届かない。ペンを落としても軽く拾えない。立つのも座るのも一苦労。何をしても身体が重いのです。とはいえ、そんなことは予想の範疇です。

 ですが、予想に反してキツイのが体幹(腹筋/背筋)の筋肉痛です。歩いていても、座っていても何気なく使っているのがこの体幹。仕事合間に伸びをするだけでも身体のあちこちが悲鳴をあげる。苦しい。苦痛を和らげるはずのストレッチが苦痛です。今はひたすらプロテインを豆乳で割って、ビタミンB群をとって寝るしかありません。こうして文字を打つだけでも、背中や腰に違和感を覚えて顔を歪ませています。


 ですが、僕はこの痛みがくると「嬉しい」と言う感情がまず出てくるのです。


 それは、僕が「ただのドMだから」というしょーもない理由ではありません。(そして、僕はドMではありません)


 僕が筋肉痛を喜ぶ理由。それは「成長の確定通知だから」です。つまり、筋肉痛が来ているということは、そのあと確実に「パフォーマンスが上がる」ことを意味しているからです。


 この世の中で確実に目に見えるものはあまり多くありません。こうして文章を綴っていても、毎日楽器を練習しても、毎日料理を作っても、前日より確実に上手くなったと思える瞬間というのはそうそうありません。大抵、ある程度時間が経った後に見比べて、初めてその変化に気付くのです。小さいころは純粋無垢だった男の子が、いつの間にか「筋肉ルーレット!」とかのたまいながら大胸筋を細かに収縮させるようになるのと一緒です。


 その点で筋肉痛は全く異なります。繰り返しますが、筋肉痛は「未来の確定通知」なのです。筋量が増え、筋力が増大し、より屈強で運動性に優れた身体になることが決まっている。


 大抵の変化は「過去」と比べることで初めて確定されるのに対し、筋肉痛というのは「未来」を確定する。そのまれなるこそが、僕が筋肉痛を好む理由なのです。先の見えない日々に灯る確定した未来。その小さな喜びを感じられる瞬間というものが好きなんですね。


 ある人が「筋肉痛がひどくて……」(喜色満面)と漏らすのは変態だからではありません。それは、筋肉痛こそが、つらい毎日の中で見つけられる微かな希望だからです。「うつの人には筋トレが効く」というのも(恐らく)これが理由です。筋肉がついたところで未来に希望は持てないんです。そうではなくて、今の自分より確実に良くなる未来が確定される。そして、良くなると実感できる。筋トレは未来を決定する行為であり、筋肉痛はその変化の分かりやすい象徴なのです。


 自分の力で良い未来を引き寄せた証。

 それが、筋肉痛なのです。


 決して、筋肉痛で嬉しそうな人を「ドM」などと呼んではいけません。



 

 P.S.

「年を取ると筋肉痛来るのが遅くなってー」と嘆く人がいますが、年齢と筋肉痛は関係がありません。年を取ると筋肉痛が遅れてくるのは「そこまで運動していないから」です。つまり、運動不足です。筋肉痛と関係するのは運動の強度。どんな年齢でも激しい運動をすれば直ぐに筋肉痛が起こり、軽い運動だと筋肉痛が後から来る。

 だから心配しないでください。筋肉痛がすぐに出て欲しければ、激しい運動をすればいいのです。あなたの努力次第です。頑張りましょう。そして、気を付けてください。「筋肉痛がすぐ出たからまだ若い」というのはまやかしです。

 

 ですが、どちらにしても筋肉痛は頑張ったことの証であり、同時に良き未来の象徴でもあります。筋肉痛が来た時は嬉しそうにしましょう。その時はぜひ、恍惚に。ヘンタイ的に。

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