第20話 知っても損する悩み解消法――傷つきやすいあなたへ
仕事、プライベート、恋愛など、人間は悩むのが仕事と言ってもよいほど日々悩んでいる。悩むことは非常に苦しいものだ。どちらのポケモンのパッケージを買うかに悩み、中々治らないニキビに悩み、時間がないのに読んでしまうカクヨムに悩み、遅刻した言い訳を探すのに悩む。
日々、悩みに悩む現代人よ。その悩みを捨て去りたくはないか。今日はそんな悩み多き人の為に、文学的要素を取り入れ、人の心に寄り添った「悩みマスターが解説する(必見)悩み解消法」を紹介したいと思う。是非、活用頂ければ幸甚の至りである。
○
まず、大前提として悩みはシンプルに二つに分類できる。敬愛する森見氏の小説から言葉を借りよう。
“世に蔓延する「悩みごと」は、大きく二つに分けることができる。一つはどうでもよいこと、もう一つはどうにもならぬことである。そして、両者は苦しむだけ損であるという点で変わりはない。努力すれば解決することであれば悩むより努力する方が得策であり、努力しても解決しないことであれば努力するだけ無駄なのだ。”
森見登美彦(2007)「有頂天家族」幻冬舎 P72
まさに森見氏(の小説のたぬき)が述べているように、人間の悩みとはそのようなものなのだ。実態は非常にシンプルなものであるが、多くの人はこれに苦しんでいる。
人は悩む。そして、その多くは無駄である。
膨大なる時の流れの中でヒトの大脳新皮質は発達し、僕たちは幸運にも様々なことに思索の糸を伸ばすことが出来るようになったが、不運にも考えなくとも良いことも考えてしまうようになった。悩みという概念がそれを如実に表している。
もちろん「分けることが出来れば苦労はしない」「こんな二分法で分けられないほどに私が抱えている悩みは下界のモノと一線を画している」「悩みが解決出来ないことが悩みなのだ」などという泣き言が予想される。
そのため、ここからは僕自身の例を用いて、より実践的に説示したいと思う。
Case 1. 身長が低い――努力すれば解決する
何も悩む必要はない。
遺伝的に身長は決まってくるが、身長を高くする方法がない訳ではない。骨折すれば骨が伸びることもあるし、アジアのどこかの部族みたいに首を伸ばし続ければ身長は高くなる。物理的でなくとも、その曲がった背中をぴんと立たせ、威風堂々と歩くだけで大きく見える。身長は雰囲気に付随するのだ。
また、シークレットシューズなる踵の下に国家機密を隠す靴もあるらしい。どこかに漏れれば始末されるという緊張感で図らずもつま先立ちになり、結果として身長が高くなるようだ。殺し屋に狙われることと、腓腹筋を酷使することに目を瞑れば、非常に実用的なアイテムである。寂れた商店街の一角でひっそりと売られていると風のうわさで聞いた。
その程度で満足出来ないのであれば、馬にでも乗ればよい。馬に乗れば誰もがあなたを見上げるだろう。身長が低いことのデメリットは、シルエットの悪さと弱弱しいイメージくらいのものだが、馬に乗れば解決する。あなたの手足の長さなんかよりも馬のすらりと伸びた美しい造形美に目がいくであろうし、兵器にもなりうる屈強な馬に喧嘩を売るような馬鹿はいない。いれば棹立たせながらすこし
ただし、馬は軽車両に分類され、道端で
Case 2. 自分に自信がない――努力すれば解決する
「私なんて」と嘆く暇があればそのあとに「~できる」と続く言葉を探すべきだ。自信がないのは主に劣等感コンプレックスと他人の目線を異常に気にしていることに起因する。だから、出来ることを見つければよい。
僕なんて耳をぴくぴく動かせる。
俺なんて頑張れば秘密裏に屁をこくことが出来る。
ワシなんていざとなれば入れ歯で戦える。
私なんて何となく夫がおならしたことが分かる。
このようにして、特技を見つける努力をすればよい。特技のない人などいない。程度の差はあれ、人より上手く出来るものは必ずある。社会的意義など考えなくともよい。
そして、「なんて~できる」構文は、自信のない人に足りていない鼻につく自慢を含んでいる。自分を前に押し出してみよう。存外、(嘲)笑って受け入れてもらえることに気付くだろう。
本当に、自分には何もないと心から思うのであれば、今から出来るようになれば良いだけだ。屁をこく時には音を出さないように細心の注意を払い、耳の動かし方を検索し、今から入れ歯(仮)を投げてコントロールを磨く。その努力もしないのであれば自信などつくはずもない。
得意なことを見つけ、自慢してみる。「手を使わずにパンツが履ける」と堂々と胸を張って言える頃合いになれば、自信や見栄、他人からの風評や人間としての尊厳などはどうでも良くなっているに違いない。
Case 3. 悩みを解決出来ない――どうにもならぬこと
このような悩みに苦しむのは、はっきり言って時間の無駄である。そもそも解決出来ない悩みだからこそ忘れるべきなのに、その悩みに拘泥していることが間違いである。根本が解決出来ないのであるから、それについて悩んだところで解決しないのは自明である。
「解決出来ない悩み」を解決出来ない悩みに苦しみ、『「解決出来ない悩み」を解決出来ない悩み』を解決できない悩みに苦しみ、[『解決出来ない悩み」を解決出来ない悩み』を解決できない悩み]を解決出来ないと苦しむ……。
このように悩みは循環し、阿呆が阿呆を呼ぶように悩みが無限に自己増殖していく羽目になる。
この問題は「どうして僕(私)はビル・ゲイツ(オードリー・ヘプバーン)ではないのだろう」という悩みと同レベルである。この悩みの原因は「僕であること」であり、僕がそれを考えている以上、それより先は何の発展性もない。
僕は僕である、という至極当然な事実を認めたくないがために人々(特に情緒の不安定な若者)はアリをつぶし、ケーキを暴食し、ピンセットではなく爪先で鼻毛を引きちぎり、自動販売機のお釣り返却口に残っていた10円をネコババするという非行に走る。酷くなると、ストローの先を噛んでぐちゃぐちゃにしたり、悪いことだとわかっているのに夜中に携帯を凝視して、意味不明な文字列を追いかけることもあるという。もはや狂気の沙汰である。
一刻も早く、考えても仕方がない悩みから脱却すべきだ。そんなことに悩み苦しむくらいなら、布団の中で誰よりも早く白目を剥く練習や、サイレント放屁の練習、ブリッジしたまま寝れるようになる練習をしたほうが良い。肝に銘じるべし。
Case 4. くだらない考えが頭から離れない――努力すれば解決する
僕は死ぬまでにこの悩みが解決すると信じている。理屈ではない。これから多くの知的で創作意欲の湧く作品に触れることが、生産性のある考えを生むカギだと感じている。
この悩みを克服した暁には、自分の考えがどれだけくだらなかったかを示す下らない文章を書こうと思う。乞うご期待。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます