第4話@一回目のライブ

 僕らは夏休み前とはいっても補習があるのだが、この時期にライブをすることにしたのは十分な練習を積むためと、夏休みの方が忙しい僕らだからこそのものだ。

マイクやでっかいスピーカーを知り合いから借りてきたという実朝の荷物はかなり重そうだった。

「えぇ、それでは一曲目、オリジナルソングの『うた』です。」

そして僕たちは一曲目をうたった。

その曲は僕たちが一か月かけて作った曲だ。

こんなにシンプルな題名の割には歌詞も、曲自体もかなり練ったものだった。

歌い終わったときには十人近くのお客さんがいた。


その中には古谷さんもいた。そうだ。あの警察官だ。

お客さんの後ろの方から、しっかりとした厚みのあるあの手から、

拍手や手拍子の音が聞こえた。僕はそれがただうれしかった。

だれかをよろこばせることのたのしさっていうのはこういうことなのかな。



実朝の透き通る、心にしみこんでくるような声が言った。

「えぇ、それでは僕らのライブでは毎週、メンバーが歌以外のことを何か一つやっていく予定なのですが、今回は唯と翔による漫才です。」


実は、僕らはこんなことも考えていた。


***


それは7月に入り、麦茶がおいしい季節となり、家に行ったとき、

実朝がこだわりの麦茶を出してくれた時のこと。

「なぁ、二人とも。普通のライブやって足止めてくれるかな?」

僕が言うと唯は

「いい曲なら止まってくれるんじゃないの?」

「でもさ、それじゃ層が厚すぎるんじゃないかな。他がやっていないことをすると注目を集められるというのは事実。やっぱり何か考えるべきだよ。」

実朝が正論で返す。

「ぐうぅ」と唯が唸ったところで

「翔は何をすればいいと思う?」

と実朝が僕に訊く。

「そうだなぁ。持っていくものは増やしたくないから、質問コーナーみたいなのは?」

実朝は

「それって面白いか?俺、思ってたんだけど漫才とかでもやってみたら。もう時間がないから俺とネタ合わせするよりは唯、翔でやったら?めっちゃいいんじゃね?どう?翔。」

「僕はいいけど唯は?」

「ま、さー君が言うことは正しいんだけど。他何かない?」

さー君は実朝の事。もうすっかり仲良くなっている。

「他って言われてもなぁ。それはとりあえず次の時までに考えるってのでいい?」

「わかった。じゃぁ、とりあえず私は翔とネタ合わせすればいい?」

「オッケー。じゃよろしく。」


そんなわけで僕らはネタ合わせをした。僕らの住んでいる施設のの中でするのはさすがに恥ずかしいから(よく路上ライブする奴が言うな!)外でやった。



「はいどーもこんにちは。」

ありふれた言葉から始まったネタは僕が考えたもので、中山さんにも昨日、見ておいてもらった。

中山さんにはとても笑ってもらえた。僕はもしかしたらこっちの方が向いているのかもしれない。


***


ネタを終えるとすでに並んでいたお客さんを含めて30人近くいた。

古谷さんはちらちらとこちらを見ながら、苦笑いをしながら、交通整備をしてくれていた。

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