お人形遊び想(二) 『魚水屋』の作品は神のように祀るべし!

 さて随分と間が空いてしまった。


 原稿をやりつつもお人形遊びには相変わらず余念がない。猛暑が始まるまでは球体関節人形をギグバッグに詰めて野外に携行した程だ。


 それ程まで趣味をエンジョイしている訳だ。たった二年かそこら(三年だったかもしれない。中年になると時間感覚が怪しくなる)の趣味歴だがそれを支えているブランドがある。それが前回、文末で紹介した『魚水屋』という布人形とぬいぐるみのブランドである。主にハンドメイドサイトで活躍なさっている(偶にイベントに出店する事も)。


 花潜りさん一人で製作販売する、知る人ぞ知るブランド『魚水屋』。技術が素晴しい故に価格帯もそれなりだ。無論子供向けではない。発想、デザイン、造りが独特である。ジッパーが付いたシャム双生児、頭から水晶が生えた少女、髪と翅が一体化したボタン関節の蝶の少女、鉢植えに納まった妖しい乙女、薔薇になる運命を背負った儚げな乙女、液体ルームフレグランスを内包した鉢植えの少女……他の追随を許さぬ作品が多い。時に耽美で時に無邪気で時に背筋に刃を当てられるような寒さを持つ、見る者を魅了する作品である。


 その『魚水屋』の作品を知るまでは、布人形と言えばラガディ・アン人形くらいしか知らなかった(アレも可愛いよね)。


 その頃の儂はプーリップを一体か二体組上げたばかりでまだまだ趣味の世界の右も左も分からぬ人間だった。『魚水屋』を知ったのは偶然だった。プーリップに着せる服はねぇかや、とネットの海を彷徨っていた所プーリップが愛らしいドレスを着ているサムネイル画像を見つけた。『可愛いけどこれもどーせ売りもんじゃねぇよな。皆上手に写真撮ってるから商品画像みたいに見えてややこしいっつの。でも元の画像見てみてぇなぁ。見るのはタダだもんな』とページに飛んだのが始まりだった。


 今でこそ花潜りさんの作品は布人形やぬいぐるみが多いが割と初期の頃は人形服もちらほらと出ていた模様。儂が初めて買った作品は初期の終わりの頃の人形服だった。


 ハンドメイドサイトを初めて利用するので不安に想う事もあったが花潜りさんはとても人柄の良い方で商取引はスムースに進んだ。入金からものの数日で作品が届き、プーリップに着せると驚いた。サイズ感がぴったりなのである。


 ……プーリップとやらの服なんだからぴったりなの当たり前だろ、と突っ込む方もいるだろう。しかし人形を人間に置き換えて考えて欲しい。例えば量販店なり百貨店なりで服を買うとする。儂のような庶民は既製品を買う。既製品故に多少の誤差があるよね? 袖の長短、腹回りの生地のあまり具合、肩幅の広さと狭さ……なかなか『本当に自分にピッタリだ』って服に巡り会わない。それが大量生産品の悲しい所。一方、ちゃんとサイズを測り体型に沿うように作った服は見栄えよくまた体に不都合を起こす事なく着られるのだ。花潜りさんの作品であるプーリップの服は正に後者だった。


 今でこそ知識が増えて個々の人形(所有分だけね)によるサイズ感のあたりはつくようになった。しかし大まかなサイズなので緩い事もキツい事もよくある。『この服は○○人形と△△人形が入ります』と商品説明に記されていても入るだけであって必ずしもぴったりとは限らないのだ。そんな世界なのだ。


 そんな問題を花潜りさんが作った人形服は吹き飛ばしたのだ。


 縫製もしっかりとしているし、型紙もよく考えていらっしゃるので立体的。常識の範囲で使用していれば結構堅牢。そして愛らしい。……人形服、ちょっと贅沢するなら『魚水屋』かな、と想った程だった。


 しかしマメにチェックしていたがあまり人形服は出品されなくなってしまった。それが布人形に出会う転機だった。


 過去出品された作品を閲覧していると、ある布人形に眼がとまった。独創的で素敵なのだがそれよりも愛らしい表情に魅了された。欲しくて欲しくて堪らなくなったが既に品切れ(大量生産しないからね)。諦めるも夢にまで出て来てうなされる始末。


 欲しいよう。でも売り切れてるんだよう。目の毒だよう。……と、暫く『魚水屋』のギャラリーを見るのを控えた。


 原稿に集中して熱りが冷めた頃、何か新しい作品は出てないかと『魚水屋』のギャラリーを見に行った。


 すると愛らしくも奇妙な双子の布人形が販売されていた。


 一目惚れした。


 しかしなかなか指が購入ボタンを押せない。布人形の相場なんて知らんし平均値の価格なんてのも知らん。


 悶々と迷った挙げ句、プーリップの服を想い出した。縫製も美しかった、サイズ感もぴったりだった(オーダーメイドさながら)、立体的で着せると一枚の生地だった事をスコンと忘れさせた……それを想うと価格相応と想い、購入ボタンを押した(実際に花潜りさんの技術は凄まじい。分野変えれば建築家になれるんじゃねぇのかと真剣に想う。難しいよ、一から物を作るって)。


 それが『魚水屋』の布人形との付き合いの始まりだった。


 もう何体あるのかも分からない程に布人形を始めぬいぐるみを所有している。


 買い始めの頃は針金関節(人形の中に針金が仕込んである。故に曲がる)だったのがボタン関節……最近では生地で球体関節を作りポージングが広がり自立出来るようになった。


 買うのも好きだが作品集を眺めて花潜りさんの成長を感じるのも好きだ。


 ここ一年程は人気がかなり出てしまって買うのも一苦労だが、ファンが増えるのは一ファンとして嬉しい。そして何よりも作り手のモチベーションが上がって更なる進化を遂げるのも嬉しい。


 儂は『魚水屋』の作品が大好きだ。

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