第4章 魔王
第55話 帝都陥落
領主になってからも魔法学園にはきっちり通っている。こんな事が出来るのも優秀な部下のおかげだ。僕は領主なのに、この世界に対して無知過ぎる。魔法学園では魔法の事だけでなく、世界の歴史など一般的な教養も身につく。ありがたい事だ。
考えても考えても辿り着かないのが、魔法を行使出来る仕組みだ。皆んな当たり前のように魔法を使うが、論理的な検証が行われた事はない。魔法が使える事が当たり前で、魔法が使えない方がイレギュラーなのだから当然と言えば当然かも知れない。
そもそもの話し『魔力』とは何なのかだ。この世界の生物はすべからく魔力を保有している。草木なのどの植物に至ってもだ。だからと言って魔力が無くなっても生命活動は維持できる。
つまり魔力が無くても生きていけるのだ。化学者だったせいだろうか、僕は魔力の謎を解明したくて仕方がない。感覚的には電気に近いのだろうが、電気ではない。
魔力……神としての知識を取り戻せばその謎は解けるのだろうか。だとしても僕はまだその領域に踏み込む勇気がない。その理由は記憶を取り戻した僕が今の僕でいられる保証が無いからだ。
もう1人の僕が人類に対して友好的なのかも分からない。仮に友好的だとしても、もう1人の僕が新薬に飲み込まれないとも限らない。
我ながら僕は危うい存在だ。
『ハルト、すぐに戻って』
ルナから念話だ。
『何かあったのか?』
『いいから直ぐに戻って!』
『あ……ああ、分かった』
ルナがあんなにも慌てていたのだから、何か大変な事態なのかも知れない。
授業中だったが、こっそりと瞬間移動で、グーテンベルクに戻った。
執務室に戻ると、全員集合していた。
「皆んな揃ってどうしたんだ?」
「帝都が魔王に落とされたわ」
帝都……帝国の首都だ。
「帝都が落ちただぁ?!」
「ああ、魔王ベルゼバブの手によってな」
「例の3大魔王か……」
「皇帝達はリマケに落ち延びたって聞いているけど、いつまでもつか……」
「取り敢えず、ジッとしていても始まらない、一旦僕が僕が先行する」
「待ってくださいハルト、あなたが飛ぶより私に乗って行った方が速いです。私があなた達の空の旅をナビゲートいたしますわ」
「ファフ……ありがとう……お言葉にあまえるよ」
「ハルト様、我々は如何いたしましょう?」
「大将はロック伯爵、シュボードを副将としてロック伯爵をサポート。王都まで進軍し、陛下の下知を受けてくれ」
「「承知しました」」
「ディアナとドリーはグーテンベルクの留守を頼めるか?」
「分かりました」
「グーテンベルクの事は任せて」
「ありがとう……」
急ぎ僕たちは竜化したファフの背に乗り皇帝が落ち延びたリマケを目指した。
「ファフ、リマケまでならどれぐらいで着く?」
「せやな、1時間掛からんのちゃうか」
「流石に速いな」
「当たり前やんけ!」
「ところで、ベルゼバブってどんなヤツなんだ?」
「強いわ……そして狡猾よ、もっとも魔王らしい魔王って感じね」
「魔王らしい魔王か……」
「ベルゼバブはこれまでも表立って人類の敵を公言している。敵ではあるがしっかりとした意志を持って行動している分、ブレがなく強いのだろうな」
「なるほど、そう言うところは魔族も人間も変わらんな」
「意志なら私達にもあるよ!」
「ハルトの作る世界で幸せになんないといけないからな」
「そうだな、魔王ごときにには邪魔させない」
___しばらく飛ぶと城塞都市リマケが見えて来た。魔族軍の侵攻はリマケにまで及んでおり、すでに帝国軍と交戦状態になっていた。
「ファフ、魔族軍の後衛をブレスで蹴散らせるか?」
「誰にもの言うてるねん、お茶の子さいさいや!」
「任せた」
「レヴィ、今の間に魔族のターゲッティングだ」
「おう、任せろ」
僕たちは戦場に到達するなり、ファフのブレスで魔族の後衛を全滅させた。そして背後から魔族を挟撃する形となり、レヴィのターゲティングサンダーで魔族に大ダーメージを与えた。
ファフ、エイル、レヴィに帝国軍のサポートを任せ、ルナとロランと僕は後衛から魔族軍に斬り込んだ。
ファフの一撃とレヴィの魔法で、すでに戦意を失っていた魔族軍は総崩れになり一刻も立たないうちに敗走を始めた。
ファフの登場に驚いていた帝国軍だったが、僕たちは大歓声をもって迎えられた。
「剣聖の英雄様に勇者様達ですね、私は帝国軍大将軍トランザです」
剣聖の英雄って誰だよ……と思ったが非常事態なので突っ込まなかった。
「ハルトだ」「ルナです」「ロランです」「エイルです」「レヴィだ」「ファフニールです」
さりげなくファフは人化していた。
「将軍、僕は王国の伯爵でありグーテンベルクの領主だが、今回の参戦は王国とは関係ない、魔王を倒す勇者達として参戦している、ご理解のほどお願いする」
「承知しました。ご尽力感謝いたします。詳しいお話は陛下の元で」
僕たちは皇帝の元へ案内された。いつものように謁見の間などではなく、軍議が開かれている作戦本部だった。
「陛下、剣聖様、勇者様方をお連れいたしました」
作戦本部に入り、軽く挨拶を済ませた。
「皆様……此度のご尽力、感謝の言葉もございません、帝国を代表して御礼を申し上げる」
皇帝はメディア王とはまた違った感じの人当たりの良さで好感の持てる人物だった。
「陛下、単刀直入にお伺いします。帝都は何故落とされたのですか?」
帝都は国家の本拠地だ。いくら魔王が強大でも、やすやすと落とす事は出来ないはずだ。
「最初に攻められたのはリスティンだったのだ。リスティンは帝国内の交通の要所、ここを落とされてはと思い私が直々に援軍を引き連れリスティンに向かったのだ。しかし……宰相のガティブエスがベルゼバブと内通していた、我らがリスティンの援軍に向かった隙に、魔王を迎え入れたのだ……全ては私の不徳の致すところだ」
「それが奴らの手口ですよ陛下、僕は各国でそれに遭遇しました。しかし内通者……僕ももう少し警戒するべきでした……」
「いやいや、剣聖殿、これは我らの問題故、剣聖殿が気に病む必要はありません。むしろこうやって窮地に駆けつけて来ていただき、有難い限りです」
この後、僕たちも参加し軍議が行われた。現在リマケは帝都とリスティンの動きを警戒する必要がある。今回、リマケを襲撃していた魔族軍はリスティンを攻めていた魔族軍がリスティンを落とした勢いをそのままに攻めて来たようだ。相手が魔族ということもあり、密偵もなかなか放てない。軍議は終始重苦しいものだった。
「なあ、みんなどう思う?」
「私が全て焼き払えば、終わるのでは?」
「却下だ、それじゃ帝国が焦土と化してしまうだろ」
ファフの言う通り、魔王がどの程度の実力かは分からないが、国民の命を気にしなければ帝都奪還もたやすいだろう。
「国民の命ね……」
「そうだ、情報が無くて国民が無事なのか分からないがな」
「私は無事だと思う。根拠は無いが国民が居なければ、ガティブエスが魔王を招き入れる旨味がない」
「ウチもロランと同意見だ」
「私は半々かな、ポレートさんの件もあるし……」
「私達で偵察するしかないわね」
「そうだな、僕達でやるしかないだろうな」
「私も考えていた、チーム分けをな」
「ロラン、聞かせてくれる?」
「私とレヴィとファフでリスティン、ハルトとルナとエイルで帝都に向かって欲しい」
「僕は構わない」「私も問題無いわ」
「ハルトと離れるのは嫌ですが、今回は仕方ありませんね」
「うーん、私も構わないけど、ロランチーム回復役居ないけど良いの?」
「大丈夫だ、いざとなったらレヴィも回復は使える。それよりも領民が無事だった時、ファフのブレスは使えない、だからレヴィのターゲット魔法が有効だと思うんだよ」
「なるほど、流石によく考えてるな!そう言う事ならウチも納得だ」
「それに帝都の方が、領民が生きてきる可能性が高い。回復役は必要だろう」
「うん、私も納得」
「まあ、いざとなれば、念話と瞬間移動で何とかなるだろう。無理せず慎重に行こう」
「あんたが言うと説得力ないわね」
「あは、私も思った」
「ハルトが1番無茶しやがるからな」
「いや、僕的には1番はロランだと思うぞ」
「わ……わたしか?!」
「確かにロランもそうだよね」
「私が付いているので安心ですよ」
「ファフは全力を出さないか心配だな……」
「そこはロランが何とかするでしょ、言い出しっぺだし」
「ウチもいるしな!」
『『え……』』
「……ま、まあ、この戦いはひとつの正念場だろ?確か表立って人類と敵対しているのはベルゼバブだけだし」
「そう言えばそうね……」
「平和への第一歩だ、気を引き締めて行こう」
「そうね」「うんうん」「ったりめーだろ」「そうだな」「はい」
「じゃあ、僕は陛下に報告してくるよ」
この戦、この手際、もしかすると黒幕はサマエルかも知れない。次は最初から全力でと言う話だった。僕もそろそろ覚悟を決めた方が良さそうだ。
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