第53話 内乱!?
ファフが僕のことをアーサーと呼ばなくなったのは喜ばしい事なのだが、もう1人の僕に対する手掛かりを1つ失ってしまった。フレイにしてやられた。これももう1人の僕の意思なのだろう。
僕たちはファフを伴いグーテンベルグに戻った。一悶着も二悶着もあったがファフが竜化を見せることで丸く収まった。ファフは僕たちの関係にも理解を示しており、皆んなともすんなり打ち解けてくれた。
そんなある日、シュボードからひとつの報が舞い込んできた。
「ハルト様……ロック伯爵、挙兵にございます!」
「ま……マジか」
ロック家は僕の与力の貴族の中で最大派閥だ。
「マジにございます……ロック伯爵はハルト様との直接会談をお望みです。如何されますか?」
「挙兵しておいて会談か……普通逆だろ?どういうつもりだろうな」
「ロック伯爵は聡明な方だと、もっぱらの噂です。挙兵自体が会談を有利に運ぶ為のパフォーマンスとも考えられます」
「うーん……なるほど、分かった、とりあえず会談を受ける」
「承知いたしました」
「で、会談の場所は?」
「我が軍は、既にロック軍と対陣しております。そちらの中間地点です」
「もう対陣しているのか……早いな」
「我が軍は専属軍人故、ロック伯爵挙兵の報を受け、すぐに編成に取り掛かることが出来ました」
「お、早速専属軍が役立ったか」
「はい、ハルト様の慧眼、恐れ入ります」
織田信長の真似をしただけなので心苦しい。
「シュボード、会談とは別の話だが、戦って勝てそうか?」
「それは間違いないでしょう。兵力ではやや劣りますが、魔法師団による戦車の配備も完了しておりますので」
「おー、戦車も間に合ったか」
「はい」
戦車の動力は魔石。エアフライボードの技術を応用してホバークラフトで駆動する。砲弾はエイダのステッキを参考にさせてもらった。魔石をエネルギー源としているので、砲手の魔力量に依存せず、強力な魔力砲を発射することができる代物だ。
「現場の指揮官は誰だ?」
「スタムフィールドです」
スタムフィールドは武勇に秀でたシュボードの腹心だ。
「よし、直ぐに向かおう」
「はっ!」
僕はシュボードと共に、スタムフィールドの元へ瞬間移動した。
「スタムフィールド」
「うおぉぉっ!ハルト様、シュボード様」
「ご苦労だな、戦況はどんな感じだ」
「相変わらず心臓に悪い登場ですね……軍使が来て以来、ロック軍に動きはありません。ハルト様がこちらに来られたという事は、ロック伯爵と会談されるのですね」
「ああ、そのつもりだ。早速使者を送ってくれるか?」
「承知いたしました」
早速使者を送りロック伯爵との会談は明朝行われる運びとなった。明朝会談が行われると分かり、我が軍は慌ただしく動き出した。夜襲と伏兵を警戒しての事だ。夜襲が行われるなら、会談の日取りが決まった今夜の可能性が高く、伏兵を備えるにも今夜の可能性が高いからだ。
探知魔法で調べることも、飛翔で空から確認することも出来るのだが、ここはシュボード達に一任した。
___明朝、警戒していたような事は起こらず、予定通り会談が行われる運びとなった。我が軍と、ロック軍中央辺りに会談の場が設けられ、双方3名の付き添いが認められた。
僕はシュボードと衛兵2名を共とした。スタムフィールドと魔法師団団長のガイカンが付いてくると申し出たが、指揮官クラス総出で会談に臨むのはリスクでしか無いので、留守を任せた。
会談の場に人影かひとつあった。髪を1つに束ねたプレートアーマーを着用した女性だ。
「貴方がグーテンベルク伯爵か」
「ああ」
「私はロック領、領主のロックだ、会談に応じてくれて感謝する」
ロック伯爵が女性だった事にも驚いたが、ロック伯爵が単身で会談に臨んで来た事に更に驚いた。一応、辺りを探知で調べたが、変わった様子は無い。
「伯爵のお噂はかねがね」
「前置きはいい、早速本題に入ろう」
「フッ、そうだな……」
「ではまず、挙兵の理由を聞かせて貰えるか?」
「此度の伯爵の施策に対する反発だ」
「直球だな……」
「直球?」
「包み隠さず単純明快的な意味だ」
「そうだな、直球だ。伯爵の施策では家臣を養えん、即刻施策の撤廃を要求する」
「それは出来ない、我が領の税は重過ぎだ、領民の負担を考えた事はあるのか?」
「勿論だ、だが我等も理由なく重税を強いている訳では無い、魔族から領民を守る為には金が必要なのだ」
「魔族だと……ロック領には未だに魔族が出没するのか?」
「出没なんて生温いレベルではない、頻出だ……我が領では魔族との戦いが日常的に行われている」
「日常的にだと……何故国に報告しない?」
「したさ!!……だが、自領の事は自領で対処しろとの一点張りだ……」
僕は報告を受けていない。ブロエディ時代の頭からアップデートされていないのかもしれない。
「……それで、挙兵か……その兵、魔族に向けた方が良かったんじゃないのか?」
「みすみす兵達に犬死にしろと言うのか?魔族狩りを生業にしているプラチナランク冒険者ですら、防戦で手一杯なんだぞ!」
そんな冒険者が居ることを初めて知った。
「つまり、魔族よりは僕に兵を挙げた方が勝ち目があると?」
「当然だ、伯爵の活躍は聞き及んでいる、だが人の噂は誇張されて伝わるものだからな」
「なるほど、言い換えれば魔族の問題が解決されれば恭順すると言う事だな」
「……もし……それが出来るのならな」
「分かった、僕が直ぐに対処しよう、魔族と対峙している冒険者の元へ案内してくれ」
「我等は反旗を翻したと言うのに……やけに寛大だな」
「まだ、戦っていない。領主とは言えお前もグーテンベルクの領民だ。僕にはお前達を守る義務がある」
「噂通り女にあまい男だな」
そんな噂が流れていたとは……もしかして1人で来た理由はそれか?!
___僕はロック伯爵に案内され、魔族との防衛線に向かった。シュボードに猛反発を食らったが家臣達は皆、自陣に残してきた。
「ロック伯爵、お前まで付いてくることはなかったんだぞ?」
「自領の問題を解決してくれると言うのに領主が行かなくてどうする」
「いざという時は逃げろよ……魔族はたまにとんでもない奴が混ざっているからな」
「承知した」
魔族との防衛線には馬防柵と簡易的な砦が設置されていた。そして冒険者の表情は自信に溢れている。魔族相手にこの程度の備えで自信満々の冒険者を見て違和感を覚えた。
「なあ、ロック伯爵、魔族は何故一気に攻めてこないんだ?魔族がその気になれば、ここの撃破は容易いと思うのだが」
「結界だ」ロック伯爵は灯台のような建築物を指差した。
「結界?」
「魔族の狙いはあの結界だ。魔族はあの結界の元だと力を発揮できんようなのだ」
結界が冒険者の自信の正体なのだろうか。
「なら、あの結界を量産すれば良いんじゃないか?」
「それが出来ればそうしている……あの結界は、神々が設置した封印の結界なのだ」
「封印の結界……何が封じられているんだ?」
「邪竜と言う噂だが……」
「邪竜……」
僕は結界に触れてみたが、何も感じられなかった。本当に邪竜が封印されているのだろうか。
「で、魔族は向こうからやってくるのか?」
「そうだ」
魔族がやってくる方向を探知で調べるとバッチリ反応があった。魔族が10人その中に1人、強い魔力の持ち主がいる。後は恐らくミノタウロスとグレンデル。合わせて500頭は居るんじゃないだろうか。因みに邪竜は探知にも掛からなかった。
「ロック伯爵、魔族は10人程度この中に1人強力な魔力の持ち主がいる。他は強力な魔物、恐らくミノタウロスとグレンデルが500頭近くいる。いつもこんな規模で攻めてくるのか?」
「ば……馬鹿な!毎回そんな規模で攻められたら、とっくに我が領は滅んでいる……ここにいる人数を見ればわかるだろ……何故そんな大規模の……」
ロック伯爵は周囲を見渡し、不安そうな表情を浮かべていたが、最後には少し微笑んだ。
「皆のもの、撤退だ!」
「何故撤退なんだ、俺達はまだまだ戦える」
「今の話を聞いただろ?500頭の魔物に10人の魔族だぞ?どうすれば勝てると言うのだ!」
「フッ、俺たちは魔族専門の冒険者だぜ?その程度……見くびってもらっちゃ困る!」
「それは蛮勇だ!」
「ご領主様は報酬を用意して待っていてくれたらいいですよ」
なんとなく読めた気がした。
「伯爵、貴方だけでも撤退してください」
「ん、僕はお前達を守る義務があると言った筈だぞ?」
「やめてくれ伯爵、我が領の為に貴方ような人を失う事になれば、私は後世まで汚名を受けてしまう……」
「いや、でもな……ここでロック伯爵を放置ってのもどうかと思うぞ……きっとお前の重臣達が怒り狂うぞ?」
「確かにそうなのかもしれないが……」
そうこうしている間に魔族軍が現れた。
「伯爵!貴方は早く撤退してくれ!」
ロック伯爵が、僕の前に競り出そうとしたが、それを制した。
「あーもう、グダグダ言うな……お前は僕が守ってやる……僕に従え」
僕は魔族との戦いに身を投じる事にした。
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