第3話 冒険者登録
僕は今シャワーを浴びている。この世界の文明レベルは分からないけど、毎日の習慣だったシャワーがこの世界にもあるのは嬉しい限りだ。
なぜ僕がシャワーを浴びてるのかだって?
それはエイルにすすめられたからだ。
なぜエイルにすすめられたのかだって?
そんなの、決まっている……
血痕を洗い流すためだ……。
エイルに、買い物に付き合ってほしいと頼まれたのだが、さすがに血痕が酷すぎて一緒に出歩くのは嫌だ、恥ずかしいと言われた。まずシャワーを浴びてきなさいとのお達しで、ご厚意に甘えている。非常にありがたい、正に怪我の功名だ。
____そして僕は、洗面所の鏡に映る自分の姿を見て、今日1番の衝撃を受ける。
「なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!」
思わず叫んでしまった。誤解して欲しくないでの先に断っておくが、僕はみだりに叫んだりするタイプではない。
鏡に映った自分の姿が、記憶にあるそれと、あまりにもかけ離れていたからだ。自分であることに変わりはない……だが若返っていた、恐らく17歳の頃の自分だ。元の世界では37歳だったから20も若返ってしまったことになる。これも身体強化の一環なのだろうか?それとも、あの時打ち込んだ新薬の影響だろうか?……しかし体つきがヤバイ。
体つきに関しては、診察室で服を脱いだ時や、シャワーを浴びている時に予感めいたものは有った。だが、これ程までとは想像していなかった……
「今の何!ハルト何かあったの?!」
僕の悲鳴を聞いてルナがノックもせず脱衣所に駆けつけた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「アンタはなんて格好してるのよ!!!」
「いや、だってシャワー浴びてたんですよ!」
「早く向こう行きなさいよ!!!」
「このまま出て行ったら捕まりますよ!」
「なんてモノ見せるのよ!!!」
「ひぃぃなんかごめんなさい!」
「ハルト、ルナ、何かあったの?!」
僕たちの悲鳴を聞きつけて、エイルがノックもせずに入ってきた。
「あら」
エイルは冷静に僕をガン見した。
「お楽しみ中かな、お邪魔だったね」
「違うわよ!!!」「違います!」
「ていうか、2人ともそろそろ出て行ってください!流石に恥ずかしいです……」
「てへ、ごめんね」「言われなくても出ていくわよ!」
やっと2人とも出て行ってくれた。ラッキースケベの逆バージョン……誰得なんだろう。
____僕は身支度を整え診察室に戻った。2人は診察室で雑談をしていたようだ。
「お待たせしました」
「さっきはごめんね」
「いえ、大丈夫です。シャワーありがとうございました。やっとスッキリしました」
エイルにじーっと見つめられた。エイルは明るいブロンドのショートヘアー、目元パッチリの可愛い系女子だ。スタイルもバッチリで、巨乳までは行かないまでも大きい方だ。むしろベストサイズと言っても過言じゃない。
「やっぱり!」
「うん?」
「ハルトってやっぱりイケメンだよね!」
「えっ」
そんな事、言われたこと無いので、どうリアクションしていいのか分からない。でも、嬉しい。エイルみたいな可愛い子に言われると、それだけでプロポーズしてしまいそうだ。
「ルナもそう思わない?」
「な、な、な、何言ってんのよ!普通よ!普通!」
「ルナもそう思ってるみたいだよ」
「えっ」
「ほら、あの子素直じゃないから」
確かにそんな感じがするけど……
「あはは……」
「く……くだらない事言ってないで、サッサと行くわよ!」
ルナも付いてくるようだ。
「ルナは帰還アイテム買うんだって」
「あ、さっき消費したからですね……僕に……」
「別にアンタの為にやったわけじゃないわ」
「はい……」
素直じゃないと聞いても……全てその解釈でいいかは判断できない。
「ところで、魔石って換金出来るのですか?」
「ん?出来るよ」
「何処で出来るのですか?」
「「ん?」」
「……ハルトって今までどうやって生きてきたの?」
「普通に……ですけど?」
「バーカ普通じゃないわ、普通なら今の質問は出てこないもの」
「皆んなが知ってる常識だからね」
「そうだったんですね……」
「……ギルドよ、ギルドで冒険者登録したら換金できるようになるわ」
「なるほど……ギルドの冒険者登録って有料ですか?」
「身分証があったら無料だけど、ない場合は5000ペイかな」
通貨単位はペイ、この世界にもキャッシュレスは浸透しているのかと思ってしまった。僕はヒップバッグから魔石を一掴み取り出した。
「これを換金したら幾らぐらいになりそうですか?」
「「え」」
「ハルト……こんな量の魔石、一体何処に?」
「ここです」
ヒップバッグを見せた、ついでに魔石を収納した。
「もしかして、空間収納なの?」
「はい、これもフレイヤ様の頂き物です」
「と言うことは……当然、暴走抑止は付与されてるのかな?」
「はい」
「そう……恐らく10万ペイにはなると思うけど……」
「おお!」
物価が元の世界と同じなら、当座の資金には困らなさそうなのだが……
「あの……厚かましいお願いなのですが、お二人のどちらか、これを担保に5000ペイ貸していただけませんか?」
「それぐらい構わないわよ」
「ルナさん、ありがとうございます」
「じゃあ、ギルドから行こっか、ここから近いし」
「いや、そこまでして頂かなくても、買い物終わった後、1人で行きますよ」
「ダメよ、ハルトを1人で行かせる方が不安だもん……今のを聞いちゃうと……」
「……なるほど……」
「分かったらサッサと行くわよ」
ギルドは街の中心部に位置しており、レンガ作りの洒落た外観が特徴的だ。外観に負けず劣らず、内装や調度品もレトロでいい雰囲気を醸し出している。
訪れた時間帯が中途半端だった為かギルド内は閑散としていた。
「あ、ルナ様!」
「どうも、リトン」
「エイル様もご一緒なのですね」
「こんにちはリトン」
「クエストですか?」
「ちがうわ、今日は彼の登録の付き添いよ」
「おっ!ご新規様ですね、どうぞこちらへ!」
ルナや、エイルとも顔なじみのギルド職員、リトンが僕を担当してくれるようだ。リトンは少し小柄の可愛い系女子だ。明るめの茶髪でエイルよりも若干短い、恐らくタレ目がチャームポイントだろう。
「身分証をお持ちですか?お持ちでない場合は登録料が5000ペイになります」
「これでお願い」
ルナが登録料を支払ってくれた。
「あれ?……お二人はどのようなご関係で?」
「たっ、ただのパーティーメンバーよ!少しの間、パーティーを組むことになったのよ」
「ルナ様とパーティーって事は……かなりお強いのですか?」
「さぁ、知らないわ」
「全然さっぱりです」
「えーなんで、そんな方が勇者様と同じパーティーに?」
「決まってるじゃない、イケメンだからよ!」
エイルが割って入ってきた。
「おー確かにイケメンです、しかも身長も高いし、体つきも…………じゅるっ」
「だめだよ?リトン、ルナのお気に入りなんだから」
「えーそうなんですか」
「違うわよ!!!誰がこんなヘタレ」
「ヘタレって……」
異世界に来て最強チートを手に入れてもヘタレ評価は変わらないらしい。
「アンタもデレデレしていないで、さっさと済ませちゃって!」
「……は、はい……」
(デレデレなんてしてないのに……)
「あはは、なんかゴメンね……では、この水晶に手をかざしてください」
どうなるのか聞きたかったが、常識的なことだったらルナやエイルに迷惑を掛けるかもしれないので、平静を装った。水晶に手をかざすと、どう言う仕掛けか水晶が輝き、職員が用意したプレートに文字が刻まれる。
「ハルトさん、冒険者ランクはブロンズ、適正職はガンナー??」
「ガンナー?って何よ?」
「私も初めてです」
「私も知らないよ」
「なんなのハルト?ガンナーって?」
「銃を使う人のことだと思います」
「「「銃?」」」
「銃知らないのですか?」
僕はホルスターから普通に拳銃を取り出した。
「これです」
「それが、何なの?」
「ここから魔力の塊が放出されて敵を撃ち抜くんです」
「「「へー」」」
「変わった武器だね」
「ところで、ブロンズって何ですか?」
「「「え」」」
また常識的な事を聞いてしまったらしい。
「えーとですね、冒険者にはブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤのランク付けがありまして、ブロンズは1番下のランクなんです」
「なるほど」
「ブロンズだと、受けれないクエストも沢山ありますので、頑張ってランクアップしてください」
「はい!」
「ハルトさんこれどうぞ」
冒険者ガイドブックを受け取った。
「これに詳しく書かれていますので、一通り読んでおいてください」
「わかりました、ありがとうございます。ところで魔石を換金したいのですが?」
「あちらの換金窓口に行ってもらっていいですか?」
「わかりました。ありがとうございます」
早速ヒップバッグにたまっていた魔石を換金すると、全部で225万3400ペイになった。もちろんルナに借りた5000ペイは直ぐにお返しした。僕の命懸けの初任給はなかなかのものだった。
「ハルトすごーい!お金持ちになっちゃったね!」
「無駄遣いに気をつけないとですね!」
「ハルト、アンタその魔石どこで……まさかブルーオーシャン?」
「はい、ブルーオーシャンです」
「ど、どうやって回収したの?」
「このヒップバッグに自動回収が付与されてるので……」
「………フレイヤ様……ずるいわね」
ルナの言う通りだが、そのおかげでこの世界での支度金が出来た。
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