夏休みと幸せの黄色いハンカチ

あいる

前編🍀夏休みと幸せの黄色いハンカチ

 父さんと僕は毎日のように映画館へ通う

 夏休みに入ってからこの映画館で毎日過ごす。

 父さんはこの町唯一の映画館で古い映画を上映するのが仕事だ。

 昔はおじいちゃんがやっていたそうだけど、僕が赤ちゃんの時に死んじゃったから、ぜんぜん知らない。


 そして今は父さんが映写室でフィルムをセットしてスクリーンに写すのが仕事なんだ。


 僕がロビーで夏休みの宿題をやっていると、いつもチケットを売っている保江おばさんが声を掛けてくれる。

「毎日退屈だろ?いつもお父さんに連れて来られて…」

「ううん、大丈夫だよ僕も映画好きだし」

「そうかい…」

 おばさんには本当は僕が嘘を付いてるのはバレてると思うんだ。

 だけど何も言わずにラムネや駄菓子を持って来てくれる。

 母さんが帰って来なくなってから学校が休みの日や春休み、そして今の夏休みと毎日ここに通っている。

 たまにはお客さんが多い時もあるけど、ほとんどがガラガラだ、友達と遊びたいと思うこともあるけど、みんなお盆が近づくこの時期は遠くにいるおじいちゃんやおばあちゃんの家に行くみたいだ。


 でも、もしかしたらここが僕にとってはおじいちゃんの家のような気がしてくる。


 映画館では数日ごとに違う映画を流している。

 そして映画も古い映画らしい。


 どの映画も1度は観ているし気に入ったら何度も観るんだ。

 冒険ものなんかも好きだけど、血が余りでない時代劇も好きだ。だって悪い人を退治するんだよ。


 でも昨日から始まったばかりの映画に僕は釘付けになった。

 何だか最後まで観ると涙がポロポロ流れてくる。

 だから何回も何回も観たよ。

 何だか母さんが帰ってくる気がしてくる。


 毎日お月様に「明日こそはは母さんが帰って来ますように」ってお祈りしてることがもしかしたら届いているんじゃないかと思うんだ。

 だからその映画の中に出てくる女の人みたいにたくさんの黄色いハンカチを僕の家の玄関に飾りたいくらいだし本気で飾ろうと思う。


 帰って来てくれるかな?


 だからおこづかいを貯めるために保江おばさんのお手伝いや父さんのお手伝いをする事にした。


 でも幸せの黄色いハンカチってどこに売ってるんだろう。


 遠い町のジャスコなら置いてあるかなぁ?


 さぁ今日も頑張るぞー!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る