第245話 急降下攻撃

12連勤がやっと終わりました。若いときのようにはいきませんねぇ。

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 アイソル帝国皇帝オレーク・アイソルとイオアン・ナボコフ辺境伯にそれぞれ昨日にもらった書簡の返事を書いて朝一番で冒険者ギルドに依頼に行く。その後は、行政庁舎に出勤して仕事を済ませて、お昼からお休みをとる。


 なんかね、ルーデル大佐が見せたいモノがあるそうなんだよねぇ。エドワーズ空軍基地の食堂で大佐と共にお昼を食べる。


「それで、大佐が見せたいモノって何なのかな?」


 大佐は牛乳を一口飲み、


「そうですな、一言で言うと“急降下爆撃”を体験させた実績。というところですかな。あと、面白いモノを作りましたので、教官のディルク殿とベルント殿に試してもらおうかとも思っております。」


 ジョージが何かを知っているかな?と思い視線を向けると首をかしげていた。


 お昼を食べ終わったら少しだけ食休めを行なってから、指定された訓練場へと向かう。地上から見て欲しいんだってさ。そこには錬成中である完全装備の陸上領軍兵と教官のボブ達がいた。


「ボブ・コンラッド海兵隊最上級曹長、これはどういうことかな?私はハンス・U・ルーデル大佐より龍騎士ドラグーンの錬成を行うと聞いていたのだが?」


 僕は辺境伯として振る舞う。ボブは答礼しながら答えてくれる。


「ガイウス閣下におかれましては、ただ“陸上部隊のそばで見て戴くように”とのご命令を大佐より預かっております。」


「ふむ、わかった。ん?あれは・・・案山子かかしかね?」


 視界の隅に木組みの等身大の人形が地面に固定されるのが見えたので聞いてみた。周囲を長槍と大盾を持った兵士が囲んでいる。


「はい。今回の標的となっております。」


「わかった。で、私は何処で見ておけばよいかな?」


「あの標的の近く以外でしたらどこでも。」


「では、コンラッドSgtMaj (Sergeant Major)と一緒にいることにしよう。」


「了解。」


 そうして、しばらくボブ達と雑談をしていると悪寒が走った。上空を見上げると、大体高度300m付近に錬成中なのに完全装備の龍騎士ドラグーン達がいた。先頭にディルク義兄さんとベルント義兄さん、そしてルーデル大佐を乗っけている飛龍王ワイバーンロードのヘラクレイトスがいるからすぐにわかったよ。飛龍ワイバーンにも鎧をつけているねぇ。


 ルーデル大佐が先頭になり、上空を周回しながら手旗信号を送ってくる。それを双眼鏡で確認したボブが返信する。内容は“迎撃準備、ヨロシ?”“準備完了”この2つの文だけだった。すぐに陸も空も動き始める。僕は【遠隔監視】でルーデル大佐と義兄さんたちの様子を第三者視点で手元に映し出す。


『さて、ディルク殿、ベルント殿、準備はよろしいですかな?』


 高度300mを180km/h以上の速度で旋回しているヘラクレイトスに騎乗したルーデル大佐が義兄さんたちに声をかけている。勿論、普通に話すだけなら意思疎通なんて無理なんだけど、【風魔法】が使えないルーデル大佐の代わりにヘラクレイトスが上手く【風魔法】でルーデル大佐の言葉を義兄さんたちに届けている。


『ええ、大丈夫です。』


『大佐殿に従うまでですよ。』


 その言葉にルーデル大佐はニヤリと笑みを浮かべて、ヘルメットバイザーを下げ、マスクを固定する。それを真似るように義兄さんたちも兜のバイザーを下ろす。


『では、蹂躙を。』


 その一言でヘラクレイトスをはじめとした3騎の飛龍ワイバーンが翼を折り畳み急降下を始める。降下角度は大体60°から70°の間かな。地上から見るとほぼ直角に下りてきているように見える。


「総員、迎撃用意!!弓と【魔法】は射程に入り次第攻撃開始!!防衛目標には指一本触れさせるな!!」


 凛とした声のした方を見るとヒルトルート・アドロナ姫が指示を出している。今回の陸上部隊の指揮官役だね。各所で「了解。」の声が上がり、まずは各【魔法】が放たれる。【魔法】と云っても、攻撃力のほとんどないもので、【火魔法】なら「アチッ!?」と思う程度のモノで火傷もしないモノだよ。でも、本物の【魔法】には違いはないし、やじりの代わり丸めた布が先に付けらている矢も本物だ。殺傷能力が無いだけ。


 それがたった3騎の龍騎士ドラグーンを襲う。と同時に不気味な音が響き始めた。ヘラクレイトスの周囲から出ているみたい。飛龍ワイバーンの咆哮ではないね。“ボオオォォォォォォッ!!”という威圧的な音が響き渡る。


「ただの威圧音だ!!怯むな!!」


 そう言いながらヒルトルート姫も【水魔法】を放っている。でも、ルーデル大佐たちは怯まずに突っ込んでくる。義兄さんたちが騎乗用の長槍を(5mぐらいあるよ)構え直す。まだ翼は折り畳んだまま。速度は300km/h近く地上まで80mを切っている。そろそろ翼を広げて減速しないと地面と衝突しちゃうよ。


 そんな僕の不安をよそに【遠隔監視】では降下し続けながら【風魔法】を使用し【魔法】や矢の弾道をらして地上に迫る3騎が映し出される。あと30mというところで、


『減速!!引き起こし!!』


 ルーデル大佐が指示を出す。すぐにヘラクレイトスをはじめとした3騎の飛龍ワイバーンが騎乗者の意思を汲み取り、翼を広げ、減速する。その翼目掛けて攻撃が飛来するけど【風魔法】でらされるか装備している鎧に弾かれる。


 案山子かかしを防衛する陸上部隊から穂先の無い長槍が突き出されるが、それを抜群の技量で槍の間を縫うようにかわす。


 そして、減速で殺しきれなかった速度を威力に案山子かかしに長槍と飛龍ワイバーンの手足による攻撃が襲いかかる。一瞬で15体の案山子かかしが吹き飛ばされて、その攻撃の音が凄まじく“ダアァンッ”という轟音が走ったぐらいだからね。


 そして、ルーデル大佐たちは高度10mほどの低空を100km/h以上の高速で飛行し弓と【魔法】の射程外に出てから急上昇して旋回飛行をしている隊列に戻る。


 本当に一瞬だった。急降下から離脱まで60秒も無かったんじゃないかな。それよりも僕はあの音が気になったのでボブに聞いてみる。


「ああ、あれはですな。Ju87、シュトゥーカの“悪魔のサイレン”を基にしたモノですな。」


「なるほど。しかし、私が基地で資料として見た映像に付随していた音とは違うようだが?」


「プロペラ機などないこの世界では、獣の威嚇音に近い方が効果的だと判断されたようですな。まぁ、これから検証をしていくとのことでした。」


「わかった。ありがとう。」


 ボブと会話をしている間に吹き飛ばされた案山子がまた設置されなおす。


「次は防衛するぞ!!」


「「「応っ!!」」」


 ヒルトルート姫が檄を飛ばし士気を上げる。


 ボブが手旗信号“準備完了”を上空で旋回待機中のルーデル大佐に送る。大佐からは“了解”の返信が送られ、義兄さんたちが居た位置に候補生が2騎おさまる。なるほどねぇ。ルーデル大佐は先導役で候補生たちだけを入れ替えて、この急降下攻撃訓練を行うんだぁ。


 うん、とても恐ろしい訓練内容だけど死ななければ僕が治すから、存分に生と死の境目を体験して強くなってね。


 あれ?僕も結構ひどいことを言っているかな?

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