第237話 ダグラス・アシュリー

 昼食をしながらダグラスさんと助けた女性たちの話しをまとめると、ダグラスさんと彼女たちは臨時のパーティらしい。それでその理由が、まあ彼女たちの若気の至りとでも云うんだろうね。8級冒険者がパーティリーダーをつとめて、他は9級以下で構成された所謂いわゆる駆け出し卒業組とでも云うべき彼女たちが黒魔の森の依頼を受けるのを偶然にも知ってしまったダグラスさんが先達せんだつとして手助けを申し出てこうなったみたいだね。


 ちなみに、彼女たちの依頼は浅い層に出没するゴブリンの討伐だったらしい。3体をダグラスさんの護衛のなか倒した彼女たちは、彼の制止も聞かずにもう少し森の中に入っていって、この結果。ダグラスさんがいなければ、彼女たち、死体になっていたかもねぇ。ゴブリンナイト達の役目は食料調達だったみたいだし。


 でも、ダグラスさんはそんなことは気にしていないみたい。傷の治り具合をるということで、女性陣達と一旦引き離してから女性陣達の判断について聞いたら、


「冒険者よ?命をかける稼業なのだから、今日、明日死んでもおかしくないわ。それを今回運良くガイウス閣下達に助けてもらった。それが事実としてあるだけよ。もし、あそこで退いてもゴブリンナイトと会っていたかもしれないわけだし。」


 そして、今はステーキとスープを豪快に、でも貴族らしく綺麗な所作で食べている。あ、口調は話しやすい方で砕けた感じでいいよって許可したよ。僕もそうするからと伝えて。


「いやー、ホントにガイウス閣下には感謝してもしきれないわねぇ。雛鳥ちゃんたちもしっかりと癒してくれたようだし。」


「聞けばダグラスさんが彼女たちを逃すために殿しんがりつとめたのでしょう?そちらのほうが称賛されるべきかと思いますけどね。」


「やーねー。若い子を生き残らせるために逃がすのは年長者として当然だと思うけど?」


「・・・ダグラスさんもまだお若いはずでは?」


「もう、28歳よ。兄上や姉上、妹たちは結婚して子を成しているけど、自由業のあたしは四半世紀を過ぎても伴侶もいないダメダメよ。親には孫の顔を見せてあげたいとは思っているのだけどねぇ。」


「このようなことを聞くのは失礼かもしれませんが、ダグラスさんの恋愛対象は異性でしょうか?」


「ええ、そうね。普通の男と変わらないわよ。ああ、この口調のせいね。兄上とはだいぶ歳が離れていて、歳の近い姉妹達に挟まれて育ったから、この女性言葉と云えばいいのかしら、それが身についてしまったのよね。勿論、公私はしっかりとわけるわよ?」


「確かに。先程の自己紹介もしっかりとしたものでしたね。」


「でも、まあ、この口調のせいで同性愛者と勘違いされることもあるのよねぇ。で、女性冒険者は警戒しないでボディタッチが増えるから、男としてのあたしは困るのよねぇ。あ、雛鳥ちゃん達は別よ。臨時とはいえ一緒にパーティをあたしを信頼して組んでいるんだもの。その信頼を裏切る気は無いわ。それに、あちらもその気はないでしょうしね。」


 そう言って、視線をクリス達女性陣へと向ける。


「なら、ここで会ったのも何かの縁です。僕の寄子の貴族家から歳の近い未婚の女性を紹介してもらうようにしましょうか?ゲーニウス領では、4級冒険者なら再編中の領軍に入れば最低でも最初の数カ月は分隊長並みの給金が出ると思いますし、すぐに昇進できますよ。地に足のついた生活は保障しますよ?」


「有り難い申し出というか提案なんだけどねぇ。家が中央、まあ、王都よね。そこで代々軍人として活動してきたから、ここ、ゲーニウス領で仕官したらいらぬいさかいを生みそうなのよねぇ。」


「ああ、分家問題というやつですか?なら、文官としてはどうですか?冒険者は休日に臨時収入を得るためにやるということで。」


 体型の良い、強面こわおもてのダグラスさんが文官仕事をしているのは想像しにくいけどね。でも、これならそんなに問題ならないのではないかな。中央の本家が武官、地方の分家が文官として家名を残すのもアリだと思うんだけど。


 しばらく思案していたダグラスさんが口を開く。


「ふむ、まあ、少しは言い訳として使えるわね。でも、いきなり本採用はダメでしょう。・・・ん、ゴホン。ガイウス閣下、確かに私は学院アカデミーで学びましたので文官仕事もできましょう。しかし、最初は冒険者である私、ダグラスに指名依頼で行政庁舎の仕事をまわしてほしいのです。そうですな・・・、一月ひとつきほどを試用期間とすれば本採用した場合にも周囲も納得するでしょう。」ダグラスさんが貴族モードで話すので、僕も言葉遣いを変える。


「うむ、ならばそのようにしよう。・・・さて、それでは、昼食もそろそろ終わりですね。ニルレブに帰りましょう。我々と同行しますよね。」


「勿論よ。私の実力では雛鳥ちゃん達を守れなかった。それは事実だわ。」


「では、出発の準備を。・・・豊久!!こっちへ。」


 ダグラスさんが女性冒険者の方へ向かうと周囲警戒にあたっている島津隊の指揮官、島津豊久を呼び寄せる。


「どげんかしましたか?」


「うん、ダグラスさん達を襲ったゴブリンナイト達の根拠地を叩いて欲しい。方位と距離、【気配察知】でさぐった規模はここに書いてある。」


「ほう、ダグラスどんのかたき討ちと。んにゃ、まこち多かなぁ。根切ねぎりにすっで、率いている全部隊を動かしもす。」


「うん、護衛はここまでで大丈夫。連絡要員としてジョージを連れて行くかい?」


「んにゃ、大丈夫でごあんど。1日遅れで、クレムリンには着到致しもす。」


「では、行動を開始。」


「はっ!!」


 すぐに豊久は部隊の所に戻り、指示を出し始める。航空支援でルーデル大佐達に任せてもよかったけど、ダグラスさん達が驚くといけないからねぇ。ああ、銃は魔法使いの杖のようなものとして誤魔化しているよ。・・・うん、ダグラスさんだけは誤魔化せてなかったみたいだけどね。ま、いいさ。


「ガイウス殿、みんな、出発の準備が整いましたわ。」クリスが報告してくれる。僕は首肯し、全員に告げる。


「よし、ではまずは黒魔の森から出るのを最優先に。魔物は進路をふさぐモノ、襲ってくるモノ以外は無視で。移動速度を重視するように。」


 了承の返事を確認して、移動を始める。それで、森を出るまでに思ったことはダグラスさんの実力の高さと女性冒険者達の実力の低さかな。バランスとれてないねぇ。女性冒険者達の名前は特に聞かなかったけど、ゴブリンナイト達から奪い返した装備品とかを見ると、まあ、孤児とかではないよね。装備品のおかげで依頼クエストをこなしてきたんじゃないかと思うくらい。


 級の近いクリスやローザさん、エミーリアさんも気づいたようで、彼女たちが戦闘に参加する前に出会った魔物を殲滅していく。僕がクリスの近くに行ったときに、


「なんで、彼女たち、黒魔の森にもぐろうと思ったんでしょうね。」


 と呆れた感じで言ってきた。いや、僕にもわからないなぁ。わかるのは、家名もちじゃないからどこか比較的金銭に余裕のある家の出なんだろうということぐらいかな。あと、ワー、キャーとウルサイってこと。よくダグラスさん見捨てなかったね。貴族の義務が叩き込まれているのかもね。

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