第226話 夜戦・その3

短くて申し訳ありません。

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『全滅だと!?参謀長。』


『はい、あの炎壁を【土魔法】の得意な者に突破させ、状況を確認しました。砦の後方にて多数の飛竜ワイバーンと騎乗者の遺体を見つけたとの事です。』


『叔父上の、公爵家の竜騎士団だぞ!?それにあの遠雷のような爆音が響くごとに兵が吹き飛んだとも聞くが本当の事か?』


『はい、事実です。後衛もだいぶやられました。被害報告が上がってきていますが5体満足の遺体が無い場合もあり、確認に時間がかかっています。また、20分ほど前からそれらの轟音は消え去りました。』


『・・・空が白み始めたな。嫌な予感がする。だが・・・、グゥ・・・、子爵・・・薬を寄越せ。』


 ふむふむ。現状を認識し始めた感じかな。僕たちは補給所を占拠しながら奪還しようとする帝国兵を撃退している。【遠隔監視】に映るプローホルはヒュー参謀長からの報告を聞いて機嫌が悪そうだ。そうそう、嫌な予感はもう少しで当たるよ。良かったね。


『ガイウス卿、敵前衛を完全に制圧しました。』


「『流石は呂布に豊久だね。』」


『ミスター豊久は最後、先陣切って銃剣突撃していましたけどね。』


「『豊久らしいね。追撃は?』」


『呂布隊が行なっています。無理をしないようにとはお伝えしました。』


「『わかった。ありがとね。』『スカイウォッチャー、レンジャー連隊の到着時刻は?』」


『あと300秒で各降下地点に到着します。』


 よし順調だね。それじゃあ、もっと目立つかな。


「さあさあ!!誰がこのアドロナ王国辺境伯ガイウス・ゲーニウスの首を獲る!?護衛は8人!!私は成人には程遠い12歳だ!!帝国人は臆病者揃いか!?」


 挑発したけどのってこないなぁ。半包囲したまんまだ。


「こないならば此方から参る!!突撃!!」


 魔法は使わずに槍だけで帝国兵を討ち取っていく。人を殺すことに慣れてきちゃったね。仕方がないけど。人型の魔物を殺してきたからかもしれない。でも、魔物と違ってヒトはあの絶命する瞬間の表情が違う。驚き、絶望、悲しみの入り混じった顔をするんだ。魔物は最後まで敵意むき出しだけどね。


 しばらくすると、空から頼もしい音が響いてくる。レンジャー隊員を乗せたMH-60“ブラックホーク”の到着だ。彼らは素早く降下地点に向かう。降下地点は少し陣よりも離れているけどそれでも歩哨はいる。それらをブラックホークの側面に備え付けられたM134 7.62mmガトリング砲“ミニガン”がヴゥゥゥゥゥという発射音と共に倒す。


 ロープによる降下が終了すると、ブラックホークは高度を少し上げ上空援護に着く。レンジャー隊員たちは班ごとに決められた場所を襲撃していく。これで中衛と後衛がさらに混乱に陥る。


『ガイウス卿、呂布隊が敵の捕虜を得ましたが、どうしますか?』


「『う~ん、味方で負傷した人はいる?』」


『おりますよ。』


「『それじゃ、その人達に捕虜の監視と治療をお願いして、残りは進軍を続けて。合流しよう。ああ、魔法が使えないように拘束してね。猿轡さるぐつわを忘れないように。』」


『了解しました。』


 そんな通信をジョージとしているとフリードリヒさんに敵の下級指揮官らしき人物が一騎打ちを名乗り出た。フリードリヒさんも承諾し、一旦お互いの攻撃が止まる。フリードリヒさんと相手は同時に馬を走らせる。すれ違いざまにフリードリヒさんは相手の槍を躱しつつ自分の槍を180度回転させ石突で相手の腹部を打つ。相手はそのまま落馬した。頭を打ったのか気を失ったみたいだね。


 指揮官が一騎打ちで負けると、その指揮下の部隊が戦わずに降伏してきた。いや、まあ、僕としては有り難いけど、2個小隊、100人近くの捕虜を得ることになっちゃった。取り敢えずは、【土魔法】で大きめの金属製の入口と上部に空気穴の開いた箱をいくつか作り、それに分かれて入ってもらう。全員が入ったのを確認してから入口を【火魔法】で溶接する。監視も置かない。戦意が無かったからこれで充分でしょ。最後に、


「逃げたれば勝手に逃げればいい。その代わりに戦場に身を投げ出すことになることを忘れるな。その箱の中にいるかぎり命は保証する。」


 と釘を刺して前進を続ける。あの箱かなり丈夫に創ったんだよね。チタンと超硬合金を混ぜて創っているから航空攻撃の誤射にも耐えられるはず。


 レンジャーのほうでも銃という今まで存在しなかった武器による攻撃と未知の威力に屈した敵が降伏することが多くなってきたみたいだ。まあ、仕方ないよね。弓よりも遠くから正確に早く撃ってくるんだもの。魔法なんて詠唱している時間は無いし、無詠唱や詠唱短縮が出来たとしても心理的な恐怖には抗えないよね。


 そして、さらに心理的な重圧をかける存在が舞い戻ってきた。


『スカイウォッチャーより、全部隊へ。イーグル隊が補給を終え、戦線に復帰した。近接航空支援の必要な部隊は援護を受けられる。』


 空の魔王が轟音と共に死を届けに。この轟音でさらに心が折られた部隊が続出した。僕達が呂布隊と島津隊と合流する時にはあちこちに捕虜収容箱が出来ていた。どんなモノか呂布と豊久に説明すると少し呆れられた。敵の命を大事にし過ぎだってさ。まあ、でも、そこが僕の良いところだとも褒めてくれたけどね。


 さて、では後衛を潰してプローホルと会おうかな。

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