第223話 開戦

 イオアンさんとは話し合って、お互いに攻撃をしないことを取り決めて、帝国の国境砦についても攻撃を行わないことにしたよ。ということは国境にある緩衝地帯での野戦になるね。


 そんで、今は8月3日の水曜日。8月1日の月曜日にヘニッヒさんにまた仕事を任せてツルフナルフ砦に詰めているよ。そんな僕にお客さんが来たみたい。呂布と豊久が護衛のように立っている砦内の応接室にプローホルからの使者という人が入ってくる。曰く、


“海戦で捕虜となった帝国貴族、臣民を返還しなかったのはプローホルの意思に背くことだから僕ことガイウス・ゲーニウス辺境伯を討伐する。命が惜しければ金と泣いて謝罪に来て、捕虜を無条件で還せ。”


 というもの。上からの目線の口上で豊久がキレて刀に手をかけたけど視線を送りとどめて、使者の人にはお帰り頂いたよ。「子供のクセに生意気な!!」とか色々と叫んでいたけどね。まあ、その罵倒のおかげでツルフナルフ砦の兵士さん達と呂布隊、島津隊の士気が一気に向上したよ。


 RF-4Cで偵察したらナボコフ辺境伯領に軍が集結しているみたいだね。龍騎士ドラグーンはいないみたい。使者が戻ったら進軍するんだろう。取りあえず、ディルク義兄にいさんとベルント義兄にいさんをツルフナルフ砦に寄越してもらおうかな。


 明けて8月4日木曜日、10時ごろにディルク義兄にいさんとベルント義兄にいさんが到着したので、パーヴァリさんに2人の投槍を見せる。威力に驚いていたよ。騎兵に覚えさせたいみたいだったけど今回は時間が無いから見送りだね。17時過ぎにクリス達“シュタールヴィレ”の面々とJTACのジョージをシントラー領領都ネヅロンまで【空間転移】で迎えに行く。その後は、エドワーズ空軍基地にいつでも緊急出撃スクランブルができるように要請しておく。これで、僕が用意したい戦力と準備は揃ったかな。


 8月5日の金曜日は相手にも動きは無く。こちらも訓練のみで終わった。ただ、RF-4Cが撮った写真では進軍準備を行なっている様子が写っていたみたいでエドワーズ空軍基地からその旨の連絡があった。僕も【遠隔監視】を使ってプローホルの様子を見てみる。どうやら戻った使者の報告を受けているみたいだね。


 ちなみにプローホルの容姿なんだけど、肩までかかる長い金髪に薄い青みがかった瞳でギョロリとしているのに体はとても痩せていて、少し不気味なんだよねぇ。まだ、でっぷりと太っていた方が貫禄あっただろうね。ちょっと使者との会話を聞いてみよう。


『なんだと!!12歳の小僧に相手にもされなかっただと!!ふざけているのか!!』


『はい、プローホル様。全くもって度し難い子供でありました。ここはプローホル様の御威光をもって討伐していただかなくてはと思い、急ぎ舞い戻った次第でございます。』


『うむ。全軍の進発準備が済み次第、夜のうちに国境地帯へと移動する。そして、明日の朝には全軍にて奇襲をかける。イオアン・ナボコフ辺境伯の軍を借りることはできなかったが、それでも貴族連合25,000もの兵がいるのだ。それに私の近衛兵が1,500いる。国境砦などすぐに飲み込み、潰すであろうさ。』


 僕はそこまで聞いて【遠隔監視】を消した。油断しているね。貴族の私兵たちの士気はどうかなっと。下級指揮官をみてみよう。


『この度の戦、どう思う。』


『どう思うって、そりゃあ勝ちたいさ。しかし、ナボコフ辺境伯家は後方支援に徹することとなったし、国境のグチンメレ砦も(帝国側の国境砦の正式名称だよ。)防御に徹するとのことだったんだろう?嫌な予感しかせんね。』


『ああ、私もだ。』


『おお!!準男爵様がなんとなげかわしいことを!!』


『わざわざ芝居ががったことをするな!!・・・今、この天幕には私とお前だけだな?』


『?そうだな。2人きりで話しがしたいと言って立哨の兵にも少し場を離れてもらっているぞ。』


『プローホル第2皇子が中心となって立案した西部方面からの海路を使用した侵攻作戦は寡兵かへいに敗れたらしい。そのせいで帝国海軍の半数の船が撃沈もしくは鹵獲されたそうだ。』


『そんなの初めて聞いたぞ!?』


『王国方面から教会が救助用の艦隊を編成して負傷者などを助けていたらしい。その中に私の知人がいて話してくれた。』


『で、それがなんで今回のこの戦に繋がるんだ?』


『・・・その海戦の王国側の総司令官はガイウス・ゲーニウス辺境伯だったらしい。』


『本当か!?ああ、畜生!!』


『落ち着け。で、だ。私もお前も死にたくないし、部下を殺したくない。そうだろう?』


『ああ、そうだな。』


『私が1代限りとはいえ爵位持ちだったことに感謝しろよ?ナボコフ辺境伯家の後方支援部隊の指揮官は軍学校の同窓生で伯爵だ。』


『だから、なんだ?ナボコフ辺境伯家のお守りでもさせてもらおうっていうのか?』


『半分正解だ。ガイウス・ゲーニウス辺境伯はイオアン・ナボコフ辺境伯閣下に直接お会いして、ナボコフ辺境伯家の旗の下の部隊は攻撃しないとおっしゃったらしい。』


『!!だったら・・・。』


『ああ、そうだ。そいつに頼み込んだ。俺とお前、それとほかに3部隊は後方支援部隊の指揮下に入れてくれるそうだ。』


 前線で戦う人たちは命が軽くなっちゃうもんね。どこの指揮官も悩みは一緒かあ。まぁ、あれだね。今回のいくさについては懐疑的に思っている人もいるんだね。それがわかっただけでも儲けものかな?生憎とこちらは戦意が旺盛な人達が揃っているからね。手加減は出来ないよ。


 8月6日の2時ごろ砦内の部屋で寝ているとノックされたので短剣を確かめてから入室を許可する。入ってきたのはジョージだった。すぐに僕は明かりをつけて椅子に座るようにうながす。


「ガイウス卿、帝国軍がグチンメレ砦を越えて布陣しました。数は約26,000。砦内と帝国側には後方支援のナボコフ辺境伯家の旗を確認しました。そちらは約1,000。」


「よし、エドワーズ空軍基地とフォート・ベニングへ連絡して。SG2(第2地上攻撃航空団)及び第160特殊作戦航空連隊ナイトストーカーズの全力出撃準備とレンジャー連隊を出撃準備。僕と“シュタールヴィレ”、呂布隊と島津隊、龍騎士隊(ディルク義兄さんとベルント義兄さん)は0330より夜襲を行うから同士討ちを避けるためにSG2とレンジャー連隊の展開はが昇ってからと云うことも伝えて。」


「了解しました。それでは、送信後、自分も出撃準備を。」


「夜襲に加わるの?」


「はい。島津隊と合流しようかと。」


「ああ、それならいいね。僕はヘッドセットをつけておくからいつでも連絡をしてね。」


「了解。」


 そして、僕はパーヴァリさんに帝国の動きを伝える。


「ガイウス閣下の仰る通りになりましたな。しかし、本当によろしいのですか?騎兵小隊を2小隊のみで。」


「ああ、この砦の守備のために歩兵中隊と魔法使い小隊は温存しておきたい。騎兵小隊も最初は前線には出さずに追撃戦の時に使わせてもらう。」


「了解しました。それでは、これより本砦は第1級戦闘配置となします。騒がしくなりますが、ご了承ください。」


「頼んだ。」


 そう言って僕は厩舎に向かう。島津隊は徒歩かち移動となるのでもうすでに出撃したみたいだ。厩舎では呂布隊の兵士達が愛馬に鞍をつけて呂布のもとに向かい始めている。僕もいつも【召喚】する黒馬のツィリル(名前を付けたよ)に鞍を付けて跨る。ヘラクレイトスはディルク義兄さんとベルント義兄さんと一緒に出てもらう。


 僕が呂布の近くへ行くと、クリス達も一緒のようで何か話しをしている。そして、呂布は困ったような顔で僕に言う。


「ガイウス殿、クリスティアーネ殿たちが我ら呂布隊に加わり突撃に参加したいと申されております。」


 僕は呂布に頷き、クリスを見て言う。


「却下。クリス達は僕と一緒に遊撃をしてもらう。結構難しい役どころだと思うけど?」


 なんとか納得してくれた。呂布隊は呂布が鍛えた騎馬隊だからこそ十全の力を発揮することができる。そこに異物であるクリスをはじめとした“シュタールヴィレ”の面々が加わると、能力が落ちてしまう可能性が非常に高いからね。まだ、島津隊ならよかったんだけど。


 ツルフナルフ砦の騎兵2個小隊も合流して島津隊を追う形で進軍する。月明かりのみを頼りに進軍していく。


 攻撃発起点への到着は予定していた時刻よりも少し遅くの0338となった。呂布と豊久、ディルク義兄さんとベルント義兄さんを呼んで作戦を言う。


「まず、島津隊の20回の遠距離攻撃により敵を混乱させ、呂布隊はそこに突撃。その後は離脱と突撃を繰り返し、敵の頭数を減らしてもらう。龍騎士ドラグーン隊は敵の後衛を攻撃。島津隊の突撃は呂布隊の最初の突撃が終わってからだ。陽が昇ればレンジャー連隊と航空隊が展開してとどめを刺す。質問は?無ければ配置につきたまえ。」


 しばらくして島津隊のほうからはM14に初弾を装填する音が微かに聞こえる。そして、豊久の「よか塩梅じゃ。撃て。」という言葉の後に暗闇をまばゆ発砲炎マズルフラッシュで辺りを照らす。300丁のM14とジョージのM16による射撃だ。“バヒューンッ”という乾いた音が重なり“ドビューンッ”という重低音を響かせる。


 銃声が聞こえなくなると、帝国側から悲鳴と怒号が聞こえてくる。


 20回にわたる射撃が終わると同時に呂布の先陣で呂布隊が突撃をかける。


「いくぞー!!ガイウス殿のために!!」


「「「おお!!ガイウス殿のために!!」」」


 その掛け声はやめて欲しかったかなぁ。恥ずかしい。


「よし。ベルントいくぞ。ヘラクレイトス殿もお願いいたす。」


「はい、兄上。」


「グルルルルル。(あい、わかった。)」


 3体の飛龍ワイバーンが夜空に消える。さて、僕たちも動こうかな。【遠隔監視】で3部隊の動向を確認しながら、クリス達に声をかける。


「それじゃあ、いきましょうか。ナボコフ辺境伯家の旗のもとにいる部隊には攻撃してはダメですからね。」


 クリスとローザさん、エミーリアさんは頷き、アントンさんとユリアさんは口の端を吊り上げる。ドラゴンの3人は迫力のある笑みを浮かべている。


「それでは、敵の退路を断ちます。突撃!!」

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