第222話 戦の準備

 捕虜の労働の大まかな指示を出したり、冒険者業をしたり、ツルフナルフ砦の防衛を固めたり、イオアンさんと書簡のやり取りをしていたら、あっと言う間に時間が過ぎて7月30日の日曜日で迎えた。もう7月も終わりだね。というわけで、僕はゲーニウス領領都ニルレブに戻ってきたよ。シントラー領での戦後処理も大体が終わったからね。


 そして、次なるいくさに備えている。


「ディルク義兄にいさん、ベルント義兄にいさん、今、お時間大丈夫ですか?」


「はい、今日の俺達の受け持ち分の教練は終わりましたから。なぁ、ベルント。」


「はい、兄上。それで、何の御用でしょうか、ガイウス閣下。」


「閣下呼びはされなくて結構ですよ。今、この部屋には僕達3人しかいませんから。」


「それでは我らが愛しい義弟おとうと、ガイウスよ。どうして俺とベルントを呼び出した?」


「帝国といくさになるかもしれません。」


「陸戦か?」


「そうです。」


 そう答えると、義兄さん達の顔に緊張が走る。2人を代表してディルク義兄にいさんが口を開く。


「全面戦争か?」


「いえ第2皇子のプローホルとその取り巻き貴族の私兵連合が相手になるかと思います。」


「ああ、あいつか。それで、こちらの兵力は?」


「国境のツルフナルフ砦の駐留部隊である歩兵中隊1つと魔法使い小隊2つ、騎兵小隊2つの430名に加え、僕の私兵の呂布隊が500。これは全て騎兵です。島津隊が300。こちらは主に歩兵で構成されています。後は、この空軍基地の「鋼鉄の鳥」達とレンジャー連隊2,534名です。」


「数で言えば絶望的に足りないな。相手はクズでも第2皇子だ。まずは親衛隊がいるだろう。ああ、こちらでいう近衛だな。これは公表されているからわかるが、約1,500名だ。そして取り巻きの貴族共だが兵力の出し惜しみが無ければ1万を軽く上回るだろうな。」


「ええ、ですから、寡兵で打ち破ることになります。武名を挙げる機会になりますがどうします?」


 そう言うと、2人とも黙って考える。まぁ、命がかかっているからね。仕方ないね。


「返事は後日でも構いませんよ?」


「う~む、戦列に加わりたいのは山々なんだが、龍騎士ドラグーン隊は今のところ、俺とベルントだけだろう?戦力になるかね?」


「お2人とも槍の遠投は出来ますか?」


「無論、龍騎士ドラグーンの戦法の1つだからな。」


「もちろん、私もできるよ。」


「なら、この方法を試してみてください。」


 そう言って、ディルク義兄にいさんとベルント義兄にいさんに【風魔法】の【ウィンド・バレット】を応用した槍の射出方法を教えてみる。すぐに理解してくれて、基地敷地内で錬成中の兵士たちが使用する弓の的を使用して試射してみた。


 ちょうど、休憩時間だったらしく錬成中の兵士さんが観客として遠巻きに見ている。あ、アダーモさんやベドジフさん、そして昨日から参加しているヒルトルート姫もいる。義兄にいさんたちはそれぞれ手に持った槍を的に向かって投げると同時に【ウィンド・バレット】を発動する。ドンッ!!と空気を揺らす音と共に槍が的に向かい直撃して轟音と共に的が木っ端みじんになり、背後の安土も削り取られる。上手くいったね。


 今度は飛龍ワイバーンでの練習に切り替えると言ってディルク義兄さんとベルント義兄さんは龍舎へ向かう。観客も散り始めたので、アダーモさん、ベドジフさん、ヒルトルート姫を呼び止める。


「どういたしましたか?閣下。」


 一番年長者のベドジフさんが僕に尋ねる。


「帝国が進行してくる可能性があるので3名には現場に出てもらいたい。」


 アダーモさんとベドジフさんはニヤリとわらい、ヒルトルート姫は少し顔を青くする。


「無論、錬成中であるから拒否することもできるが?」


「小官は問題ありません。」


 アダーモさんが力強く言う。流石は2級冒険者。


「小官も何ら問題はありませんな。できることなら能力を活かせる医療のほうで投入してほしいものです。」


「考慮しよう。」


 教会の聖騎士団での戦闘経験があるベドジフさんも即答だね。


「わ、わたくしは・・・。」


「ヒルトルート少尉、今日の夕食後にまた訪ねる。その時までに答えを出すように。今回のいくさは急すぎた。昨日から参加している貴官が即断できないのも仕方のないことだ。だから、戦場に行かないのは恥ではない。そのことを踏まえてよく考えるように。アダーモ少佐、ベドジフ少佐、相談に乗ってあげてくれ。」


 アダーモさんとベドジフさんが敬礼をして、一拍遅れてヒルトルート姫が敬礼をする僕は答礼をしてその場を後にする。そのまま龍舎に向かう。


「ヘラクレイトス。」


「おお、ガイウスか。いかがした?」


「ちょっとそこまで飛びたいんだけどいいかな?」


「構わぬよ。」


 そのままヘラクレイトスに乗りツルフナルフ砦方面へと向かう。国境地帯で呂布隊と島津隊による示威行動をすることを先週の金曜日にピーテルさんと決めていたのをさっきまで忘れていたんだよね。まあ、800も兵力が増えれば帝国側も流石に察するでしょ。


「砦が見えてきたぞ。」


「そうだね。えーっと、呂布隊と島津隊は・・・。ああ、訓練中かぁ。発着場に下りてくれる?」


「承知した。」


 飛龍ワイバーン用の発着場に下り立つとすぐにツルフナルフ砦司令官兼守備隊指揮官のパーヴァリ・マカライネンさんがやって来る。ちなみに、ジギスムントさん達と同じタイミングで国に要請して準男爵から男爵へと陞爵してもらったんだよね。任務の関係上、式典には出席できなかったけどね。ああ、でも、色々とお祝いの品を送っておいたよ。そんなわけで今は男爵となったパーヴァリさんの敬礼に答礼する。


「急に来てすまない。ああ、楽にしてくれ。」


「いえ、閣下。大丈夫です。しかし、呂布殿と豊久殿がお持ちになった書簡の内容は本当でしょうか?」


「嘘なら良かったんだが、本当だ。今日来たのはそれに関連することだ。」


「といいますと?」


「呂布隊と島津隊に国境地帯にて示威行動を交互に行ってもらう。それでプローホルが釣れれば良し。釣れなくともプローホルが絡んでいるであろう例の書簡をおおやけにするのみ。」


「承知しました。第2級戦闘配置を維持します。」


「将兵には苦労をかける。」


「まあ、これが仕事ですからな。」


 そう言って、パーヴァリさんは笑う。


 一旦、パーヴァリさんと別れて呂布と豊久に会いに行く。2人とも丁度立ち話をしている所だった。


「おーい、呂布ー!!豊久ー!!」


「おお、これはガイウス殿。如何いかがした?」


「2人にお願いしたいことがあってね。」


「なるほど。我らもガイウス殿にふみを出そうとしていたところでした。」


「そうなんだ。ちなみにどんな内容?」


 僕が尋ねると今度は豊久が答えてくれる。


「こんまま、対陣しとっても時間がもったいなかと思うちょりまして、呂布どんと話しをし、敵ん前で演習でもやろかいち。」


「ああ、僕も似た様な感じでね。国境地帯で示威行動を呂布隊と島津隊で交互にして欲しいなぁと思ったんだよ。交代間隔は1週間がいいかなと思ったけど、兵の様子を見ると1日交代のほうがいいかもね。それじゃあ、先達として呂布隊からお願いしようかな。」


 僕がそう言うと呂布が礼をして、


「御意。」


 と言って陣へと向かう。豊久も同様に礼をして陣へと戻る。さて、やることはやったね。帝国の国境施設の指揮官がアルセーニーさんのままなら辺境伯のイオアンさんにすぐに報告がいくだろうね。どんな対応をしてくれるか少し楽しみかも。あ、でも意地悪かな?


 う~ん、イオアンさんとの関係悪化は望まないから先に知らせておこう。


 というわけでヘラクレイトスと共に帝国の国境簡易砦にやってきたよ。すぐにアルセーニーさんと話しができるようで、簡易砦とは別の建物に向かっている。あまりキョロキョロと周りを見ることはできないけど簡易砦の中はまだまだ工事中という感じかな。


 さて、アルセーニーさんの執務室で先の海戦からの一連の帝国側の対応を伝えたら頭を抱えちゃったよ。同席していた参謀さんや指揮官さん、兵士さんも似た様な感じだね。


「帝室は我らの命を何だと思っているのか・・・。」


 アルセーニーさんがやっとといった感じで言葉を吐きだす。


「プローホルとその取り巻きは何も考えて無いんじゃなのでは?まぁ、そういうことなので、ここが最前線になるとは思うが、ナボコフ辺境伯家の旗を立てなさい。そこには攻撃しないように下命してある。」


「・・・わかりました。イオアン閣下にご報告いたします。」


「今から一緒に行くかね?入国を許可してくれれば私の乗ってきた飛龍ワイバーンですぐにつくぞ。」


「・・・お願いいたします。」


 そして、約30分後、僕とアルセーニーさんから報告を受けたイオアンさんも自分の執務室で頭を抱えることになっちゃった。まぁ、プローホルが悪い。うん。

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