第188話 龍騎士選抜及び錬成開始

 19日の月曜日は通常通りに行政庁舎で仕事をこなして明日に備えるために早く寝たよ。


 明けて20日火曜日。雨季だけれども晴れ渡った空に安堵しながらエドワーズ空軍基地に向かう。既に講堂の前には龍騎士ドラグーン志願者が事前に配布した軍装に身を包み整列している。


 その反対側には教官となる海兵隊員とレンジャー隊員、義兄さん達が整列している。なぜかヘラクレイトスもいた。飛龍ワイバーン代表ってところかな?ま、いいか。さて、近づいてくる僕に気付いたボブに合図を送ると、


「総員、傾注!!ガイウス・ゲーニウス辺境伯閣下がお着きになった。これよりお言葉を戴く。姿勢を正せ!!気を付け!!」


 よく通る声で指示を出す。1,600人近い志願者の視線が僕に集まる。僕は演説台に向かって歩きながら、


「おはよう、諸君。志願者の皆には初めましてかな?私がガイウス・ゲーニウス辺境伯だ。5級冒険者でもある。しかし、“フォルトゥナ様の使徒”の肩書きの方が有名だろう。因みに12歳だ。さて、自己紹介はここまでにしよう。この中には私の父母と変わらぬ者もいるだろうが、年齢などそんなことは関係ない。後程、主任教官のボブ・コンラッド海兵隊最上級曹長よりもあるだろうが、性別、種族、出身、地位の全てが無意味となることを心得たまえ。それが嫌なら今すぐここから立ち去るがよい。誰も責めはせぬ。」


 風魔法に乗せた言葉を区切り、教官たちへ答礼しながら演説台へと上がる。そこで改めて志願者の人達の顔を見る。うん、良い顔をしている。覚悟できているみたいだね。


「ふむ、1人もいないのかね?まだ、今なら間に合うぞ。・・・。やはり、いないようだ。狂っているな。名誉は有れど常に命の危険のある龍騎士ドラグーンになりたいとは。ああ、勿論、とぼしているわけではない。嬉しいのだよ。私と同類の者がこんなにもいるとは。さて、私の挨拶の言葉はここらへんにしておこうか。それでは、諸君の健闘を祈る。」


「敬礼!!」


 ボブの声に合わせて志願者の人達がそれぞれの敬礼をしてくる。このバラバラの敬礼もボブ達よって矯正きょうせいされるんだろうなあと思いながら答礼をして演説台より降りて、教官達の列に加わる。ボブが僕の前に来て敬礼をしながら小声で言う。


「では、閣下。これより志願者達を預かります。」


「うん、お願いするよ。」


 答礼しながら僕も小声で返す。ボブが演説台に登壇する。


「志願者の諸君。俺が主任教官をつとめるボブ・コンラッド海兵隊最上級曹長だ。教官達の中には俺より上位の方もいるが、役職では俺が諸君らの錬成に関する全権を与えられている。しかし、俺は龍騎士ドラグーンではないので基礎と地上での戦い方を叩き込む。晴れて龍騎士ドラグーンとしての資格を手に入れた者にはアルムガルト辺境伯家のディルク・アルムガルト殿とベルント・アルムガルト殿が指導してくださる。龍騎士ドラグーンの資格を得ることができずとも領軍に配属されることになる。ここまでは、事前に募集要項にも記載があったので大丈夫だとは思うが、質問は有るか?有る者は挙手をせよ。・・・ああ、ちなみに海兵隊とレンジャー連隊などといった聞いたことの無い部隊名が出てくると思うがガイウス閣下の私兵であることを先に述べておく。」


 一旦、言葉を区切り志願者を見回して質問者がいないのを確認するとボブは続ける。


「ガイウス閣下はおっしゃった。この場では“性別、種族、出身、地位の全てが無意味となる”と。まさしくこれより貴官らは、いや、貴様らはただの訓練兵だ。先程言ったことを無視するような行動をしてみろ、すぐに修正してやる。それが嫌ならすぐに立ち去れ。」


 少しざわめきが起きて1人が挙手した。体格からして領軍兵か衛兵、前衛冒険者といったところかな。


「よし、そこの若いのどうした?名乗らんでいい。質問か?」


「はい、主任教官殿。我々の出自や地位がここでは何の価値も無いのはわかりましたが、今回、募兵された我々には戦闘未経験者もおります。そこはどのようにお考えでしょうか。」


「全員に一から叩き込んでやるから安心しろ。体つきが貧弱な奴には専用の食事も摂らせる。お前さんは実戦を経験しているだろうからこの質問をしたのだろうがな。これでいいか?」


「ありがとうございます。」


「さて、本当ならもう少し言ってやりたいこともあるが時間が無い。25日の日曜日にガイウス閣下のお屋敷にて領内外の貴族、領内の全ての代官を集めた式典が開かれる。そこが貴様らの初お披露目の場となる。儀仗兵は別に用意してあるからお前たちにはさせんし、練度が足りん。だが、お屋敷周囲の警備についてもらう。それまでに集団行動ができるように仕上げる。まずは行進からだ。領軍、衛兵隊に所属していた者達はわかるだろうが、全員が一定の歩幅で前進するのは簡単そうに見えて難しい。まして、この人数だからな。だが、今日中には行進を完成させる。ああ、安心しろ。小隊単位での行進だ。どうだ、難易度が下がっただろう?さあ、始めるぞ。教官達の指示に従え。返事は“了解”だ。返事をしろ!!」


「「「「「了解!!」」」」」


「よし。・・・では開始。」


 教官達が動き出して指示を出しながら訓練兵を小隊単位で並べる。並び終わったら基地からレンジャー隊員達が装備を持ってくる。訓練兵の手には短槍と盾、腰には剣を佩かせ、背には弓と矢筒を背負わせる。さらには兜に胸甲等の防具類も付けさせていく。初心者もいるので時間が掛かったけど立派な完全装備の歩兵連隊が出来上がった。


 まあ、最終的には大隊規模まで龍騎士ドラグーン候補を絞り込むことになるんだけどね。でも、余った人員は通常の領軍に組みこむ予定だったけど、海兵隊とレンジャー仕込みの増強大隊を領主麾下の即応部隊として一つ持っておいてもいいのかも。そんなことを思いながら行進の様子を眺める。


 やはりというべきか教官達の叱咤の声に怒声などが聞こえてくる。そして、すでに罰で腕立てをしている小隊もいる。


「貴様ら此処に何をしに来た!!子供のお遊戯じゃないんだぞ!!貴様ら1人1人が領民の命を背負っていることを忘れずに気合いを入れなおせ!!」


 演説台からボブがげきを飛ばす。僕が受けた模擬訓練よりもかなりマイルドな内容になっているから反発や脱落者の心配はないかな。


 その後、23日金曜日まで厳しい錬成が続いたみたい。式典前日の土曜日の朝に錬成の結果を見せてくれるということだったので父さん達も連れて見に行くことにした。


 結果として非常に満足のいく出来だったよ。連隊単位での行進から始まり最後は小隊単位へと綺麗に分散していきボブの号令で停止。そして僕たちに向かって一糸乱れぬ敬礼をしてくるので答礼をする。


「総員、直れ。ガイウス閣下よりお言葉がある。傾注!!」


 おっと、急に振られたね。僕はゆっくりと演説台に上がり訓練兵の人達を見回してから口を開く。


「みな、訓練ご苦労。先程は素晴らしい行進を見せてもらった。正直なところ、この短期間で完成するのか疑問もあったが素晴らしい教官達に諸君らの努力には驚かされた。今後は戦闘訓練も追加されるのでより一層の努力を期待する。また、明日はよろしく頼む。以上だ。」


 僕の言い終わる敬礼をするので答礼をして演説台から下りる。父さん達の所に戻り、


「それじゃ、僕は行政庁舎に行くから。」


 と告げて、騎乗しニルレブの街へと向かう。さて、明日に備えてしっかりと仕事を終わらせよう。

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