第154話 帰領

 不定期の更新になってしまい申し訳ありません。


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 マルボルク城から離れて、日が落ちきる前に呂布隊が野営の準備を始める。奴隷たちは慣れていないから食事の支度をする。僕とクリスは【空間転移】でゲーニウス領に一足先に戻るつもりだ。


 昼食休憩の時に呂布と高順、張遼の幹部達には金貨、銀貨、銅貨を全員分革袋に入れて渡してある。銅貨は量が多かったので馬車に積むことになったけど。それと、呂布には町や関所でスムーズに通行できるよう僕の家紋入り書簡をいくつか渡した。これで面倒なことに巻き込まれずに済むはずだ。


「呂布、残りの行程を油断しないようにね。呂布たちの強さはよくわかっているけど奴隷たちはそうではないから。」


「心得ております。奴隷たちには基本的に100騎は必ずつけるようにしておきましょう。」


「うん、そうしてくれると助かるかな。さて、僕とクリスはここらで失礼するよ。ニルレブで待っているからね。」


「御意。お気をつけて。」


「ま、一瞬だよ。でも、ありがとう。さ、クリス行こうか。」


「はい、ガイウス殿。」


 クリスをお姫様抱っこして、背中から翼を生やし高く飛び上がる。見下ろせば呂布隊と奴隷のみんなが手を振っていたので、上空を3回旋回してニルレブへと向かう。そして、人目がどこにもないのを確認してから【空間転移】でニルレブの近郊上空へと移動する。


「このままクレムリンに向かってクリスを降ろそうか?それとも一緒に行政庁舎に向かう?」


「行政庁舎へは何をしに行かれるのですか?」


「呂布たちのことを知らせておこうと思って。流石に2,000の騎馬隊が領内を移動するとなると、書簡を呂布に渡してあるからといっても騒ぎになるだろうしね。」


「でしたら、わたくしも共に行きます。」


「うん、わかったよ。それじゃあ、高度を下げるね。着地の際は口を閉じていてね。衝撃で舌を噛むといけないから。」


 僕は緩降下しながらニルレブの南門に迫る。地面まで残り5mぐらいのところで制動をかけ着地する。門までまだ100mほどあるけど2人の衛兵さんが走ってくるのが見えた。僕とクリスは彼らの方へ向かって歩く。


「ガイウス閣下。ご無事のご帰還なによりであります。」


「規則により、お2人の貴族証を確認させていただきます。」


 衛兵さんの言葉通りに貴族証を見せる。すぐに確認が終わると、


「それでは、門まで護衛いたします。今回はどちらまで?」


「行政庁舎でヘニッヒ卿に会おうかと思う。17時を過ぎてしまったが、まだいるだろうか?」


「申し訳ございません。流石に我々もヘニッヒ様の動向までは・・・。行政庁舎までの護衛は必要でしょうか?」


「うむ、私の質問も悪かったな。それと、護衛も馬も必要ない。」


「かしこまりました。」


 ニルレブの町に入るとすぐに黒馬を【召喚】し、クリスと2人乗りで行政庁舎に向かう。庁舎の門番をしている衛兵さんにヘニッヒさんがいるか聞くと、まだ退庁していないようだ。案内を買って出てくれたがそれを断り、僕とクリスはヘニッヒさんの執務室へと向かう。


 執務室の扉をノックする。「どうぞ。」と返答があったので扉を開ける。


「これは、閣下。申し訳ありません。お出迎えなどせず。」


 ヘニッヒさんが立ち上がり挨拶をしてくる。サッと室内を見回す。秘書のラウニさんがいるくらいだ。扉を閉めて、


「いいですよ。気にしないで。ああ、他の人もいないようですので口調も体勢も楽にしてください。」


「お気遣いいただきありがとうございます。ラウニ、お2人にお茶を。」


「すみません。17時過ぎに来てしまって。」


「いいんですよ。閣下。代官業などこういうものですから。あー、そういえば閣下は学園アカデミーを出ていなかったんですなあ。」


「ええ、まあ。ついこの間まで農民の子で冒険者でしたから。」


「閣下の堂々とした言動や振る舞いはまさしく貴族の模範となるようなモノですからついつい忘れてしまいます。それで、学園アカデミーでしたら、行政についてもっと詳しく学べますので、惜しいと思ったのです。」


「ふむ、僕は入れないのですか?」


「年齢的には入れます。しかしながら立場的には入れません。というか貴族家の当主が入学したなど前例がありません。早くても学園アカデミーを卒業して爵位を継ぎますから。」


「クリスはどうだったのかな?」


わたくしは10歳の時に入学しました。これは学園アカデミーに入れる最低年齢ですね。そして、規定の3年間学び13歳で卒業しました。規定と言いましたが、どれだけの天才であっても3年は必ず在学しなければなりません。逆に3年を伸びても5年間つまり入学してから8年間は在学できます。」


「8年以内に卒業できなければどうなるのかな?」


「もちろん、退学ですわ。まあ、貴族の子女は入学前に最低限の教育は受けて育っていますから、脱落する者はほとんどいないと思います。わたくしが少し同情してしまったのは、ある裕福な商家の方でした。本人は学園アカデミーに入らず、そのまま働くつもりだったのが、親の人脈作りのために15歳で入学させられたという方です。」


「その人はどうなったのか知っている?」


「ええ、わたくしよりも2期先輩でしたが、無事にわたくし達と共に卒業することができていましたわ。もちろん、人脈をたくさん作って。」


「それは、良かったのかな?ああ、すみませんヘニッヒさん。こんな話をしてしまって。」


「いえいえ、お気になさらず。私も学園アカデミーでの出来事を思い出しながら聞かせていただきました。まあ、私の場合はラウニがいたので楽をしましたが。」


「ああ、そうですそうです。従者も一緒に学ぶんですの。すっかり忘れてましたわ。わたくしは従者を連れずに入学したので。」


 へー、そういう世界もあるんだねえ。ああ、そうだ此処にはこの話しをするために来たんじゃないか。忘れるところだった。


「ヘニッヒ卿、数日後、アルムガルト領からこの領に僕の私兵の騎馬隊2,000と奴隷たちが入ってきますので、間違えて攻撃しないようにお願いします。」


「2,000の騎馬隊ですか!?承知しました。すぐに使いの者を出すように致しましょう。」


「お願いします。」


 これで、一仕事完了かな。

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