第137話 王城へ突入

 日付が変わる前には爵位持ちの完全武装の衛兵さん達30名が集まった。伯爵位の人も5人いたが、年齢が一番上の人は居残りの指揮官として外されていた。少しションボリしていた。アルフォンスさんも含めて30人、僕たちもいれて34人の騎兵が進む。


 王城は目の前だからすぐに着く。門番の近衛兵さんが槍を交差させ誰何すいかしてくる。


「このような夜更けに何者か!!」


「王都衛兵隊司令官、アルフォンス・リシャルト侯爵である。火急の用件のため開門せよ。」


「火急の用件とは、何か。」


「高位貴族に対する、殺害未遂の件である。犯人を捕縛する。開門せねば、力づくでも押し通る!!」


 そう言って、衛兵隊の全員が馬上で槍を構える。門番の近衛兵さんは戸惑っているばかりだ。


「さあ、門を開けよ。責任はこのアルフォンス・リシャルトが取る!!」


「アルフォンス閣下。先程のことは本当ですか!?」


 通用門から近衛兵の隊長らしき人が出てきて問うてきた。


「くどいな。総員突撃用意!!」


「閣下!!お待ちを。反逆罪が適用される可能性がありますぞ!!」


「ふん、司法権については独立しておるのは知っておろう。たとえ王族であろうとも口出しは出来ん。反逆罪は適用されん。」


「わかりました。でしたら、同じく34名の近衛を同行させてもらいます。」


「おう、よいとも。しかし、捜査の妨害をした場合は捕縛されることを忘れずに行動するように言い含めるのだな。」


 アルフォンスさんがそう言うと、渋々といった感じで門を開けた。王城内に入り近衛兵が34名集まるまで待つ。その間【遠隔監視】でベアトリース・オリフィエルの寝室を確認する。国王陛下にはお呼ばれしなかったのか、ぐっすりと眠っている。これなら証拠隠滅の時間は無いだろう。


「人数が揃いました。」


 近衛隊長さんがアルフォンスさんに報告する。アルフォンスさんは頷き号令を出す。


「総員前進!!目標は、後宮、陛下の側室、ベアトリース・オリフィエルの寝室!!」


「「「おう!!」」」


 気勢を挙げる衛兵さん達、目標を聞いて顔を青くする近衛兵さん達。そして、張り切る僕とグイードさん達にアルフォンスさん。三者三様だ。しかし、今現在の指揮官はアルフォンスさんだ。近衛兵さん達は顔を青くしながらもついてくる。


 後宮までは一気に馬で駆け抜ける。アルフォンスさんは下馬すると同時に入口を護っている女性の近衛兵さんに入口を開くよう迫る。青と白で彩られた衛兵隊の鎧は月明かりの中、近衛兵の鎧よりもはっきりと目立ち、異様な威圧感がある。2,3分ほど問答してようやく入口が開いた。


「ここよりは、我らの、いえ彼女ら後宮近衛兵の先導に従っていただきます。」


 近衛隊長さんがアルフォンスさんにそう言うと、すぐに承諾した。


「時間との勝負である。よろしくお願いする。」


 後宮の中は、王城とは違うきらびびやかさでいろどられていた。目標の部屋へ駆けながら、僕は感心したように後宮の様子を見ていた。こんな時間でも働いている侍女さん達もいるようで、何人かとすれ違う。皆、一様に驚くが大声は出さない。ちゃんと教育が行き届いているんだね。それに、衛兵と近衛兵だからね。下手な王族、貴族よりも信用はあるだろうさ。


 さて、目標の部屋に着いた。映像で見る限りまだ寝ているようだ。そんなことを知らないアルフォンスさんは少し乱暴に扉をノックする。何度か試すがそれでも起きない。


「打ち破るか。」


 とアルフォンスさんが呟くと、近衛隊長さんが、


「閣下、それだけはお待ちを。今、鍵を取らせに部下をやっていますので、もう少々お待ちください。」


「カレル卿がそう言うのであれば、しばし待とう。」


 近衛隊長さんことカレルさんはその言葉を聞き安堵したようだ。5分ほど待ったところで、女性近衛兵さんが鍵の束を持ってやって来た。すぐにわかるのかなと思っていると、鍵のヘッドの部分に色んな家の家紋が入っている。その中からオリフィエル侯爵家の家紋の入った鍵を見つけるとすぐに鍵穴に差した。


 “ガチャリ”と音がし、扉が抵抗も無く開く。すぐにアルフォンスさんが室内に入り、


「これより、王都衛兵隊による強制捜査を行う!!ベアトリース・オリフィエルはおるか!!」


 と大声で告げる。すると、ベッドから跳び起きた人物が苛立いらだちを隠そうとせずに文句を言ってくる。


「ここは、後宮なのよ!!何故なぜ、衛兵隊などという者どもが立ち入るのよ!?」


「強制捜査と言ったはずだ。お主には高位貴族への殺害未遂容疑がある。部屋の中を検分する。・・・。ガイウス殿、書状は何処に?」


「ああ、あの化粧台の鍵のついた引き出しの中です。」


「つい、この間まで平民であった小僧が、何故なぜ此処にいる!!近衛兵!!早く追い出すのだ!!」


「少し黙ってもらおうか。」


 僕はそう言って、【風魔法】でベアトリースを囲むように障壁を作り、ぎゃあぎゃあわめく彼女を隔離した。


「さて、アルフォンス殿、あの引き出しを開けましょう。」


「鍵がありませぬぞ?」


「ああ、それなら【召喚】。ほら、ここに。」


 【召喚】した引き出しの鍵を見せながら笑う。そのまま、化粧台の引き出しに鍵を差し込み回す。引き出しを開けてみると、大量の書状があった。僕は、【遠隔監視】で過去の映像を見ながら、目星の書状を見つけてアルフォンスさんに渡す。


「これは、・・・なんとも、国家に対する反逆罪に等しい。よし、皆で書状の検分だ。一番重要なモノは確保した。他に怪しいモノが無いか調べろ。」


“汚い平民上がりの小僧ガイウス・ゲーニウスに、その功績を認めた軍部を陥れる。オリフィエル領から登用されている文官たちには話しを付けた。奴らが呼び出し文を作成する。言うことを聞かなければ家族の命が無いと思えと言えば従うはずだ。どちらにせよ、5月4日にはガイウスが首だけになるか、軍部との亀裂が生まれるかだ。姉さんが上手く陛下から封蝋印を借りることができれば大成する。”


 そんな感じのことが書いてあった。ふーん、そっかー、なるほどね。あ、アルフォンスさんの顔が真っ赤になっている。まあまあ、落ち着いて。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る