第106話 血の金曜日 

 それでは、呂布たちの【召喚】をしますか。


「呂布、高順、張遼、配下の馬と歩兵、【召喚】。」


 そして、いつも通りに魔法陣と光が出て、赤兎馬を下馬した呂布を先頭に、高順と張遼が両翼を固め、背後に500の騎馬と歩兵の混合部隊が並ぶ。木々があるから綺麗にとはいかないけどしょうがない。


 全員が拝礼の姿勢をとり、呂布が代表して挨拶をする。


「ガイウス殿、お久しぶりでございます。こうして、また同じ戦場を駆け抜けることを嬉しく思います。さらに、お強くなられたようで何よりです。」


「うん、久しぶり。呂布。高順に張遼もね。強くなれたのは以前の【召喚】から色々とあったからかな。それで、今日はコボルトという魔物の拠点を襲撃する。木々の間から木製防壁が見えているでしょう?あれが、やつらの拠点だ。前回のゴブリン討伐と同じく、全てを討ち取ること。逃げるモノや女、子供関係なくね。容赦はいらないよ。」


「はっ!!わかり申した。」


「それでは、初顔合わせの人を紹介するね。」


 そう言って、ローザさんとエミーリアさん以外の、クリス、ユリアさん、レナータさん、アントンさん、ジョージを紹介する。まあ、ジョージは同じ【召喚】された者だから、呂布も見た瞬間にエシダラの者ではないとわかったみたい。


 さて、部隊編成をちゃちゃっと済ませる。高順と張遼に200ずつ率いてもらって、残りの歩兵100をアントンさんに率いてもらう。能力値は率いる兵の方が高いけど問題ないだろう。後方支援はエミーリアさんと護衛にジョージ。残った僕と呂布、クリス、ローザさん、ユリアさん、レナータさんは【召喚】した馬に騎乗しての先鋒だ。


 さて、まずは門を破壊しないとね。僕とクリス、エミーリアさんにユリアさん、そしてレナータさんが、森の中からそれぞれ最大級の火魔法を門に撃ち込む。爆炎が上がり、門と周辺の防壁が吹き飛ぶ。


 すぐに騎乗して、


「全員、突撃!!」


 雄たけびと共に500の軍勢が森を飛び出し、集落に襲い掛かる。警戒していたからか、コボルト達に慌てる様子はない。弓を撃って迎撃してくる。それを風魔法で防ぎながら、突撃する。一番槍は足の速い赤兎に騎乗する呂布だ。戟とハルバードを用いて一瞬で10体近くを討つ。僕たちもそれに続く。


 すぐに、戦闘は乱戦になった。だが、数は少ないが僕たちが優位に戦いを進められている。アントンさんも上手く指揮をしながら、効率的にコボルトを討っている。僕と呂布は2人で槍の穂先さながら、コボルトの軍勢を切り裂いていく。


 と、そこに装備の立派なコボルトの集団が現れた。【鑑定】すると“コボルトガーディアン”と表示された。いけるかな?取り敢えず、馬上から鋼鉄製の槍を一突き。すると、鎧を簡単に貫通し、コボルトガーディアンを仕留めた。


「ふむ、弱いね。」


「ええ、ですが、数が多い。背後にはお気をつけくだされ。それに、ローザ殿はだいぶ苦戦している様子。」


「あ、本当だ。気づいてくれてありがとう。レナータさん!!ローザさんの援護に!!」


「任せて、ガイウス君!!」


 そう言って、コボルトを蹴散らしながらローザさんの援護に向かってくれた。エミーリアさんはどうかな。そちらにチラリと視線をやると、上手くジョージがサポートしていた。優秀だよねえ。ジョージは、頭に1発、胴に2発と撃ち込みながらコボルトを撃退している。


 さあ、僕も頑張らなくちゃね。燃やすと討伐証明部位が無くなってしまうので、【火魔法】ではなく【水魔法】と【風魔法】のバレットを使おう。僕の周りに無数の水と風のバレットが現れ、「発射!!」の合図とともにパンッという音ともに音速を超えコボルト目掛けて、飛んでいく。僕と呂布を囲んでいたガーディアンを含む、多くのコボルトが血飛沫を上げながら倒れ伏す。「素晴らしい!!」と呂布が歓声をあげながら、コボルトを10数体まとめてほふる。


 そこへ、騎馬が一騎、コボルトを蹴散らし駆けてきた。


「ガイウス卿、呂将軍にご報告です。張隊長が捕らえられている者たちを発見。子供もいます。救助中ですが、四肢の欠損が激しく、事情を聞いたところ、「喰われた。」とのことです。新鮮なうちにしょくすためでしょうか、止血処理はされていましたが、体力の衰弱が激しく、動かせません。」


「わかりました。張遼には、部隊の一部をその人たちの護衛へまわすように指示を。それと、エミーリアさんとジョージをその人たちの治療のために連れて行ってください。」


「御意!!」


 そう言って。後方に駆けて行く。


「呂布、僕は自分を、この怒りを、抑えられそうにない。今から、全力を出すため下馬戦闘に切り替える。勇猛な呂布に頼むのは気が引けるが、取りこぼしの殲滅せんめつをお願いしたい。」


「拙者はガイウス殿に【召喚】された身です。ガイウス殿のご命令、しかと承りました。思う存分、暴れてください。」


「ありがとう。呂布。では、始める。」


 下馬し、体内で魔力を練り上げ、それを指先、いや髪の先まで通すことを意識して、自分の身体全体に【魔力封入】を行う。そして、短槍とソードシールドにも同じように【魔力封入】を行う。貫通力と速度を上げるために、【風魔法】を纏う。


 そして、鏖殺おうさつを始める。まずは、短槍の投擲とうてきで100m近くに伸びていたコボルトの隊列を皆殺す。その様子を呆然と見ているコボルトたちの目の前に一瞬で移動し、貫手で心臓部を貫く、ソードシールドで押し潰す。一陣の風となり駆けまわる。


 風魔法で巻き上げられた血が、雨となり降り注ぐ、鋼鉄製の鎧が赤黒く染まっていく。しかし、止まらない、止められない。僕が早く動いていれば、彼らはコボルトに捕まることなどなかったかもしれないのだ。そう思うと、悔しさがこみ上げる。


「ああああああぁぁぁぁあああああああぁぁぁああああああ!!」


 叫びながら、殺しまくる。僕には、捕まった彼らの四肢を治す能力がある。しかし、彼らの味わった恐怖を取り除くことはできない。だから、僕は、彼らの代わりに、恐怖に染まったコボルト達を殺す。鮮血に染まりながら、叫びながら、コボルト達を殺しまくる。今の僕にはそれしかできないから。

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