第91話 2週間ぶりの再会

「ガイウス・ゲーニウス辺境伯様、お帰りなさいませ。クリスティアーネ・アルムガルト様、ナトス村へのご来訪歓迎いたします。」


 お堅い空気の中で、村長さんがそう言って、頭を下げる。後ろの村の人たちに衛兵さんもだ。早馬が僕たちを追い抜いて行ったのは、このためだったのか。


「みんな、顔を上げて、立ってください。僕は、功績を挙げ、こうして貴族の仲間入りをしましたが、本質は変わっていないつもりです。今まで通り、ガイウスとして接してもらったほうが過ごしやすいです。それと、衛兵さんはお疲れ様です。」


 とりあえず、みんなを立たせる。いやあ、貴族ってなんかなあ。慣れないかも知れないなあ、僕は。クリスも、


わたくしは、ガイウス・ゲーニウス辺境伯様と共に冒険者をしておりますの。ですので、一冒険者として扱っていただけると助かりますわ。」


 そのように言ってくれたので、場の空気が少し緩んだ。そして、


「「ガイウス兄ちゃーん!!」」


 弟のトマスと妹のヘレナが、人をかき分け飛びついてきた。僕は2人を抱きしめ、頭をでる。それで、場の空気はいつものような緩い、村の空気に戻った。これでいいんだよ。あの、お堅い空気は息が詰まる。


「はーい、みなさーん。お出迎えありがとうございました。解散でーす。」


 僕が大声で告げると、1人、また1人と村の中に戻っていった。村長さんは最後まで残っていたけど、僕が笑顔で頷くと、頭を下げて戻っていった。そして、残ったのは、僕の家族だけだ。


 あ、衛兵さんは馬でインシピットに戻っていったよ。手間賃に銀貨を3枚ほど握らせたけど、賄賂わいろにはならないよね?


 さて、目の前には貴族になった僕に、戸惑って・・・いないね。普段通りのじいちゃん、ばあちゃん、父さん、母さんがいた。僕は、トマスとヘレナを引っ付けながら、みんなの所へ向かい、


「かなり早いけど帰って来ちゃった。ただいま。」


「お帰り、ガイウス。」


 そう言って、母さんが抱きしめてくれる。じいちゃん、ばあちゃん、父さんは「五体満足で何よりだ。」「少し、大きくなったかねぇ。」「よく帰ってきた。」とそれぞれ言ってくれた。そして、そんな僕の様子をニヤニヤしながら見ている“シュタールヴィレ”のみんな。仕方ないじゃない。僕、まだ12歳の子供だよ。


「みなさん、初めまして。私がガイウスの父のエトムントと言います。こちらが妻のヘルタ。私の父と母のフィンとマーヤ。ガイウスに抱き着いているのが次男のトマスと長女のヘレナで、見ての通り双子です。みなさんには、ガイウスがとてもお世話になっていると思いますが、今後もどうぞよろしくお願いします。」


 そう言いながら、父さんが頭を“シュタールヴィレ”のみんなに下げると、じいちゃん、ばあちゃん、母さんも続いて頭を下げる。トマスとヘレナも「お兄ちゃんをよろしくお願いします。」と言って頭を下げ、みんなのほおゆるませていた。


 “シュタールヴィレ”のみんなも、とりあえずの挨拶が終わったので、家に向かう。僕の家は、トマスとヘレナが生まれた際に増築したので村の中では大きいほうだ。だから、リビングにはみんなが入れる。


 ただし、客間は1部屋しかないので、クリス以外の5人は、宿も兼ねている村長宅に泊まってもらう。そのことは、道中に説明をしていたから問題はないはず。


 リビングにてインシピットで買ったお土産をそれぞれに渡す。みんな喜んでくれたようでなによりだ。晩御飯もみんな一緒に食べる。僕が今までしてきたことを、“シュタールヴィレ”のみんなは面白おかしく、家族みんなに話してくれる。


 というか、僕が起点で何かが起こっているかのような言い方やめません?事実だから仕方ない?そうですか・・・。ま、兎に角、いろんな功績のおかげで、今の僕は貴族になって、領地も与えられましたってことで家族みんなには理解してもらった。


 クリス以外の5人が村長宅に向かった後、僕は家族みんなに切り出した。


「ナトス村からゲーニウス領に来ない?みんな、読み書き計算ができるから、領地経営の補佐をしてほしいんだよね。」


 すると、意外にも家族みんな乗り気だった。もっと、村に執着しゅうちゃくすると思ったのに、良い方向へ違った。理由を聞くと、ナトス村に住み始めたのは、じいちゃんの代からだから、土地も建物も愛着はあるが特に執着は無いということだった。家畜も売り払えばいいと、じいちゃんと父さんは言ってくれた。


 とりあえず、ゲーニウス領では雨風がしのげる場所さえあれば、文句はないとの事だった。いや、僕の屋敷に住んでもらうから大丈夫なんだけどね。仕事もあるし、心配することは何もないんだよ?そのことを伝えると、領主様だからそれもそうかと、みんな笑った。


 父さんとじいちゃんは僕の買って来たお酒で一杯やるというので、僕とクリスはそれぞれの部屋に行って、就寝した。


 そして、また来ちゃいました。この白い空間。神様たちの空間に。今日は地球の神様は踏まれてないみたいだ。顔が凄くれているけど、気づかない振りしよ。ちなみにフォルトゥナ様は鈍く輝く籠手こてを両手にはめていた。あー、痛かっただろうなあ。

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