第89話 講習会

 さあ、戻ってきました“インシピット”。もう、土曜日だ。明後日にはギルドで【エリアヒール】の講習会をしないといけない。というわけで、“鷹の止まり木亭”に荷物を置いたら、すぐにギルドへ向かった。


 ギルドの受付で、アンスガーさんに取り次いでもらう。すぐに執務室へ案内された。


「やあ、ガイウス君、久しぶりだね。いや、ゲーニウス辺境伯様とお呼びした方がいいかな?」


「いつも通りでお願いします。まだ、戴いた領地にも行っていませんからね。」


「わかった。それでは、いつも通りに接しさせてもらおう。まずは、おめでとう。まさか、辺境伯にじょせられるとはね。これで、安心して兄上は、クリスティアーネを嫁がせることができるわけだ。」


「ありがとうございます。クリスティアーネとの婚約の発表は、しばらく期間を置いて、そうですね・・・、領が安定すればすぐにでもしたいと思っています。」


「まあ、あそこは王領だから、国から文官と防衛のための軍は派遣されているわけだから、そこを何とかしないといけないからね。」


「ええ、家臣は有望な方を1人、王都で見つけました。今後も精力的に人材の発掘をしたいと思っています。それで、人材の話しですけど、【エリアヒール】の講習会は、明後日の月曜日にしっかりと行いますよ。」


「ほう、それはギルドとしては助かるけど、いいのかな?」


「もともと、こっちの話しの方が早かったんですから、しっかりと行いますよ。」


「では、よろしくお願いする。受講者の受付は明日の夕方までにしているが、もうすでに48人だったかな?まあ、50人近くの申し込みがあるよ。」


「それは、また、思いの外、多いですね。まあ、やれるでしょう。それでは、今日は此処で失礼します。」


 そう言って、退室した。日曜日はのんべんだらりと過ごしつつ、ナトス村の家族にどう伝えたものかと悩んだり、鋼鉄製の鎧を修理に出しに行ったりした。


 そして、とうとう月曜日。9時開講予定なので、8時30分にはギルドに着いた。そのまま、ユリアさんに案内されながら、馴染みの練習場に着いた。特に準備するモノも無いので、僕は、受講者が集まるまで、各【魔法】の練習をしていた。そういえば、長距離を一瞬で移動する【魔法】って見たことないよなあ。ふむ、今度、色々と試してみよう。ちなみに“シュタールヴィレ”のみんなも一緒だよ。


 9時になり、受講者が集まった、全員で53人か。


「おはようございます。今回、講師をつとめる5級冒険者の“ガイウス・ゲーニウス”です。よろしくお願いします。」


 挨拶をしながら、【鑑定】をして、全員の【ヒール】のLvを確認する。Lvによってグループ分けをするためだ。


「皆さんには、これより、複数のグループに分かれてもらいます。」


 “シュタールヴィレ”の各人に手を借りながら、グループを分ける。準3級のアントンさんと3級のレナータさんがいるから、スムーズに進んだ。そして、3つのグループに分かれてもらった。


 【ヒール】のLvが1~10のグループには、【ヒール】を自分で付けた傷に集中しながらかけるように指示した。Lvが11~20のグループには、体に複数の傷をつけ、それを全部一度に【ヒール】で治すように指示をした。Lvが21以上のグループには、自分の周囲2mほどの範囲に満遍なく【ヒール】をかけるイメージをしながら【エリアヒール】をかけるように指示した。


 これらの指示は全て【教育者】の能力で出てきた思考通りに行った。Lvが20以下のグループは、Lvの底上げをさせ、Lv.21以上のグループには、エミーリアさんに行ったような実践をして貰う。さらに【教育者】の能力はLvアップのブーストがかかるようなのだ。実際、Lvが1~10のグループは、すぐに全員がLv10以上になった。


 そして、講習を始めて30分後、Lvが21以上のグループから次々と「できた。」「これが【エリアヒール】・・・。」などなど、膜が下りるようにキラキラと【エリアヒール】をみんなが嬉しそうに連発していた。僕は、彼らの方に移動し、


「鍛錬を続ければ、ここまでできますから鍛錬をおこたらないようにしましょう。【エリアヒール】。」


 すると、練習場全体を覆うように黄金色の膜が下りてきて、練習場にいた全員を包むようになった。そして、それが消えると、“シュタールヴィレ”を除く全員が体の全快を驚いていた。


「ガイウス殿。我々はここまで、いけるんでしょうか?」


「必ずいけるとは言えません。ですが、近づくことは可能でしょう。」


 そう答えると、皆のやる気が目に見えて上がった。昼休憩までには、全員がLv20を越した。うん、いい流れだ。昼食休憩を挟んで、午後も【ヒール】と【エリアヒール】の鍛錬を続けさせる。


 すると、【ヒール】しか使えなかったLvの低い人たちから、範囲は狭いが【エリアヒール】が使える人がでてきた。終講時間の16時には、全員が範囲の大小はあるが【エリアヒール】を使えるようになった。途中から見に来たアンスガーさんとアラムさんは、口をあんぐりと開け、驚いていた。うん、僕も驚いているもん。さすがチートの【教育者】。これなら、新しい土地、ゲーニウス領でも色々とできそうだ。


「みなさん、お疲れさまでした。これで、【エリアヒール】の講習会を終わります。」


「「「ありがとうございました。」」」


 さて、宿に帰ろうかな。アンスガーさんに捕まって次回の講習を約束させられる前に。

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