第82話 叙任?

 さて、水曜日の朝を迎えました。昨日はクリスを甘やかそうとしたら「一緒に寝て欲しい」とお願いされたので、クリスと一夜をともにしました。もちろん、何も無かったよ。せいぜいクリスにキスを何度もせがまれたくらいかなぁ。不良冒険者退治騒動も周囲にいた人の証言のおかげで、簡単な事情聴取で終わったからよかった。まあ、衛兵隊長さんとはいえ、辺境伯家とこれから叙任される人間にそう強くはでられないよねぇ。


 おっと、着替えているとクリスが起きたみたいだ。音がうるさかったかな。クリスは寝起きだからかボーッとしていたけど、僕の姿を認めると、両手を伸ばしキスをせがんできた。やれやれと思いながら、頬にキスをしようとしたら、昨晩のようにお互いの口をつけるキスをしてきた。そのまま、数秒の時間が流れると、流石に頭が覚醒したのか、顔を真っ赤にしてキスをやめ、小さな声で「おはようございます。」と言ってきた。僕も笑顔で「おはよう。」と返した。


 朝食を摂ると登城のための準備が始まった。メイドさん達が僕の髪形を整えていく。服装は叙任式だから鎧だ。しかし、鋼鉄製の鎧はレナータさんとのやりとりでボコボコになってしまったので、ヒヒイロカネ製の鎧を着用する。その上に黒地に首回りに赤線の入ったマントを羽織る。よし、準備万端。メイドさん達もいい仕事をしてくれた。


 さて、今日は騎士爵への叙任なのだから、登城は馬車ではなく騎乗を選んだ。馬は、以前、呂布の愛馬“赤兎”と共に召喚した漆黒の馬だ。通常なら平民が王城に登城する際は貴族家の誰かしら、要は貴族証を持っている者が付き添うそうなのだけど、なぜか今回の王家からの召喚状には“1人で登城するように”と記載されていた。


 だから、僕は1人でアルムガルト辺境伯家の屋敷からみんなに見送られ、王城を目指す。出発するとき、みんなが「問題を起こさないように」と言って来たけど、問題の方から来るから回避しようがないんだよねぇ。まあ、何か問題が起きたら力技で解決しますか。


 さて、王城の正門についた。予想通り、堀があり、高い防壁がある。下馬し、かぶとを外し、召喚状を門番をつとめている恐らくは近衛兵に見せる。彼は召喚状をしっかりと確認したあと、大声で告げる。


「5級冒険者、ガイウス殿、ご到着ー!!開門!!」


 召喚状を返してもらい、僕はそのまま、歩いて門をくぐる。馬はすぐに厩舎きゅうしゃ員が来てくれたので、彼に預けた。門から歩いて王城に向かうと、2人の近衛兵が先導のために来てくれた。彼らの後ろをついて行く。いわゆる謁見の間に行くようだ。ふむ、思いの外、自分は落ち着いているなぁ。【鑑定】で近衛兵たちやすれ違う人たちの能力を見たからかもしれない。みんなチート補正のかかった僕よりも低い数値だったので、変に安心してしまった。


 謁見の間に入る前に、ひかえ室に通される。そこで、時間になるまで休むように言われた。また、鎧を一度全部外し、武器の有無などを調べられたので、偽装魔法袋からヒヒイロカネ製の槍を取り出し、偽装魔法袋ごと預けた。


 そして、時間となり、迎えの近衛兵が来た。その彼の後ろを歩いていく。すぐに謁見の間に着き、扉の前で近衛兵がまた大声で告げる


「5級冒険者、ガイウス殿のご到着ー!!」


 すると、大きな扉が内側に開かれる。赤い絨毯の道の先には、玉座に座る国王陛下と王妃様が、僕から見て右手側には武官の人たち、左側に文官と貴族たちが並ぶ。僕は扉の内側で待機していた2人の近衛兵に先導される形で国王陛下のもとへと歩を進める。僕の鎧の“ガシャン、ガシャン”という音と、絨毯を外れて歩く両側を歩く近衛兵の“カツン、カツン”という足音のみが響く。


 国王陛下の前まで来ると、先導役の近衛兵は僕と対峙するように国王陛下と王妃様の両側に立つ。僕は片膝立ちとなりこうべを垂れ、国王陛下のお言葉を待つ。数十秒の静寂した時間が流れる。【気配察知】で誰も動いていないのがわかる。さて、何か問題があったかな。すると、


おもてを上げよ。ガイウスよ。お主は今、何歳だ?直答を許す。」


 国王陛下からお声をかけてきた。宰相っぽい人は驚いているのか固まっているよ。周りの人たちも少しざわつく。


「12歳で御座います。」


 すぐに返答する。すると、


「12歳か・・・。ふむ。成人しておらず若いが大丈夫だろう。」


 と国王陛下が呟くのが聞こえる。恐らくは、王妃様ぐらいにしか聞こえていなのではないかというくらいの小さいお声だ。そして、


「ガイウスよ。お主の騎士への叙任は取りやめとする。お主には子爵の爵位を授ける。」


 はい、問題が全速力で来ましたよー。宰相様は慌てて国王陛下に駆け寄るし、武官や文官、貴族たちからは、「あのような子供が?」「アルムガルト家が手を回したか?」「ほう、武勲のみで授爵とはな。」「どこの領を授けられるかが問題だ。国防戦力の見直しをせんといかん。」「新しい貴族家の誕生か。家名はなんとなるのだろうか。」などなど色々と聞こえてくる。貴族家は嫉妬、武官たちは国防戦略の練り直し、文官は新興貴族家に関する手続き。それぞれの話しの話題に特色が現れていて面白い。さてさて、僕はどうなるのかな?

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