第69話 講師就任

 白目をいて気絶しているアンスガーさんをそのままに、ユリアさんへ質問する。


「金貨50枚って多かったですかね?」


「んー、何とも言えないわね。ある意味秘法を教えるようなものだから、妥当だとは思うけど、最近、ギルドの出費が多いのよ。」


「なんでですか?」


「貴方よ。ガイウス君。貴方が大物ばかりをこの短期間で狩ってくるから、今月分の予算が結構ピンチなのよ。貴方から買い取った素材とかの販売でもっているけどね。」


 あれま、僕が原因だったか。ふむ、どうしたものか。


「どっか別の町に異動しましょうか?そうすれば、ここの支部にも負担をかけずに済むのでは?」


「それは・・・。それで、問題ね。」


「なぜですか?」


「はたから見たら、有望な新人冒険者が支部を見限ったように見えるもの。」


「それは、困りましたね。」


「まあ、ガイウス君が悩むような問題じゃないわ。私たちギルド内の問題だから。気にしないで。」


 そう言ってニコリと笑みを浮かべるユリアさん。白目をいて気絶しているアンスガーさんとは対極だねぇ。ツンツンとつついてみるものの起きる気配は一向にない。あ、そうだ。


「骨折ったら痛みで起きますかね?」


「あのねガイウス君。人間の骨はそう簡単にポキポキ折るモノじゃないのよ・・・。」


 即、却下された。いい案だと思ったのになぁ。折ってもすぐに【ヒール】で治すのに。


「まあ、ギルドマスターには起きてももらわないといけないからね。私が起こすわ。」


 ユリアさんはそう言いながら、こぶしをギルドマスターの鳩尾みぞおちに打ち込んだ。「ゲボッ!?」とアンスガーさんの口から音が漏れる。あ、でも起きたみたい。


「ゲホッゲホッ、ユリアさん、こぶしはやめてください。こぶしは。」


「でも、起きられましたね。ギルドマスター。」


「ええ、起きましたとも。さて、報酬の金貨50枚の件だが・・・。」


「あっ、先程、私の方から当ギルドの財政状況を簡単に説明させていただきました。」


「そうでしたか。ありがとうございます。ガイウス君、ユリアさんの話しにもあったと思うが、金貨50枚は流石さすがにキツイ。だから、金貨の代わりに点数を付与するのはどうだろうか?そうすれば、昇級もスムーズに進むだろう。もちろん、報酬は払う。1人につき金貨10枚でどうだろうか?」


 うーむ、悩むなぁ。5分の1となった報酬。さて、どうするか。


「では、最初の10人の受講者はそれでお願いします。その後に受講を希望される方がいたら、その都度という事で。また、ギルドに支払う受講料は銀貨1枚で。この要件をんでいただければ、僕は構いません。それと、準備のため開講まで1週間ほど時間をください。まずは、エミーリアさんに取得してもらいます。」


「フムン。なぜかな?」


「なぜというと、どれがですか?」


「人数はいいとして、まずは。受講料が銀貨1枚という点。ここの金額を上げれば君にまわす報酬も上げられるようになるとは考えなかったのかい?そして、次になぜ最初がエミーリア君になったかを教えてもらいたい。」


「受講料の件ですが、これは幅広い人材に受けてもらいたいと思ったからです。先見の明のある冒険者の方なら、低級でも受けようとするでしょう。そのためにも、受講料は抑えるべきだと思ったからです。次にエミーリアさんの件ですが、僕が知っていて交流のある冒険者の中で、唯一【ヒール】が使えるからです。ただ、それだけですよ。」


「受講料の件は了承した。しかし、いくら【ヒール】が使えるからとはいえ、1週間で【エリアヒール】を取得できるものかね?」


「大丈夫だと思いますよ。(だって、エミーリアさん【ヒール】がLv.25もあるもん。)まあ、1週間後をお楽しみにと言う事で。」


「わかったよ。1週間後を楽しみにしておこう。」


「それでは、話しは終わりましたよね。失礼しま・・・「まだ終わってないよ」・・・す?」


「まだ、終わってないとは?」


「実は、君の【エリアヒール】を受けた者、全員が古傷まで治ったと騒いでいてね。何か心当たりは?」


「さあ?フォルトゥナ様の祝福でもあったのでは?」


 おっと、ここにきて新事実。僕の【ヒール】だと古傷まで治せるみたいだね。まあ、チート補正で【ヒールLv.30(150)】あるからなぁ。でもこれは、僕も素直に驚きだ。


「むう、なにか隠しているような気がするが、まあ、いいだろう。すまなかったね。話しにつき合わせてしまって。それでは、講師の件よろしく。」


「はい、それでは、失礼します。」


 頭を下げ、執務室を退室する。ユリアさんを先頭に1階に戻ると、受付カウンターに人だかりができていた。その対応にあたっていたエレさんとメリナさんが下りてきた僕たちに気づいて、


「ユリアさん大変です。ガイウス君への指名依頼クエストの発注が集中して、手がまわりません。」


 悲鳴じみた声を上げてメリナさんがユリアさんに報告する。


「わかりました。皆さん!!まずは2列に並んでください!!そこ!!割り込もうとしない!!しっかりと並びなさい!!」


 ユリアさんが声を張り上げ、冒険者たちを綺麗に並ばせる。そして、笑顔を顔に張り付かせたまま数枚の依頼クエスト発注用紙を僕に見せる。それを見て、僕は顔を引きらせた。


“ガイウスに古傷の治療をしてもらいたい。報酬は金貨1枚”


 他のも似たような内容だった。僕はため息をつき、後ろを振り返る。そこにはジト目になったクリスティアーネ達3人がいた。はい、すみません。また、面倒くさいことに巻き込まれました。

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