第53話 包囲網

 10分たったが3人が戻ってこない。というか、どこにいったんだろう?【気配察知】を使えばすぐわかるかなぁ。そんなことを考えていると、ユリアさんを先頭に2人が戻ってきた。


「宿には、ユリアさんも一緒に行くわ。大事な話があるから。」


 ローザさんが開口一番、そんなことを言ってきた。「えっ!?でも、ユリアさんは仕事が・・・。」と言うと、


「私の勤務時間はもう終わっていますから大丈夫ですよ。今から、制服から着替えてくるので待っていてくださいね。」


 そう言って、受付カウンターの奥に消えていった。とりあえずユリアさんが“鷹の止まり木亭”に来て、話しをするというのはわかった。どんな内容を話すのかわからないけど。ユリアさんが戻るまでに、その内容についてローザさんとエミーリアさんに聞いたけど、2人とも「宿で話すから。」というだけだった。


 ふむ、そう言うなら“鷹の止まり木亭”に戻るまでおあずけかぁ。そう思いながら、チビチビと果実水を飲む。ちなみに、ローザさんとエミーリアさんも果実水だ。「大事な話しだから酔っていられない。」とのことだ。


 ユリアさんが着替えに行って十数分、受付カウンターから私服姿のユリアさんが出てきた。さて、“鷹の止まり木亭”に戻ろう。


 さぁ、戻ってきました“鷹の止まり木亭”。まずは、夕食だよね。ということで、各々の部屋に装備を置きに行く。ユリアさんは併設食堂のテーブルにすでについているので、そこで少し待ってもらうことになるけど仕方ないよね。


 ユリアさんのついているテーブルに戻ると、すぐに人数分の食事が運ばれてきた。いつもは、今日の依頼のこととかで盛り上がるけど、今日はそんな空気ではなくて、ただ黙々と食事を進めた。


 食事が終わると、ローザさんとエミーリアさんが借りている2人部屋に連れていかれた。もちろん、ユリアさんも一緒だ。部屋に入ると、すぐに鍵を閉め、ユリアさんが魔法で何かをしていた。何をしたのか聞くと【風魔法】で風の障壁を作り、部屋の中の声が外に漏れないようにしたという。えっ、人に聞かれるとマズい話しなの。


 困惑している僕にユリアさんは微笑み、


「大丈夫ですよ。悪いようにはしませんから。それに、何かあってもガイウス君は自分で切り抜けるでしょう?」


 確かに能力的にはそうだけど、悪いようにはしませんって、一体何をするつもり?


 ローザさんが人数分の椅子を3:1になるように並べた。もちろん、1のほうには僕が座ることになる。目の前には右からユリアさん、ローザさん、エミーリアさんの順で椅子に座っている。


「ガイウス君、今から話すことは、昨日の辺境伯邸からのことです。率直に言いますと、私たち3人は、貴方のことを1人の男性としていています。えぇ、もちろんクリスティアーネ様という婚約者がいるのは知っています。それでも、私たちの気持ちを知って欲しかったんです。」


 ユリアさんの言う事が、すぐには理解できなかった。そして、理解した瞬間、地球の神様が言った「ハーレムも作り放題」という言葉が頭をよぎった。やっぱり、もうちょっと殴っておくべきだったかもしれない。


 それか、昨日の辺境伯様の所からということは、【フォルトゥナの祝福】が作用しているのかもしれない。それなら魔族の夢魔インキュバスの人たちと変わらないじゃないか。念のため確認しておこう。


「えっと、要は昨日から急に好きになったと言う事ですか?」


「私とエミーリアは、盗賊との戦闘で助けてもらってから気になりだして、その思いを確認できたのが昨日ということね。」


「私は、気になりだしたのは、ゴブリン討伐の後からですかね。最初は可愛い男の子としか思ってなかったんですけど。それで、好きだと気付いたのは先程も言った通り昨日です。」


 僕は、開いた口が塞がらなかった。【フォルトゥナの祝福】は恐らく作用をしていたけど、彼女たちの思いを後押ししただけなんだろう。あぁ、僕はどうしたらって、みなさん、なんか近づいて来てません。というか、半円状になって僕を包囲してますよね。


「私たちの思いは伝えました。ガイウス君、貴方が好きと言う事を。貴方の答えを聞かせてください。」


 あぁ、3人の瞳が僕を見ている。僕はどう返事したらいいのであろう。


「えーっと、お気持ちは凄く嬉しいです。でも、すぐに決められないのでほ「保留は無しですよ」・・・ハイ・・・。」


 確かに、3人とも美人で魅力的な女性だ。ローザさんは、綺麗な金の短髪にしっかりと引き締まった肉体でスタイルが良いし、エミーリアさんは、引き込まれるような黒の長髪に、スタイルは抜群。胸の大きさは3人の中で一番かもしれない。ユリアさんはエルフだから美形なうえに、長い金髪が美しい。スタイルも良いし、何より深緑の瞳は吸い込まれるような魅力がある。


 男としてはなんとも光栄な状況だけど、どうしよう?この状況を、包囲網を、どう抜け出そうか考えていると、ノックの音が響いた。


「ローザさんかエミーリアさん、中にいるかしら。ガイウス君にお客様がお越しになっているのだけど、どこにいるか知らない?」


 “鷹の止まり木亭”女将のアンゲラさんの声だ。ユリアさんは【風魔法】を扉の所だけ解除して、ローザさんが「この部屋にいますよ。」と言った瞬間、扉が蹴破られた。驚いていると、突然の事に驚いているアンゲラさんを尻目しりめに、部屋の中に人が入ってきた。すると一気に空気が変わる。


 そこには満面の笑みのクリスティアーネ様と、「あちゃー」という様子のアンスガーさんと御付きの騎士たちがいた。


「ごきげんよう。ガイウス殿。ところで、随分ずいぶんと魅力的な女性たちに囲まれています事。わたくしとの約束は遊びだったのかしら?」


 あぁ、終わった。ダレカタスケテ・・・。

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