第37話 交流会

 会場についたのは、僕たちが最後だったようだ。談笑をしていた人たちの視線が集まる。何人かは僕を見て顔を引きらせている。ありゃ、トラウマになっちゃったかな?まぁ、笑顔でも作っておけばいいだろうと思って、ニッコリと笑った。すると、顔を引きらせるどころか、顔色まで悪くなる人が増えた。・・・あれ?


 アンスガーさんが「気にしないでくれ。」と言ったので気にしないことにした。さて、僕たちは何処に行けばいいのだろうか。アンスガーさんについて行くと、ダヴィド様とヴィンフリート様のいらっしゃるテーブルの近くまで来た。あ、コンラート団長もいる。アンスガーさん曰く「ガイウス君は今日の主賓だからね。」ということで、テーブルがダヴィド様たちの近くになったらしい。


 時間になったようで、ダヴィド様が壇上に上がる。みんなの視線がダヴィド様に集まる。


「本日は、みなようやってくれた。慣れない状況下での模擬戦だったが、得られることも多かったと思う。特に、ガイウス殿は、我が騎士団を相手に一歩も引かず、果敢に攻めていた姿は素晴らしいものであった。また、竜騎士団のコンラート・バウマン団長も騎士としての礼節を欠かさず、良い勝負を見せてくれた。他の者の範になることだろう。さて、長々と口上を述べると、折角の料理が冷めてしまうのでな。ここで交流会の開始として乾杯をしたいと思う。各々、グラスの用意は良いかの。・・・では、みなと領の今以上の繁栄を願って、乾杯!!」


「「「「「乾杯!!!!」」」」」


 僕も、ブドウの果実水の入ったグラスで乾杯し、口に含んだ。そして、さすがは辺境伯と驚いた。これ、果実水ではなく、純粋なブドウの果汁だ。美味しかったので思わず近くの使用人にお代わりを頼む。うん、美味しい。


 ローザさんとエミーリアさんはワインを飲んでいるようで、こちらもその美味しさに驚いているみたい。ユリアさんは慣れたようにワインを飲んでいる。やはり、年齢のおかげで慣れているのかな。と考えたら、ユリアさんの方から殺気の様なものを感じる。まさか、考えを読まれた!?驚いていると、ユリアさんが近づいて来て、


「そんなことを考えていると、女性にはすぐわかるものなのよ。」


 と、笑顔をつくり小声で言ってきた。僕はただ首を上下に振ることしかできなかった。アンスガーさん達の憐れみの視線が身に刺さる。「さぁ、食事を楽しみましょう。」と言って、ユリアさんは料理の置かれているテーブルへと向かった。


 僕も料理を取って来ようとしたら、2人の偉丈夫が目の前に現れた。誰だろうと思っていると、


「ガイウス殿。料理を取ってきました。どうぞ、こちらのテーブルへ。」


 と案内された。「あの、お名前を伺(うかが)っても?」と聞くと、


「おぉ、申し訳ない。私はヴィンフリート・アルムガルトが長男ディルク・アルムガルト。こっちは次男で弟のベルント・アルムガルトです。」


「辺境伯様のお孫様でしたか!?申し訳ありません。お手をわずらわせてしまって。あれ、でもお2人と確か模擬戦で・・・。」


「そう、竜騎士ドラグーンとして、ガイウス殿と戦った9人のうちの2人です。いやぁ、ガイウス殿はお強い。我々もですが、コンラート団長が、ああもあっさりと倒されるとは思いもしませんでした。」


「あの、その、お言葉遣いはめていただけませんか。自分はただの平民で冒険者ですので。」


 すると、今まで黙っていたベルント様が身を乗り出し、


「だが、貴殿は、ゴブリンキングを単独で討伐し、模擬戦とはいえアルムガルト辺境伯騎士団にたった1人で勝ってみせた。実力を見せたのです。貴殿を敬いこそすれ軽蔑する者はこの会場にはいないでしょう。まぁ、貴殿の実力を垣間見て恐怖を覚える者はいたようですが。」


「えーっと、ご称讃まことにありがとうございます。しかし、辺境伯様は模擬戦が始まる前に御令孫ごれいそんは自分とそれほど年が離れていない、とおっしゃっていたのですが、お2人とも、既に成人を迎えご年齢を重ねているように見えるのですが・・・。」


 まさか、お2人ともダヴィド様のお孫様だったなんて、想像もつかなかったよ。


「あー・・・。それは、おそらく妹のことでしょうな。」


 とディルク様が答える。ふむ、確かにヴィンフリート様の近くに、僕と年齢の変わらないぐらいのご令嬢がいる。あっ、目が合った。取り敢えず頭を下げておこう。顔をあげると、先ほどまでヴィンフリート様の近くにいたご令嬢が、目の前に来ていた。


「9級冒険者のガイウスと申します。」


 当たり障りのない自己紹介をして頭を下げる。すると、


わたくしは、クリスティアーネ・アルムガルトです。ガイウス殿、どうか、お顔をお上げになって。」


 「ハッ」と言い、顔をあげると笑顔のクリスティアーネ様が目に入る。まるで花が咲いたような可憐な笑顔だ。僕は顔が熱くなるのを自覚した。

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