第29話 新しい能力です

「驚くのも無理はないわね。でもね、これから私の世界ではその能力を持った強い者が必要になるの。」


「それは伝承や物語に出てくる邪神を倒す勇者になれということですか?」


「勇者は、私が神託を出して他の者にさせるわ。そもそも邪神とは明確に定義できるモノではないの。あらゆる生物の怒り、憎しみ、後悔、悲しみなどの負の感情が集まってできるモノなのよ。だから私にもいつ生まれるかわからないモノなのよね。」


「それでは、僕は何をすればいいのですか?」僕は問う。


「簡単よ。冒険者を続けて魔物を狩り続けてほしいの。今、この世界では魔物の数が他の生き物よりも増える速度が加速しつつあるの。あなたが殲滅したゴブリンの集落もその余波で生まれたモノね。放置していたら数千体にまで増えてスタンピードが起きていたでしょうね。」


「フォルトゥナ様がどうにかはできないのですか?」


 フォルトゥナ様は苦笑いしながら、


「私みたいな力を持った神が降臨するとなると世界に大きな影響を与えてしまうの。簡単に言うと世界という受け皿が私の力を受け入れきれずに私の力がこぼれてしまうの。それこそ天変地異が起きるでしょうね。最悪、世界が壊れるかもしれない。でも、どんな結果になるかは私にもわからない。だから、貴方に頼むのよ。ガイウス。」


 そう言ってフォルトゥナ様は静かに頭を下げる。確かに教会で読んだ聖書や勇者の伝記には、「フォルトゥナ様の神託があり、世界が救われた。」という記述はあってもフォルトゥナ様自身が降臨されたというのは無かった。


「つまり、僕がフォルトゥナ様の代わりとして世界の管理者のような役割をするということでしょうか?」


「話が早いわね。その通りよ。」


「もし、人間が増えれば人間を殺さなければならないのでしょうか?」


「そんなことしなくても、人間は食糧や資源、土地を巡って勝手に殺し合うじゃない。貴方が手出しをするときは、それがいき過ぎてしまった場合よ。」


 フォルトゥナ様は笑いながら答える。いや、人間の僕には笑えないんだけどなぁ。んー、どうしようか。【不老不死】の能力を受け入れるべきか。悩む。家族や知り合いが、みんな寿命で死んでいく中で自分だけが歳をとらず生き永らえていくのは、どんなものだろうか。虚しいに違いない。よし、断ろうと答えだした瞬間、肩をポンと叩かれた。その瞬間体が光った。振り返ると地球の神様が笑顔で居た。嫌な予感がする。とりあえず聞くだけは聞こう。


「どうかしました?」


「おめでとう。これで君も【不老不死】だ!!」


「なんてことしてくれるんですか!?断ろうと思ったのに!!」


 地球の神様は笑いながら言う。


「君のことだから「家族や知り合いが死んでいくのを見送るのはゴメンだ。」とでも考えていたんだろう?」


 図星をさされる。答えにつまっていると、


「我々、神がいるじゃないか。それでは、不満かな。それに不老不死って異世界転生・転移でも結構人気な能力なんだよ。あと、不老とは言っても身体能力のピークの10代後半から20代前半までは成長するからね。ちゃんと大人になれるよ。ハーレムも作り放題。」


 なんとも自分勝手な神様だ。フォルトゥナ様が、この神様に対して暴力を振るうのをいとわないことが、なんとなくわかった気がする。僕は肩を落としながらフォルトゥナ様に尋ねる。


「本当に【不老不死】の能力が付与されたんでしょうか。今からでも取り消しは・・・。」


「このバカがごめんなさいね。もうすでに【不老不死】は貴方の能力として付与されたわ。そして、このバカが取り消しを出来ないようにロックをかけているの。解除できるのはこのバカだけよ。本当にごめんなさい。」


「もう、いいですよ・・・。フォルトゥナ様・・・。ただ、1つだけいいでしょうか?」


「何かしら?私にできることなら言ってちょうだい。」


「あの地球の神様を殴ってもいいですか?」


「いいわよ。「よくないよ!!」黙りなさいこのバカ!!」


 異を唱える地球の神様にフォルトゥナ様の拳が叩き込まれる。そして、僕もいつも通りにまずは膝を破壊し、「痛ってー!!」うずくまった瞬間、顎に蹴りを入れる。「うがぁっ!!」そして全力を込めたパンチを顔面に叩き込む。「ごっ!?」と呻いて地球の神様は倒れた。少しだけスッキリした。フォルトゥナ様のほうへ向き直り、


「納得は出来ていないですけど、【不老不死】の能力をいただきます。」


「本当にごめんなさい。私の【祝福】と【加護】もあげるわ。普通は聖女とか勇者だけに与えるのだけれど、今回は特別。迷惑料として受け取ってくれるかしら?」


「はい、ありがたく。」


「なら、よかった。」


 笑顔でフォルトゥナ様が僕の頭に手を乗せる。すると一瞬だけ体が光った。


「はい、これで終わり。このバカは私がちゃんと折檻せっかんしておきます。それでは、今回はここまでね。またねガイウス。」


「はい、フォルトゥナ様」


 光に包まれ、それが収まると僕は「鷹の止まり木亭」の部屋にいた。窓から空が白み始めているのが見える。新しい僕の人生と新しい一日が始まる。

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