第26話 呼び出し・その6(ギルドマスターの執務室へ)

 練習場の待合室に戻り装備をなおすと、そのままギルドマスターであるアンスガーさんの執務室に行くことになった。報酬もそこで支払いをしてくれるようだ。アンスガーさんを先頭に執務室へと向かう。観覧ブースから出てきた冒険者たちはみんな僕たちに道を譲ってくれる。その中で「ガイウス!!」と声をかけてくる人がいた。アントンさんだ。


「相変わらずえげつない闘い方だったが、やっぱり勝ったな。お前さんに有り金を全部かけていたおかげでウハウハだよ。」


「それはよかったです。闘い方についてはあれが僕のスタイルですので。体格が自分よりも良い方には、ああやって膝を壊して同じ目線になってもらった方が、急所を狙って闘いやすいんですよ。」


「ハハハ、今後お前さんと闘う奴がかわいそうになるな。じゃあまたな。」


 そう言いながら片手をあげて去っていく。さっぱりとしている人だなぁ。今朝、負けたことを根にも持っていない。その背を見送り、執務室へ向かうため受付カウンターの中に入っていき、階段で2階へと上がる。


 2階に上がってしばらく歩くと、「さぁ、ここだよ。」とアンスガーさんが扉を開け、室内へ入るよううながすす。一緒に着いて来ていたユリアさんにお茶を用意するようお願いして、アンスガーさんとアラムさんも入ってきた。長居するつもりはないからお茶とかいらないんだけどなぁ。


 応接机を挟んで向かい合わせで置かれているソファに座るよう手でうながされる。僕を中心にローザさんが右にエミーリアさんが左に座る。アラムさんも腰かけるが、アンスガーさんは扉を向くように置かれている執務机でなにやらごそごそしている。


 執務室の扉がノックされる。アンスガーさんは相変わらず執務机で何かを探しながら「どうぞ。」と返事をする。扉があき、ユリアさんとエレさんがお茶とお茶請けを持ってきてくれた。それぞれの前に置いていると、「あった。」とアンスガーさんが何かを持って応接机のほうに戻ってきた。


「無理を聞いてもらったお礼だよ。」


 と目の前に革袋が置かれる。中身を確認すると金貨が入っていた。報酬は白金貨9枚のはずだ。それにはだいぶ足りない。僕が怪訝な表情をしながら顔をあげると、


「そんな顔しなくても、これは報酬とは別だよ。報酬の白金貨9枚はしっかりと払うから安心してほしいな。」


「別といいますと?」


「さっきも言った通り無理を聞いてもらった個人的なお礼さ。臨時収入とでも思って受け取って。」


「わかりました。ありがたく頂戴します。ローザさんとエミーリアさん、これはパーティでギルドに預けようと思うんですがどうでしょう?」


「それでいいわ。」「私も。」


「では、処理の方を私がしておきましょう。」


 とエレさんが名乗り出てくれた。「お願いします。」と言い革袋と3人分の預かり証を彼女に渡す。彼女はそれらを受け取ると一礼して執務室を退出した。残ったのは僕たち3人とアンスガーさん、アラムさん、ユリアさんの6人だ。


「さて、今回の試合はとても有意義なものであった。シュタールヴィレの実力、特にガイウス君の能力の一端を知ることができた。私やアラムでは手も足も出ないほどの実力を持っており、どこからともなく武器を取り出すことができる能力を持っている。ガイウス君、君は【収納】の能力を持っているのではないかな?」


 真正面から目を見て話される。空気が張り詰める。確かに【収納】の能力は持っている。しかし、明かすつもりは今は無い。だからとぼけることにした。


「【収納】とは?一体何のことですか?」


「【収納】とは、その能力者によって容量は変わるが、ありとあらゆるモノを異空間に収納できる能力のことだよ。知らないかい?」


「知りませんね。というかそんな能力持ってませんし。」


「ふむ、なら何故、何もないところから武器が出てきたのかな?教えてくれないかい?」


 僕は両隣の2人に対して頷き、【召喚】の能力を話すことにした。


「【収納】は使えませんが、僕は【召喚】が使えるんです。試してみましょうか。」


 そう言って、張り詰めた空気の中で地球にもいるであろう「猫」を召喚する。応接机の中心に魔法陣と光が現れ、光が消えると一匹の黒猫が座っていた。


「ほう、確かに。【召喚】の能力のようだ。アラムはどう思う?」


「私も今まで見たことのある【召喚】と同じように思えるね。」


「それではもういいですね。【送還】」


 猫が魔法陣と共に消えていく。すると今まで張り詰めていた空気が弛緩する。


「いやぁ、すまないね。もし君が【収納】の能力を持っているなら、私個人として父であるアルムガルト辺境伯に報告しないと、と思ってね。」


「ギルドは冒険者の個人情報をそんな簡単に外に漏らすんですか?」


「いや、ギルドは個人情報の管理はきっちりとしているよ。ただ、さっきも言ったように私個人が知りえた情報、今回で言えば君たちとの試合で得た情報だね。これについては何の制限も無い。どうとでもできる。」


「屁理屈ですね。でも、そうですね人の口には戸が立てられないですから。」


「まさにその通り。今回の呼び出しの理由はこの文書のことなんだ。」


 アンスガーさんはそう言いながら封筒を机の上に置く。そこで僕はハッとする。さっきも言っていたではないか、個人で知りえた情報はどうとでもできると。


「まさか、その封筒の中身は・・・!?」


「フフフ、おそらくは君が思っているまさかさ。父に、冒険者としての私個人の目から見た君のことを紹介する文書が入っている。そして今回の試合の内容についても追記するつもりだよ。」


「ファッ!?やめてください!!辺境伯様に僕を紹介するなんて!!僕は一冒険者として平和にほのぼのと暮らしたいんです!!!!」


 すぐに拒否をする。アラムさんがボソッと「冒険者になっている時点で平和とほのぼのとはほど遠いけどね~」と言っているが気にしない。あぁ、なんでこんなことに。頭を抱えてしまう。


「あのね、ガイウス君。冒険者になる前に通りがかりで盗賊団を殲滅して、なおかつテストとはいえ衛兵隊長のドルスさんを一方的に倒し、さらに冒険者になって二日目には試合で準3級のアントンさんを倒し、その日の午後にはゴブリンキングのいる集落を殲滅して移動がてらロックウルフとかを討伐して無傷で帰って来る。さらに疲れているだろう状態でそのままギルドマスターとサブギルドマスターに試合で勝ってしまうなんて普通は無いのよ。そんなことができる人物は、ギルドマスターが辺境伯に教えなくても自然と耳に入って、呼び出しが絶対に来るわ。」


 ユリアさんにそう言われると、確かにこの2日間の僕の行動は冒険者なり立てとは言い難い結果を出している。諦めるしかないのかとうなだれていると、ユリアさんが続けて言う。


「辺境伯に呼び出しを受ける前に、ギルドマスターの紹介で会っていた方がいいわ。紹介状の中にガイウス君とパーティメンバー、知人と行くと付け加えてもらえれば、貴方1人で辺境伯に会わなくてもいいかもしれないわよ。」


 その言葉を受け、僕はアンスガーさんの方に目を向ける。彼は頷き、


「もちろん、辺境伯である父に君が1人で会うことにならないようにしよう。書状にもそのむねをしたためよう。一緒に着いてくるのはシュタールヴィレの2人と誰にする?」

 

あれ、いつの間にかなんか辺境伯様に会う流れになっている。しまった・・・。

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