第7話 冒険者になる前に一仕事・その1

 村が見えなくなるまでさほど時間はかからなかった。村から一番近い町『インシピット』は、歩きでは朝に村を出れば日が落ちるまでには着く。もちろん、道中で何にも出くわさなければだけど。道の両側は大人の膝丈ぐらいの草原が続き、右側は途中で森へと変わっていて、左側は見渡す限り草原が続いている。

 

 そろそろ、お昼にしようと思いほかの通行人の邪魔にならないよう少しだけ森側に道から外れ、背嚢から折り畳み式の椅子と母さんの作ってくれたご飯を出した。さて、食べようとしたとき森の中から鉄と鉄がぶつかる音と男と女の声が聞こえてきた。周囲の通行人には聞こえて無いようだ。おそらくチート能力の【ステータス5倍】で聴力が強化された僕だけに聞こえているんだろう。

 

 僕は急いで広げたものを片づけて森の中、音のする方へと走った。強化されてから初めて走ったせいか、最初はうまく走れず木の根に躓いたり藪を飛び越えようとして木の枝に頭をぶつけたりした。それでもすぐに慣れてスピード以外はいつも通りに走れるようになった。さぁ、あとは急ぐだけだ。僕はさらに加速した。

 

 2分と少ししてから音と声の発生場所にたどり着いた。近くの藪に身を隠し見てみると、5人ほどの男たちと、2人の女が対峙していた。どちらに加勢すべきかと思い、とりあえず鑑定を使った。すると男たち全員に【職業:盗賊】と表示されていた。女の方は1人が【職業:冒険者・剣士】、もう1人が【職業:冒険者・魔法使い】と表示された。これならどっちに加勢するかなんて答えは簡単だね。僕は藪から勢いよく飛び出し、冒険者の方に


「加勢します。」

 

 と声をかけて手近な盗賊その1にパンチした。お腹にパンチが命中した盗賊その1は「うぐゎぁっ!?」と勢いよく吹き飛んでいき木にぶつかりそのまま倒れた。一瞬の静寂がその場を支配したけどすぐに冒険者の剣士さんが、


「助かる!!」


 と返事をして自分の目の前の盗賊に向かっていく。魔法使いさんも魔法陣を出現させ魔法の詠唱を始めていた。


「ふざけんな!!このガキが!!」


 盗賊側も立ち直りかけていた。僕に向かって剣を振りかざして盗賊その2がやって来た。今度は剣を持つその手にハイキックをお見舞いした。ボキッという鈍い音と共にその2の手から剣が零れ落ちた。すかさず僕はその2の顔を掴んで思いっきり後頭部を地面に叩きつけた。「んがっ!?」と白目を剝いて気絶した。たぶん。


 その1もそうだけどその2も死んでいないと信じたい。僕は動物を狩りで殺したことはあるけど、人に暴力を振るったことなんて今まで無い。だから、もちろん人を殺したことなんて無いんだ。そんな僕の思いをよそに頭の中に声が響く【経験値が貯まったのでLv.12となりました。剣術がLv.2になりました。格闘術がLv.34になりました。防御術がLv.21となりました。】経験値が入ったということは殺してしまったのかな・・・。


 それでもこの状況を切り抜けるにはやるしかない。剣士さんと魔法使いさんがそれぞれ1人ずつ倒して盗賊は残り1人となった。


「な、こんなはずじゃあ・・・。どうにか逃げてお頭に報告しねぇと。」


 後ずさりしながらブツブツ言っているけど、まだ他にも仲間がいるみたいだね。それならこの盗賊その3にはそこまで案内してもらって殲滅したほうがいいのかもしれない。倒す気満々の剣士さんと魔法使いさんの傍に行って僕の考えを提案する。2人ともすぐ傍に来た僕の速さに驚いていたみたいだけど、すぐに僕の提案を了承してくれた。


 僕は逃げようとしていたその3に接近してまずは膝の骨を折り、次に肘の骨を折った。これで魔法でも使わない限り逃げられなくなった。そのあとは首を折らないように喉を握り声が出せないようにした。僕は殺さないことを示すために安心させるように笑顔をつくりながら、


「僕たちをおじさんたちの残りの仲間の所まで案内してくれる?」


 と聞いた。その3は物凄い速さで首を縦に振った。さぁ、もう一仕事だ。

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