トム・ダーティは君の隣に
何処之どなた
第一章
第1話
「吉野くん……わたしのおっぱい、見てくれますか?」
僕、
露わになる胸元。淡いピンクのブラが神々しく輝いている。
「……どこか、変でしょうか」
白峰さんは頬をほんのりと桜色に染め、涙目で恥ずかしそうに俯く。
「ど、どこもおかしいところはない……と思うけど……」
「吉野くん、ちゃんと……見てください。お願いします」
視線を彼女から逸らしてさまよわせていたけど、それをばっちりと見咎められていた。
夢、じゃなかろうか。僕の部屋に、アイドル白峰夢乃さんがやってくるなんて。
そしてただでさえ狭い四畳半を圧迫している小汚いシングルベッドに座り、彼女が僕の前で胸元をはだけさせているなんて。
前後の記憶も定かでなく、目の前で起きている奇蹟に、僕はただ心拍数を急上昇させ、呼気を荒くすることしかできずにいた。
「わかりました……下着も外しちゃいますね……」
何を得心したのか、白峰さんはシャツの前をはだけさせたまま、後ろに手を回す。
下着の締め付けから解放され、その反動で柔らかな二つの豊かな膨らみが撓んで揺れた。
ぽよよん、と音がした。……気がした。
たぶん、幻聴だろう。異常に興奮しているせいか、僕の五感は正常に働いていない。
喉がカラカラに渇いて一言も発することができずに、僕はただ黙って彼女のブラが外れかかっている胸元を凝視している。
ややあって、白峰さんは意を決したようにこくりと一つ頷いてから、実りある房に覆い被さるワイヤー入りの布地を、ゆっくりと上にずり上げた。
「これで……ちゃんと見えます、よね……?」
ベッドの上、白峰さんは上目遣いに僕を見て、震える声で呟いた。
僕はごくりと唾を飲み込み、おそるおそる視線を下げていく。
そこには、ネットやテレビ画面越でさえ見ることのできなかった白峰さんのおっぱいが顕現していた。
興奮しているせいか、モザイクがかかっているみたいに、ちょっと視界がぼやけていて、神々しい山頂付近はよく見えないんだけど。
僕は思わず、自分の頬を叩いた。それも手の平ではなく、渾身の力を込めた拳で。
痛みが走る。絶賛大量分泌中のアドレナリンのおかげか、さほどではなかったけど。
「夢じゃ……ない……?」
「吉野くん、何を言ってるんです……? わたし、夢でも幻でもないですよ?」
白峰さんはそう言って僕の手をとり、そのまま彼女の胸に持って行く。
「し、白峰さん……こ、これはいくら何でも……」
言葉では抵抗を試みたけど、身体は正直で、少しも力を込めていない。
やがて僕の手が白峰さんのおっぱいに着地すると、彼女の鼓動がそこから伝わってきた。
どくんどくん、と早鐘を打っている。
手から伝わる暖かい体温は、紛れもなく白峰さんの興奮を示していた。
「ど、どうかな……変、かな……ひゃうっ」
僕は返事もせず、煩悩の勢いに任せて白峰さんのおっぱいを強く握った。
ぽにゅにゅん、と音がした。そんな気がした。
実際には若干イメージとは違って少々硬かったけど、一応筋肉ではあるからと納得する。
孤を描く胸のラインに、触れた手の窪みがこんなにジャストフィットするんだな。
不思議と心に満ちていく安心感。銃ではなくおっぱいを両手に握れば、世界中がもっと平和になるってネットで見たけど、それは本当なのかもしれない。
二度三度と胸を揉んでいるうちに、そんな感慨深い思いが僕の中に去来する。
僕は逆らえないリビドーに従い、お願いもされてないのに、自ら白峰さんのおっぱいに顔を埋めた。
「ちょっ、よっ、吉野くんっ……だっ、だめですっ、そこは……んんっ!」
白峰さんの制止も振り切り、無我夢中でおっぱいにむしゃぶりつく。
興奮して発汗作用が働いているのか、思ったよりもしょっぱい。
しかし僕も男だ。これしきの塩加減で怖じ気付くわけもない。
匂いも……ちょっとばかり濃厚な気はするけど、今の僕を止めるほどの効果はない。
「しっ、白峰っ、さんっ! ぼ、僕は、僕はきみを――」
めくるめく絶頂に向かって、脳内はお祭り騒ぎの大フィーバー。
過剰なアドレナリン分泌が、僕の意識を遠ざけていく。
そして気を失う寸前、ようやく僕は気が付いた。
僕と白峰さんの間には、恋人どころか友人の関係も……いやそもそも知り合いでさえない。僕は、アイドル白峰さんに勝手な憧れを抱いている一ファンに過ぎない。
……これ、夢だね。どう考えても。
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