ゼノラウズの神撃機【Genesis of XENOROUSE】
蘭 郁沙
第1話 【炎中のネルヴァ】
今から約千年前、帝国ヴェルタイトは大戦争を余儀なくされた。人類自らが作り出した人型アンドロイド、『ネルヴァ』の手によるシンギュラリティが世界の均衡を大きく変えた。
『ーー人類は世界に不必要な存在だ。私達ネルヴァが、世界の王となる』
人が死に、ネルヴァが死に、長期間に渡り多くの血が流され続けて来た。大地は割れ、野は焼かれ、大気は汚れ。
しかし、とあるネルヴァが起こした革命は、人類の手によって儚く散っていった。四百年の戦い末、人類は殆どのネルヴァの殲滅に成功。核の甚大な被害に加え、ネルヴァの消失により生活水準は著しく下がったが、人類は平和な世界を再び取り戻した。
果たして人類の選択は、正しかったのだろうか。
人は何故か思い出す。『ーー人類は世界に不必要な存在だ』。この言葉は、戦争で勝とうが、どれだけネルヴァを破壊しようが、人の心に深く刻まれたもの。
ーーそう、人類は既に穢れ切っていたのだ。取り返しのつかない程に。
ーー人類は、失敗した。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「おーいっ! もう無理だぁ、とっとと逃げねぇとあんたまで死んじまうぞっ!!」
「それにしたって……どうすりゃ良いんだよっ……! くそう、やっちまったぁぁぁ!!」
家の外から中年男性達の声が聞こえてくる。会話の内容から、やけに焦っているようだ。何かあったのだろうか、気になって外に出てみる。するとーー。
「これは……」
パチパチと音を立てて目の前の木が燃え朽ちていく。見渡すと、ここだけに留まらずに森一帯に火が広がっている。おそらくこの山は手遅れだろう。見ると自分の家も火が移っている。
「おいっ、あんた! すまねぇが早く逃げねぇと死んじまうぞ! この山はもうダメだ!!」
声の主である中年二人が注意を促してくる。格好を見て、キャンプしに来たのだろう。奥には火種の原因のような処理を誤った焚き火の残骸が。この山は国有地ではない未開の地なのだが、よくもまぁ見つけては入ろうと思ったものだ。
「わかった、私も逃げる。でも、そっちは行き止まり。逃げるならこっち」
「おぉ……詳しいのかい? なら是非とも案内をお願いしたいのだが、構わないかね?」
「……ついて来て。くれぐれも足場には気を付けるように」
男二人を火事の中、安全なルートを辿って人里へ送り出す為、案内を始める。自分の住んでいた場所を焼いた当事者の命を助けるなど、限り無い皮肉だ。
案内を続けていく内に、住んでいた思い出の場所が目に入る。食糧として世話になった木の実がなる密林、嵐を凌いだこともあった洞窟、唯一身近にいた森の生き物達。
ーーそれらを全て、無情にも手放した。一切の躊躇いも無く。呆れも、怒りも、悲しみも、寂しさも、全ての感情を持たずに。
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「助かったぁ〜っ! いやぁ、ありがとなぁ嬢ちゃん! お陰でまた女房に会えるや……」
「いえ、お構いなく。ここから少し歩けば、運搬用の竜車が通ってるから」
男達は涙目で感謝を伝えた。それでも、彼女は表情を全く変えずに、静かに凛と佇んでいる。ショートヘアの銀髪と、紫色の線が入った漆黒のコートが炎に照らされながら。
「あのう、嬢ちゃん……これ、少ねぇけど受け取ってくれよ。家も住む場所も燃えちまったしよ、こんくらいはさせてくれねぇか……?」
もう一人の男が差し出したのは、ジャラジャラと貨幣が入った小袋。それなりの額はありそうだ。
「……ありがとう、ございます。大切に使う」
「あぁ、それと嬢ちゃん……もう一つまだ聞いてなかったや。嬢ちゃん、名前は……?」
(名前、か。久しぶりに口にする……。そう、私の……名前はーー)
男達に背を向け、ポツリと呟く。己の、封印された名前を今。
「ーーフィア・ゼノラウズ」
ゼノラウズの神撃機【Genesis of XENOROUSE】 蘭 郁沙 @Ikusa23
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