第19話「報酬」
特大型の警備ドローン、ミノガクレに勝利した浜之助とフゥはさっそく報酬の剥ぎ取りを開始した。
浜之助の方は無事そうな銃器類を取り外し、帰りの土産にしようとしていた。
「ミサイルサイロは……、取り外しできないよな。使えれば便利そうだけれども」
「エクゾスレイヴのスキルに使えそうな部品や制御系チップもなさそうだ。収穫はあまりないようだな」
浜之助は合流したワッツと共に火の消えたミノガクレの周りを散策するも、他にめぼしいものは見つからなかった。
一方、フゥの方はと言うと。
「フゥ、目当てのセキュリティクリアランスはあったか?」
フゥはミサイルサイロの穴から内部を探しており、たった今外へと顔を出した。
「運よく無事だったの。これさえあれば、中型以下の警備ドローンをハッキングできるの」
フゥの掲げるチップは2本の指でつまめるほど小さく、ぱっと見ただけでは重要そうなものだと思えなかった。
「便利なものだよな。そいつで警備ドローンをハッキングできれば、俺の所の未来人種達も自由に外へ出れるだろうに」
フゥも探索を終えたらしく、浜之助の傍に近寄ってきた。
「なら、これはあげるの」
「ん? いいのか」
「データの写しはもう手に入れたの。だから、これはお礼。助けてくれてありがとうなの」
フゥは浜之助の手の平にセキュリティクリアランスのチップを渡すと、小さく会釈した。
「礼を言うのはこっちのほうだよ。こんな良いものをくれるなんて……。どう言ったららいいのか」
「浜之助は無償で助けをしてくれたの。マスターも、ここにいたらきっと同じことをするの」
「マスター、か」
浜之助はここでやっと、抱いていた疑問を訊く機会を得た。
「このセキュリティクリアランスといい、フゥのマスターといい。目的は何なんだ?」
「……。今は詳しく言えないの。でもマスターは危機的な状況。いつか、浜之助の助けを借りたいの」
「いつかと言わずに今すぐでもいいよ。俺にできることなら、頼ってくれよ」
「その言葉だけでも嬉しいの。でも、マスターはまだ時間は残っていると言っているの。でももし、その時が来たら……」
「おう。俺に任せてくれよ。俺はいつでも助けに行くよ」
「……ありがとう。浜之助なら、私は後悔しない」
フゥは何故だか寂しそうな顔をして、浜之助の申し出を喜んだ。
「それじゃあ、私はもう行くの」
「向こうのでかいシェルターの中を見なくてもいいのか?」
「こちらの物資は十分なの。目的を達したら、すぐにでも帰らないとなの」
「そうか。それならここでお別れだ。またな。フゥ」
「ええ。またなの」
フゥはそう言うと、浜之助たちのシェルターがある方向とは反対の坂を上って、帰って行った。
「さて、こちらは今からが本題だ」
浜之助はミノガクレが守っていた巨大なシェルターの前で身構える。
おそらくはミノガクレ以上の脅威はない、と思われるけれども、備えるにこしたことはない。
「このシェルターは扉にロックがありそうだぞ。行けるのか?」
「問題ない。俺は過去人種だからな。生体認証は突破できる」
浜之助はロック解除の生体認証に触る。
すると、まもなくシェルターの扉が動き出した。
シェルターの扉はこれまでと同じように半開きになり、浜之助が問題なく通れる広さの隙間が空いた。
浜之助はそこから中へと侵入した。
「見た目以上に、でかいな」
浜之助が中に入ると、そこは人工的なLEDライトに白く照らされた格納庫となっていた。
その中で一番目立っていたのは、勢ぞろいするカプセルの山だ。
「もしかして、これ全部が冷凍睡眠のカプセルなのか!?」
カプセルは天井に届くまで並べられ、シェルター内部の端から端まである。
これではまるで冷凍睡眠カプセルの見本市だ。
「だが運がいいな。これなら、確実に解凍液があるぞ」
ワッツの言う通り、しばらくシェルターの内部を練り歩くと、貯蔵庫を発見した。
そこには解凍液がダンボールの中に山積みされており、ざっと計算しても浜之助が何度も天寿を全うできる数があった。
「はははっ。これだけあればしばらく安泰だ! 助かった!」
浜之助は命の危機を回避したことに喜ぶ。
この解凍液さえあれば、冷凍病で脳が壊死する心配はない。
まさに僥倖。天の助けである。
浜之助はひとしきり喜んだ後、あることに気付いた。
「……ここの連中を起こしてやれないかな」
「どうだろう。解凍液の数的には、全員分足りない。厳選する必要があるな」
「それにイデアにも冷凍睡眠している人たちがたくさんいる。誰かを選ぶなんて、俺には難しいよ」
「だが選ぶしかない。全員を助けるには物資が不足している。感情的になるな。もっと合理的な思考をしろ」
ワッツのアドバイスに、浜之助は「ああ」と頷いた。
浜之助はここにある解凍液全てを運ぶのは無理だと判断し、とりあえず数年分の解凍液を背負子に背負った。
これで後は、ミノガクレの搭載していた武器を回収すれば完璧だ。
浜之助はシェルターを後にする時、ふと整列する冷凍睡眠カプセルへ振り返った。
「必ず、必ず助けるからな。眠り続けろなんて責務は俺が認めない。この世界は、もっと自由なんだ」
浜之助は決意を新たにすると、シェルターの外へ出た。
そして、シェルターの扉はゆるやかに閉じられ。
シェルターの内部は無人の博物館のような静けさに戻った。
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