第17話ゲーム仲間
そしてお昼休みーー
「あっ・・・お姉様、そっち行ったのです!リザードマン!」
「はい、お任せ下さい♪いいとこにきましたよ〜。爆破っ!」
ゲーム機の中で、ど派手な爆発が起こってトカゲ人間たちが宙を舞う。
「おおお・・・お見事なのです!一網打尽!」
「これで、あとは消化試合みたいなものですね。」
「はいなのですっ!」
お弁当を食べ終わると、私と遥さんは二人でゲームをして盛り上がっているところだった。
レベルも、上がりいよいよ面白くなってきたところだ。
「うーん・・・こういうのよく分からないけど、葵ちゃんはゲームも上手い・・・っていうことでいいのかな?」
円香さんたちが二人の光景を見ながらつぶやく。
「先程からの会話を聞いている限りでは、そうみたいですね。」
「葵・・・夕べ部屋でも楽しそうにゲームをしていたわ。結構やりこんでいるみたい。」
「なんか、ちょっと意外・・・・。」
「いえ、私だってゲームくらいやりますから。」
「でも、なんだか葵様のイメージとは違いますよね。慣れない遊びにあたふたしていそうな印象だったんですが。」
「このゲーム、前作はやってましたから。基本は同じなので久しぶりですけどすぐに慣れました。」
「むぁぁ、余計に葵ちゃんのイメージが崩れるぅ!せめて乙女ゲーとか、女の子向けのをやってよぉ!」
・・・正直ちょっとそれは御免被る・・・。
男の子が男の子向けのゲームを楽しんで何が悪い。
いや、別にそこまで男の子向けって内容ではないけれど。
遥さんも夢中になっているわけだし。
「よしっ、クリアーなのです♪でもこの学園でゲームやる人ってあんまり見たことないのです?」
「・・・まぁ、お嬢様学校ですからね。」
「あたしも、実家にはゲーム機あるけど、正直あんまり使ってないなぁ。スマホのソーシャルゲームはやるけど。」
円香さんが答える。
「お姉様っ!まだ時間大丈夫です?もう一回!次はこの水竜退治に行くのです!」
「・・・レベル足りるでしょうか?まぁ挑戦してみるだけでしたら・・・。」
ーーと、もう一戦始めようとした時のこと。
「・・・ところで、二人とも、ちょっといいかしら?」
天音さんが話しかける。
「ふにゃ?天音お姉様?」
「実は、あんまり楽しそうにしているからずっと言いそびれたのだけれど。」
「天音さん・・・?」
天音さんは申し訳無さそうに一つ深呼吸する。
「ゲーム機の持ち込み、校則違反なの。」
「えっ、そ、そうだったのです・・・?」
「天音さん、そういうことは早く言ってくださいよぅ。」
すると円香さんも驚く。
「ほへぇ。そんな校則あったんだぁ。」
「別に持ち物検査とかありませんからね。先生方も気にしてなさそうですし、バレなきゃ平気っぽいですけど。」
結衣さんが言う。
「ん、学生会でも特に取り締まったりはしていないわ。でもあまり堂々と遊ばれるとちょっと困るわ。」
・・・まぁ天音さんの立場上そうだろう。
「遥さん、今はこのくらいにしておきましょう。」
「・・・しかたないのですぅ。」
遥さんはしょんぼりしながら頷く。
「続きは帰ってから、また一緒に遊びましょうね。」
私は苦笑して言いながら、パタンとゲーム機を閉じる。
「わかったのです・・・でも、絶対ですよ?約束なのです。」
「はい♪水竜は手ごわそうですから、それまでに作戦を考えておくってことで。」
「はいなのですっ!」
(遥)
1年生の教室に戻ってきて、午後の授業中ーー
(・・・・う〜ん・・。)
適当に授業を聞き流しながら、はるかは頭の中で考える。
(さっきはお姉様に見せ場を持っていかれたのです。)
お姉様が楽しんでくれるなら、それが1番ではあるのだけど。
(でもでも、はるかだっていいところをお姉様に見て欲しいのです!)
ーー格好いいとこを見せれたら、お姉様は褒めてくれるだろうか?
「ふへ・・・・♪」
大活躍のご褒美に頭を撫でてもらえる光景をはるかは妄想する。
これはなんとしてでもいいところを見せなきゃなのです!
でもそのためには・・・現状の砲精度がいまいちなのです。
今夜お姉様と赴く場所には水竜がいる。
水竜を倒すためには水面から顔を出した瞬間を狙い撃つ必要があるのです。
「・・・武器の改造をしておくべきなのです。」
ああ・・・血が騒ぐのです。
うずうず・・・我慢できないのです。
・・・・バレなきゃ、大丈夫です、よね?
(そっと・・・そぉーと・・・。)
鞄の中からゲーム機を取り出す。
教科書を立てて・・・
その影で起動して・・・。
あ、先にボリュームを0にしておかなきゃなのです!
(よし・・・・それじゃ、ステータス画面を)
ちまちまと操作して、武器を改造する。
「ふむ・・・・。」
ついでだからメディカルキットも買いたしておくのです。
お姉様がピンチの時に、颯爽と駆けつけて回復・・・。
「んふふ・・・♪」
そして細心の注意をもって、ステータス画面をチェックーー
「・・・・いい度胸ですね、皆本さん。」
「ふぇっ!?」
先生に見つかってしまった・・・。
「授業中に何をやってらっしゃるんですか?」
「いえっ、あのあの・・・これは。」
いつの間にかすぐ隣に先生が立っていた。
「まずはそれ、没収です。」
「あっ、ふぇぇぇっ!?」
ひょいっとゲーム機を取り上げられて、はるかは抗議の声をーー
「何か反論でも?」
「・・・ないのですぅ。」
ーー上げられるわけもなかった。
「私はとても怒っています。お分かりですね?」
「・・・はいなのです。」
「本来ならゲンコツを落としたいところですが、近頃は体罰がどうのとかうるさいのですよ。」
くすくす・・・と教室のそこかしこから笑い声が聞こえる。
「とりあえず、廊下に立っていなさい。
バケツに、水を入れて持つのですよ?」
ーー昭和なのですっ!?
突っ込みたくても言える雰囲気ではないのですよ。
「・・・・はい。分かりましたです。」
はるかはクスクス笑われながら・・・
教室から追い出されるのだった。
・・・でも、どうしよう。
「あのゲーム機、ないと・・・お姉様との約束が。」
授業をサボって遊んでいて没収されましたとか、お姉様も呆れて、はるかのことキライになるかも・・・。
「ふぇぇぇ・・・っ、たた、大変なことに・・・・!」
最近は、遥さんも家事を手伝ってくれるようになっていた。
この日も、寮に帰ってくると、夕飯の準備を手伝いにきてくれたのだけど。
「ぅう・・・・。」
「・・・遥さん?」
「ふぇっ!?な、何です?」
「顔色があまりよくないですけど・・・お腹の具合でも?」
「ち、違うのですっ!何ともないのです!」
「はぁ・・・・。」
でも、やっぱり様子がおかしい。
やけに、そわそわしているというか・・・
「あの、やっぱりお部屋でお休みになられたほうが。無理に手伝わしてしまっているなら、
すみません・・・。」
「だから違うのですっ!しつこいのです!」
「・・・えっと。」
「いや、あの、お姉様が悪いわけではないのです。」
よく分からないけど、単に何かの理由でご機嫌がナナメということだろうか。
どうしたら機嫌がよくなるだろう。
「あの、夕飯が済んだら、一緒に遊びましょうね?」
そこで接待プレイをすれば・・・何とかなるかな?
そう思って、昼休みの約束を持ち出したのだけど。
「ぅぐ・・・・、ふぇぇぇ〜・・・。」
タラタラ冷や汗を流して、涙まで浮かべて苦悶しはじめた。
「ど、どうしたんですかっ?」
「は、はるか・・・先に宿題をやらなきゃなのです!いっぱいあるから、だから一緒にゲームは、そのっ。」
もしかして、遊べそうにないから、それで不機嫌とか?
「良かったら、一緒にやりましょうか?それならきっと早く終わりますよ。」
「ダメなのですっ!ソレ、ゼッタイダメっ!」
「へ・・・どうしてですか?」
「どうしてもなのです!ダメなものはだめっ。一人でできるから、遠慮しておきますなの!」
「・・・そうですか。」
断られると少し寂しい。
でも、まぁ遥さんの成績なら誰かが見ていたらむしろ集中できないのかも。
「それじゃ、終わったら声をかけてくださいね。バッチリレベル上げして準備整えておきますから。」
「は、はい・・・なのです。お姉様、やる気まんまんです・・・?」
「それはもう。出来ることがどんどん増えていって、たぶん1番面白い時期ですから。」
「そ、そっかー・・・・アハハ・・・。」
「今夜もよろしくお願いしますねっ♪」
「は、はいっ!任せてなのです!」
「頼もしいです♪」
(遥)
(どうすればいいのです・・・・・。
はぁ・・・・・)
一瞬どんよりした空気が気になったのだが・・・。
「あっ、お姉様っ!お鍋沸騰してるのです!」
「っと、そろそろ良さそうですね。仕上げに入りましょう。」
お料理の大事なとこに入ったのでそれ以上の追求はできなかったのだった。
夕食の片付けを終えて部屋に帰ってきた。
今日は宿題もないので、これで自由時間かな?
ちょっとだけ浮かれた気持ちで、私は椅子に座ると携帯ゲーム機を開いた。
「・・・・また、ゲームするの?」
天音さんが声をかけてきた。
「あ、はい。遥さんと遊ぶ前にレベル上げしておこうかと。」
「そう・・・別にいいけれど。」
・・・なんだか少し不満そうだ。
もしかして、私に構ってもらえなくて寂しいのかな?
というのは自惚れ過ぎだろうか。
「あの、お暇でしたら天音さんもやってみます?」
「そう・・・・ね。・・いえ、やっぱりやめておくわ。割り込むと遙の機嫌を損ねそうだもの。」
「へ・・・?そんなことはないと、思いますけど。」
「そういうとこ、葵ってやけに鈍いわよね。」
「・・・どういう意味ですか?」
本気でよく分からなくて、私はきょとんと首を傾げる。
「まぁ・・・女の子同士だものね。」
「はい・・・・?」
「とにかく、私はお仕事が忙しいの。先生方の飲み会の領収を受理するか今日中に考えなきゃいけないの。」
・・・地味な仕事だった。というかそれに一晩かけるつもり?
「あの、お手伝いしましょうか?」
「気持ちだけで十分よ。あなたは働きすぎだもの。」
「・・・本当に大変な時は言ってくださいね?一応理事長補佐なんですから。」
「ええ。困ったときはちゃんと相談するわ。」
天音さんがそう仰るなら、これ以上言うのは失礼だろう。
なので、私は再びゲームに集中し始めてーー
と思ったけど、喉が乾いたのでキッチンへ向かった。
その途中のことだった。
「それで、どちらへ行こうとされてたんですか?」
玄関前で結衣さんが遥さんに尋ねていた。
「コ、コンビニ・・・・?なのです。」
「結衣さんと・・・遥さん・・・?いったいどうしたんですか?」
私は二人に尋ねる。
「あ、わわっ。お姉様っ?」
「遥さんが、抜け出そうとしていたのですが、葵様、お買い物頼みましたか?」
「いいえ?私は何も・・・・。」
「えっと〜、その、シャーペンの芯が切れたから買いに行こうかと・・・・。」
「どなたかに言えば貸してくれますよ?」
「・・・悪いかなって。」
「そのくらいで迷惑に思う人はいないかと。」
「だからぁ、その、息抜きもかねて?」
そして結衣さんの口調は強くなる。
「門限すぎてます!そういうことは、寮長として見過ごすことはできません。」
「はぅ、ごめんなさいです。」
申し訳無く謝る遥さん・・・。
「門限なんてあったんですね。」
「それはまぁ。さすがに寮ですからね。夜に女の子が出歩くのは危険ですからね。あ、葵様は別に大丈夫ですよ。だって・・・」
「わー、結衣さんっ!?」
「ふふ、冗談です♪ってあらっ。遥さんの姿が・・・。やられました・・・。」
ほんの一瞬目を離したスキに遥さんはいなくなっていた。
慌てて出入口を確認すると、扉が開いたままになっていた。
「もぅ遥さん、どんだけ外に出たいんですかぁ!」
「葵様、お願いできますか?」
「えっ?私が連れ戻すんですか?」
「男の子の葵様のほうが足が早いですから。お願いします!」
「わかりました、ちょっと行ってきますね!」
そして遥さんを追いかけに外に出た。
「脱出成功なのです!」
「遥さぁぁ〜ん?」
「でもなさそうなのです?しかもあの声はお姉様・・・?とはいえ、今は急ぐのです!お姉様さらばなのです!」
何かぶつぶつ言いながら走り去る遥さん。それを見失わないよう追いかける。
「うぅ、遥さん、意外と足が早い・・・。
あと、スカート走りにくい!もぅ!」
少しずつ距離をつめていく。
そして、辿り着いた先はーー
学園の校舎だった。
「うぅ、真っ暗で怖そうなのです・・。」
「はぁ・・はぁ・・。遥さんっ、そこまでですっ。」
「ふぇ、追いつかれたです!?さすがお姉様なのです・・・。」
「もぅ、こんな時間に学園なんかきてどうしたんですか?」
「お姉様が知る必要はないのです!」
「そういうわけにはいきません。」
私はそう言いながら遥さんの腕をつかむ。
「はぅ・・・はるか、捕まったです?」
「もう逃しませんよ。」
「ふぇぇ・・・降参なのです。」
「それで、こんな時間に学園なんて、忘れ物ですか?」
「ぅ、まぁ、そんなところ?なのです。」
「でしたら警備員さんに言っていれてもらいますか?」
「・・・職員室、入れるかな・・・。」
「?何故・・職員室に?」
「あ、いやっ!何でもないのです!ただの独り言・・・。お姉様は、気にしなくていいのです!」
・・・なんかすごく怪しい。
「犯罪のにおいがするのですが・・。」
「・・・そんなことは、ないのです・・。」
「はるかさん?」
笑顔で問いかける。
「あぅあぅ〜、だってぇ〜っ!」
「はぁ・・・いいから、事情を話してみて下さい。」
「お姉様・・・怒らないです?」
「内容によります。でも言わないのが1番怒ります。」
「・・・わかりました。全部話すです。」
ようやく観念したのか、遥さんはここに至るまでの経緯を白状し始めた。
「・・・つまり、没収されたゲームを取りに来た・・と?」
「だって、何とか取り戻さないと、お姉様との約束が・・・っ。」
「それで、職員室に忍び込んで盗もうと?」
「盗むもなにも、所有権はもともとはるかにあるのです・・・。」
「でも、泥棒ですよね?」
「はい・・・すみません・・・。」
問い詰めると、かくんと頷く遥さん。
そして私は、頭痛を抑えきれなくなってくる。
「あの・・・お姉様、怒ってるです?」
「えぇ、まぁ、色々な方向から。」
「あぅあぅ・・・ごめんなさいなのです!」
「まだ未遂だったから良かったものの、捕まったらどうするつもりだったんですか?ぶっちゃけ退学ものですよ?」
「それは・・・でも。」
「でも、なんですか?」
「お姉様も・・楽しみにしてくれてたから。」
「・・・あのですね・・・。」
呆れるしかない、はずだった。
朝までお説教コースで厳しく叱るべきだと思う。
・・・でも、そういうことを言われちゃうと。
「いけないことなのは、分かってますよね?」
「はい・・・・。」
お説教に勢いが乗りそうにない。
だって、少し嬉しいくらいだったから・・。
・・・だから、私はため息を1つついて。
「なら、私からはもういいです。帰ったらちゃんと結衣さんにも謝るんですよ?」
「はいなのです・・・。」
「それから、今夜は先生宛に反省文を書くように。ゲーム機、それで返してもらえるかもしれませんから。」
「返って、くるのです?」
「わかりませんけど、やるだけのことはやってみてください。・・その、私だって遥さんとゲームの続き、やりたいんですから。」
「ふぇ・・・お姉様・・?」
「一緒に文章考えてあげますから。ねっ?」
ちょっぴりぎこちなく微笑むと。
「えへ・・・♪じゃあ、頑張るのです!」
遥さんは素直に頷いてくれた。
何故だか、照れ臭そうに真っ赤になって。
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