第6話お料理って楽しい?2

 そして朝のホームルームが始まる。

「ただいまから聖女投票を行います。みなさん、投票用紙は行き渡りましたね?各自記入したらこちらの投票箱に入れてください。」

机の上には先ほど配られた用紙がある。

(ここに名前を書けばいいんですね・・・。誰の名前を書きましょうか。・・・やはりここは全生徒から慕われている天音さんですね。)

投票用紙に『天童天音』と記入し投票箱に入れる。投票箱には鍵がかかっており、厳重に管理されているようだ。

「ねぇねぇ葵ちゃん。葵ちゃんは、誰の名前書いたの?」

円香さんが話しかける。

「私は天音さんの名前を書きました。円香さんは?」

「私?うふふっ、内緒っ!」

そして午前の授業を終え、昼休みになる。

「葵お姉様っ!はるか今日も一緒にお昼してもいいですかっ!?」

遥さんがお弁当を持って元気よく入ってきた。

「ええ、もちろん構いませんよ。でも上級生の教室に入るのは緊張しませんか?」

「それは・・・緊張はしますけど、はるか葵お姉様と一緒に食べたいのですっ!」

その様子を見て円香さんがつぶやく。

「遥ってばすっかり葵ちゃんがお気に入りなんだ。」

「うぅ・・・。」

遥さんの顔が赤くなったように見えた。

「あの、私もよろしいでしょうか?」

結衣さんもやってきた。

机を並べ、みんなでお昼ごはんを食べる。

「やっぱ葵ちゃんのご飯は美味しいわね。このキッシュも美味しいわね。」

円香さんがそう言うと結衣が叫んだ。

「ホントですかっ!?」

「え、なに?どうしたの?」

円香さんが結衣さんに尋ねる。

「あ、このキッシュは結衣さんが作ったんですよ。」

「えっ!?結衣お姉様が?まさか・・・。信じられないのです!あの結衣お姉様の料理がこんな美味しくなるなんて。」

「葵さんの指示通りに作っただけですけどね。それでも美味しいって言ってくださるのがこんなに嬉しいなんて・・・。円香さん、ありがとうございますっ!葵さん、これからもお手伝いさせていただいてもよろしいですか?」

結衣さんが私に笑顔で尋ねる。

「もちろんです。私も1人でするより結衣さんとお料理するの楽しいですから。」

するとさっきから少し不機嫌そうだった天音さんが話に入ってきた。

「私も葵と料理しようかしら・・・?」

「いえ、天音さん朝早く起きれないじゃないですか。それに危ないですからダメですよ。包丁でケガでもしたら会長に合わせる顔がありません。」

「う〜、葵のケチ・・・。」


 そして放課後、寮に帰宅し食材の買い出しに出かけようとした時だった。

「葵さん、お買いものですか?」

結衣さんが声をかけてきた。

「はい、ちょっと食材を買いにアウトレットモールに。」

前回行ったアウトレットモールの食料品売り場はかなり品揃えが充実していた。

「良かったら私もご一緒してよろしいでしょうか?」

「それはかまいませんけど・・・結衣さんは何をお買い求めに?」

「私は寝るときの髪留めを。」

「寝るときの・・・髪留め?」

私の少し不思議そうな態度に結衣さんも疑問の表情をした。

「葵さんも寝るときに髪留めしますよね?葵さんくらい長い髪でしたらしないと大変ですよね?」

(そうか、さすがに寝るときはウィッグを外すから気付かなかった・・・。女の子はそういうものだったんだ。)

「え、ええ。そうですねっ。確かにしないと大変ですよね。」

そして一緒にアウトレットモールへ向かう。

(こうしてふたりで歩いてるとまるでデートみたいだなぁ。まぁ今は女の子同士なんだけど。)

まずは結衣さんの用事をすませ、食料品売り場にいく。

「あの、もし良かったら今日の夕食は結衣さんが作ってみますか?」

私は結衣さんに話しかける。

「よろしいんですか!?」

「はい。そうですね、ここは簡単にカレーなんかどうですか?」

「作りますっ!私がんばります!ではスパイスを買いますか?」

結衣さんが張り切って答える。

「いえ、今日は時間もないですし、市販のルウを使いましょう。」

そしてカレーの材料を買って寮に帰宅した。


 「そのくらいの大きさでいいですよ。」

結衣さんが包丁で野菜を切っていく。

「そしたら切ったお肉に下味をつけて・・・そしたら揉みこんでください。」

鍋に火をつけ具材を炒めていく。

「あの、どうせ煮込むのになぜ初めに炒めるのですか?」

結衣さんが尋ねる。

「まぁ色々理由はありますが今は気にしないでください。1つずつちゃんと手順通り、レシピ通りにやることから始めましょう。」

そして順調に調理を進め、あとは煮込むだけになった。

「隠し味にコーヒーとかいれるんですよね?」

結衣がコーヒーの瓶を手に口を開く。

「いれなくていいですから。隠し味とかよりまずはちゃんとした料理を作れるようになりましょう。・・・ちなみにどれくらい入れるつもりでした?」

「半分くらいでしょうか?」

「いやいやいや、もし仮に入れるとしてもスプーン1杯くらいですから!」

すると天音さんがやってきた。

「葵、お父様から電話よ。戻ってきてちょうだい。」

「会長から!?わかりました。すぐ行きますから。」

(まぁあとは煮込むだけだから大丈夫か。)

「結衣さん、ちょっと離れますが火を見ててもらえますか?見てるだけでいいですから。絶対にっ!見るだけですからね?」

「わかりました。ちゃんと見てますね。」

そして電話しに自室に戻る。


(結衣)

「見てるだけですよね・・・。そういえば遥さんはビスケットがお好きでしたよね。入れたら喜ぶんではないでしょうか。遥さんの好物だけ入れたら不公平ですよね?円香さんはプチトマトが大好物でしたね。天音さんはいつも梅干しを食べてましたね。」


 電話を終え、キッチンに戻る。変な匂いもしないし大丈夫だったようだ。

そして夕食時

「今日はカレーなのね。ん、いい匂い!」

円香さんが言う。

そして一口食べる。

「んっ?なんか、味がおかしい。匂いはカレーなんだけど・・・ってなんでカレーにプチトマトが入ってるのよ?」

「あら、これはビスケット・・・?ウェ・・・。私もういいわ。」

天音さんがスプーンを置いた。

「はるかもこれはちょっと・・・さすがにカレーに梅干しはないのです!」

遥さんもスプーンを置いた。

「結衣さんっ!?見てるだけってあれほどいいましたよね!!」

「あ、あの、でも。みなさんの好物をいれたらもっと喜ぶと思って・・・。」

(そっか、結衣さんはみんなのためにしたんですね。)

「わかりました・・・。今日はもういいですから。次からは勝手な行動しないでくださいね?」

「・・・・・。」

結衣は黙って下を向いた。


 自室に戻り、私は考えていた。

(結衣さん、かなり落ち込んでたな。みんなの喜ぶ顔が見たかったのにあんなことになって。)

「ちょっと行ってきます!」

天音さんにそう告げると私は結衣さんの部屋に向かった。

「あの、結衣さん。ちょっとよろしいでしょうか?」

「えっ!?葵さん!?ちょっと待っ、きゃっ!!」

ドタン、ガシャーンと大きな音がした。

「結衣さん、大丈夫ですか!?」

慌てて中に入ると部屋のなかで衣類の山の中で転んでいる結衣さんがいた。

部屋の中はまるで泥棒に荒らされたかのように服や本、下着までそこらへんに散乱しており足の踏み場もない状態だった。

「あの、これは、、ごめんなさい!」

結衣さんが私に言う。

「とにかく片付けましょうか。私も手伝いますから。」

しばらく結衣さんと一緒に部屋の片付けを行い、ようやく普通の部屋に落ち着いた。さすがに脱ぎっぱなしのブラやショーツは目の毒だったが。

「すみませんでした。私、片付けが苦手で・・・。女の子なのにあんな部屋、幻滅しちゃいましたよね・・・。」

「いえ、驚きはしましたが幻滅なんてしませんよ。天音さんも私がいないと似たようなものですから。」

(さすがの天音さんでもあそこまでじゃないけど。)

「それより、元気だしてくださいね。

夕食は、まぁあんなことになっちゃいましたが、結衣さんの、みんなを喜ばせたいって気持ちは十分わかりましたから。

次こそ一緒に頑張りましょう!」

「葵さん・・・。う、うぅ。ありがとうございます!」

結衣さんが私の胸の中にきて涙を流した。

そんな結衣さんの頭を優しく撫でる。

(普段優雅で大和撫子の結衣さんがあんな散らかった部屋で、今はこんなに可愛らしく泣いているなんて・・・。)

やがて結衣さんが泣きやんだ。

「今日は申し訳ありませんでした。このようなみっともない姿をお見せしてしまって。」

「そんなことないですよ。普段見れない結衣さんの姿を見れて嬉しかったです。とにかく元気だしてくださいね。ではおやすみなさい。」

「はい・・・。おやすみなさい。・・・葵様・・・。」

(ん、最後のは・・・。聞き間違いだよね。)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る