★第八章★ 永遠の箒星
★第八章★ 永遠の箒星(1)
新たな主を得、白金の法器が呻りを上げる。
そう、かつてのように。
――高度一二キロメートル。対流圏を突破。監獄のように天を覆う雲を突き、形を歪めつつ、対流圏界面を通過。
――高度五〇キロメートル。成層圏を突破。高度による熱量差が凄まじい。身を焦がす煉獄に耐えつつ、成層圏界面を通過。
――高度八〇キロメートル。中間圏を突破。黒薔薇を蝕む蟲のようだ。夜光雲の放つ不気味な光に恐れを抱きつつ、中間圏界面を通過。
――高度八〇〇キロメートル。熱圏を突破。惑星の磁場を狂わせる極光。不穏に揺らめくオーロラを振り払いつつ、熱圏界面を通過。
――高度一〇〇〇〇キロメートル。外気圏を突破。暗黒に揺蕩う蒼星を背に、ついに宇宙が展開する。
「シホっ! いたぞっ!」
ミーティアが叫んだ。視界にその姿を捉えたシホは法器を強く握り、気を引き締める。
星々が儚く瞬きを見せる暗闇で、ひときわその存在感を露わにする無機質な
「糸の切れた
二つの法器が腿から分離し――白濁とした汚泥を吐き出し、漆黒を塗りつぶしていく。
やがて白泥が威容をなしていき――
「――な、何なの!? これ――」
「くっ……なんて化け物だ……!!」
細く鋭い爪の生えた腕となり――
朽ち破れた法衣となり――
髪をふり乱した
数十メートルはあろうかという、巨躯の魔女へと変貌する。
そして最後に側頭から真横に伸びる角のように法器が宿った。
その顔は抉れたようにがらんどうで、その中には白い体躯と対照的な暗黒が広がっている。
「これこそ……
半身を埋めるように胸元に宿ったハレイが狂気の声を響かせる。
「さあ……蒼星もろとも塵にしてやろう――!」
白い巨人が両腕を掲げ――悪魔のような指先から魔力が発し、頭上へと集っていく。
「何をする気なの!?」
シホが叫ぶが、その間も魔力は集い――
やがて周囲に浮遊する石がそこに吸い寄せられるように密集していく。
「まさか――ここで擬似的に高密度の星を生み出すつもりか!?」
ミーティアが驚愕する。
「ミーティア、どういう事なのっ!?」
「超大質量の星はやがてその自重に耐えきれなくなって、急速に収束、超高密度体になるんだ! そう……光をも逃さないほどの……!!」
「それって、つまり――!」
「ああ! 本当にここでブラックホールを生み出すって事だ!」
「そんな……その前に何とかしないと……!」
シホとミーティアは出力を上げ、白き巨人の元へと急ぐ。
「ふふ――コズミック・イレイザーを介して生み出した引力は星のそれを遥かに凌駕する。完成までさほど時間はかからぬ――しかも完成してしまえば私の制御下で自在に扱える。便利な消しゴムの完成よ……!!」
その間も周辺の岩は引力の中心へと集まり、ぶつかり、砕け、それでも集い続ける。
「私にももう止めることはできない――あとは時間の問題――せいぜい残りの人生を有意義に過ごす事だ――」
そして――巨人の皮膚が蠢き出す。
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