★第六章★ 真実(4)
残酷にも――涙が涸れた頃。
「なあ……あたしらがこの星でなんて呼ばれてるか――知ってるか? 甘美な夢を見せ生気を吸い取る悪魔――
そう言ってミーティアはつまらなそうに笑った。
「自分のしてきた事の真相を知った時、あたしは星の魔女を辞める事を決めた。そのすぐ後だ。メテオラと出会ったのは――」
詰まったものを少しずつ引きずり出すように、言葉に紡ぎ――
「そしてメテオラから真実を聞かされた時、誓った。あたしが……『失われし魔術書』を手に入れて……ステラさんを蘇らせようってな……」
かつて一人抱いた決意を吐露し、薄暗い天井を見上げた。
「シホには知られずに、終わらせたかった――けど、それが裏目に出てこんな結果を引き起こした。すまない――」
最後は彼女らしくなく、今にも消えそうな声だった。
「……ミーティアの責任じゃなイ。元はと言えばワタシが奇跡の魔法を持っていれば――こうはならなかっタ……」
ミーティアを気遣うようにメテオラが言う。むしろ当人のほうが消沈している様子だ。
「蒼星に逃げ延びたときは……ステラさんが持ってたんだよな……?」
「ええ、でもその時のワタシは、意識を保つのもやっとのような状態だったかラ……記憶も曖昧なノ。おぼろげにステラと話す蒼星の少女を見た気がするのだけれド――」
ミーティアの問いかけに、メテオラは記憶を掘り起こすように答える。
「……あるよ」
シホがぼそりと言った。
「……? なんだって?」
「『失われし魔術書』はここにある」
ミーティアにそう答えながら、シホは水晶盤を取り出した。
「それは――!」
「シホ、一体それをどこデ……!?」
ミーティアとメテオラが目を見開く。
「レイナちゃんって言う子がね、お守りとして持ってたの……そのレイナちゃんはおばあちゃんから貰ったんだって……」
「それって――つまり――」
ミーティアが考えを纏め始める。しかし既にシホは全てが繋がり、理解できていた。
――あたしもレイナと同じくらいの年の頃にね、追いかけたことがあるんだよ。流れ星。
きっとメテオラの記憶にあった女の子が、おばあちゃんだったんだ――そして、お母さんから……。
その後、『失われし魔術書』は――レイナに渡り――望まない形でシホが見つけることとなった。結果、プラーネの手に渡ったものの、ベネットのおかげで……こうして自分の元へと戻ってきた。
「だけどそれなら話は早いぜ! それで奇跡を起こせば……!!」
ミーティアが興奮した様子で立ち上がるが、シホは首を振る。
「……きっとそれは無理だと思う。プラーネが試したのを見たの。十分な魔力を注ぎ込んだけど、陣は展開するのに、何も起こらなかった」
シホの言葉通り、その後、ミーティアが何度試しても結果は同じだった。
――――。
「考えたくはないけれど――術式が間違っているのかも……」
「くそっ! 何なんだ! じゃああたしらはこんな
ミーティアが壁を殴りつけ、苛立ちを露わにする。
「……一体――今まで何人犠牲にしてきたんだ……!!」
本当だ。わたしは――一体どれくらいの人の希望を踏みにじり、不幸にしてきたんだろう。蒼星の人を、ヴィエラを、ベネットを、おばあちゃんを、レイナちゃんを、そして――ついにはお母さんをも――
「今さら――お互い全てを水に流そうなんて話は無理だろうな。話のわかるような相手じゃないのだけは明らかだ。何が何でも――あたしらを始末しようとするだろう」
ミーティアが細い顎に手を当てながら、考え込むように言った。しかしシホは――
「……もういい」
「シホ――?」
「もう――いいよ。何もかも。もうどうでもいい……」
弱った声でそう繰り返した。
「『失われし魔術書』を持って、わたしはずっとここにいる。ミーティアはその間にメテオラとどこか遠くに……他の星に逃げて」
そう言ってシホはヘクセリウムを差し出す。
「これ……ヴィエラの――。せめてミーティアが生き残る為に……使ってあげて」
ミーティアなら、これだけの魔力燃料があれば星間飛行の長旅でも大丈夫なはずだ。
「きっと『失われし魔術書』が本当に使えないってことがわかれば、ミーティアを追いかけることも無くなるよ」
「だけど、それじゃお前はどうなる! 間違いなく――」
「…………」
シホが力なく、笑う。
「……ッ! ふざけるなッ……! そんなの――そんなのあたしは認めない!」
ミーティアの怒号が窟内を走る。
手の中では、輝石が震えていた。
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