★第五章★ 願いの先は(5)

 あたりは騒然としていた。

「おばあちゃん! おばあちゃん! ……しっかりして!」

 キャスターが、がらんがらんと、けたたましい音を立てて、暗い廊下を駆けていく。

 周囲を囲む大勢の足音が響きわたる。

「ご家族の方はここまでで!」

 白衣の女性が早口でそう告げた。

「お願いします!」

 がたん、という音と共に分厚い壁が左右から閉じた。扉の上のランプが灯る。

 シホは頭を深く下げたままだった。

 …………

 壁際の黒い長椅子。

 シホの隣りではさっきからレイナが首から下げた赤い巾着のお守りを握りしめている。

「おばあちゃんからもらったの……昔おばあちゃんが見つけた、ほんとうに大切なお願いが叶うお守りだって……だから大事にもっていなさいって……」

 そう呟いたレイナの前に、輝きが宿る。

 願いの光だ。これまでに視た事がないほど――強く眩い。

「シホお姉ちゃん……。あたしのお願いを叶えてほしいの……これで二回目だけど、それでもいい……?」

 涙を溜めてシホの顔をみるレイナ。

 涙がこぼれそうになるが、わたしが泣いちゃダメだ、と気を強く持ちシホはレイナの手を握る。

「もちろんだよ……!! おばあちゃんを助けよう……! 必ず……!」

 シホはレイナを真直ぐと見つめた。レイナが強く頷く。

 世界が眩く光り――二人を白く包み込んだ。

 …………

 一体どれくらいの時間が経ったのだろう。何十時間も過ぎたような気もするし、まだ五分も経っていないようにも感じる。

 黒い椅子に座り、レイナはお守りを握りしめたまま、目を閉じて強く強く祈るように額を両手にあてている。光はレイナの前にずっと停滞したままだ。一体いつになれば願いは、祈りは届くのか……。

 もしも……もしも願いが叶わなかったら……? そんな考えがシホの頭をよぎり、言いようのない不安に押しつぶされそうになる。

 駄目だ……こんな弱気では。気を持ち直し、浮かぶ悪夢を振り払う。

 そして――

 ついに光が……動いた。

 固く閉ざされていたドアに向かいゆっくりと浮遊していく。

 ドアの前で止まると――

 同時にランプが消えた。レイナが走っていくと扉が開き――

「――おやおや、そんなに泣いて……レイちゃん、心配かけたねえ」

 カナエが笑顔を見せた。

 ――――!!

「おばあちゃん! おばあちゃ……よかった……!!」

 レイナがカナエにしがみつき、泣きじゃくる。途端に騒々しくなった。

 シホも涙を拭い、安堵の息を漏らす。

 光が散り――シホの元に集う。

 ――と。

 急に辺りが静けさに包まれる。

 レイナは――白衣の男性にしがみついたまま――声を失っていた。

 少し遠くから、脈打たぬ電子音が、止むことなく鳴り続けている。

 その音を打ち消そうとするかのように、ごとん、と輝石が鈍く床を叩いた。

 しかし音は、消えなかった。

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