最低な国の最悪な町にギルド支部できました

村日星成

第1話 辻斬りのハーゼ 

「おいおい兄ちゃん一人で何やってんだよぉ」

「金出せ金」


辺りは夜、人通りもない中二人の男に絡まれている者がいる。


「実力差もわからない素人か?」

「なんだと」


一人が男に掴もうとすると――


男は剣を抜いたかと思えば――


「?」

「ダストも堕ちたものだな」


――前に進んでいた。


「なっグッ!」

「ぎゃっ」


男二人は切り刻まれ倒れる。そんなことなど気にも留めずに歩み続ける者がいる。


「強者に会いたい、血肉が躍るほどの戦いがしたい」


残されたのは細切れの死体のみであった。




クカン国 ダスト


クカン国、俺が住んでる最低な国の一つ。治安は悪いし当たり前のように闇ギルドがのさばってる、はっきりいてここに住むやつは物好きか他に行く当てのない悪党くらいだ。そしてそんな国の中でも最悪な町がダストだ。


場違いな赤色ショートヘアーの少女が男と喧嘩してる、まぁこれもいつものこと。


「ゆっゆるし――」

「だ~め」


これもいつものこと。


「おい、もうやめとけって」

「この私に喧嘩を売ったんですよ?」

「でも勝負はついてる」

「でもまだ生きてますよ?」

「命・令」


そこまで言うとようやく男を放す。


「はいはい、私は良い子な使い魔ですからねー、命令には従いますよー」


ボドンと雑に落とす。


「ごべんなざい」


ひどい顔だ、まぁこの男はメリーを誘拐しようとしたのだから同情はしない。


「ほぉらあっち行きなしっしっ」

「おまえ......いい加減にしろよ?」


メリーもすぐ挑発するからだめだ、あとで叱っとかないとな。


「私悪くない、売られた喧嘩を買っただけですし」

「悪目立ちしてるんだよ」

「こんなクソみたいな町は力でも見せつけておいた方がいいですよ?」


俺とメリーが歩けば睨みつける奴か怯えて逃げる奴、跪く奴と様々、

大体がメリーの所為だ。


「いや~忠実なしもべを作るのいいですねぇ、魔界にいたころを思い出しますよ」

「人間界を魔界と一緒にするな」


俺たちがこんなところに住む羽目になったのは、俺とメリーがある闇ギルドを潰したからだ、なんでも俺たちが潰した闇ギルドはクカン国の裏の仕事をこなすギルドだったらしく俺たちはその責任を取らされてこんなところにいる。


「何か考えごとです?」

「なんでもないでーす」

「あっ何か隠してる、知りたい知りたいです!」


メリーは使い魔としては元々強力だったがなぜか剣士の俺と契約しさらに強くなっていた。こういう態度をこの町で取れているのはこいつの強さゆえだ。


「あまり挑発するなよ?お前はよくても俺は不意打ちされるの苦手なんだぞ?」

「大丈夫大丈夫!マスター強いですから」

「そうはいってもなぁ」


これからのメリーが心配だな。




ダスト町 ギルド【アースラ】ダスト支部 夕方


「はぁ相変わらずしけたギルド」

「言うな」


俺たちが見てるのはギルド【アースラ】ダスト支部の建物、だがギルド支部はボロボロで登録しているのはギルド支部代表の俺、ほかには使い魔のメリーだけ。


「こんなギルドに人来ないですよ絶対」

「俺なら来ない。闇ギルドの方が給料いいし金さえ払えば仕事もするしな」


悲しいがこの町では闇ギルドの方が信用されている、なにせここに来るギルドの奴がそもそも訳ありでやる気がない。というか闇ギルドに阿るようになって最終的には闇ギルドの一員か行方不明かのどっちかだ。


「行方不明か闇ギルドの一員か......俺はどっちかねぇ」

「とりあえずマスターと私とで、闇ギルド界のトップ狙います?」

「どうしようもなくなったらな」


ダスト支部の建物に入ろうとしたとき――


「あっあの」

「?」


10代半ばであろう黒髪の少女が立っていた。


「どうした?こんなところにいたら危ないぞ」

「ここって正規ですよね?」

「何が?」

「正規のギルドですよね?」


まっまさか


「いっ依頼......ですか?」

「はい」

「やったねマスター!初依頼です!」

「おっおお!」


こんなにうれしいだなんて思いもしなかった。ダストに来て1週間、メリーが喧嘩したくらいしか思い出のない町でこんな気持ちなれるなんて。


「よっよし依頼内容聞くからギルドに入ってくれ!」

「はい~どうぞどうぞ~」

「はっはい......」


俺はかろうじて使える長椅子と長机に少女を座らせて、俺は少女と対面にして、メリーは俺の隣になるように座った。


「僕の名前はマタン=ラスです」

「俺の名前はダントフ=ネフルだ」

「あっ私はメリー=ポミンで~す」


お互いの自己紹介をしたことで早速本題について話す。


「早速だが依頼とはどんな内容だ?」

「あの、辻斬りつじぎりのハーゼはご存じですか?」

「ハーゼ?知らない、メリーは?」


メリーに知っているか聞くと指を顎に付けながら考えて、何か思い出しかのように話始めた。


「う~ん人殺しまくってるくらいしか、あっでも凄腕の剣士なのは有名ですよ。たしか聖騎士も一人殺したって......」

「その聖騎士、僕の父さんなんです」


その言葉を聞いた時にマタンが何を言いたいのかがすぐにわかった。


「......依頼というのは」

「はい......父の仇を取ってください」


俺は腕を組んで考える、ハーゼは聖騎士にも手を出していることから、既に賞金首にもなってるだろうから後から【アースラ】にぐちぐち言われる心配はないだろう。だが......

「おそらくだが......そのハーゼは闇ギルドに関係してるな?」

「はい......父は闇ギルドを毛嫌いしてました、ダストの町から闇ギルドを追い出そうと中央の聖騎士団にも頼んで。殺害予告や嫌がらせも受けましたけど我慢して、もうすぐ動くかもしれないところで父はハーゼに......切り刻まれて、中央の件も頓挫して......だから......」

「もしかしたらハーゼは闇ギルドに所属してるかもしれない、だから正規のギルドに来たわけか」

「マスター?」


俺は勢いよく立ち上がる。


「その依頼受けさせてもらう!」

「あっありがとうございますではお金を......」

「いや報酬はお金ではなく、友達にでも話してほしい」

「何をですか?」

「【アースラ】は辻斬りのハーゼを殺せるくらいの腕前を持つ者がいるって話してくれればいい」

「えっでもそれでは悪いで――」

「マタン、辻斬りのハーゼはどういった場所に出没するんだ?」

「えっと暗い場所、あと強い人間を求めてるくらいしか」


もう日は沈んでいるな、よし


「俺はハーゼを探す!」

「えっあのしらみつぶしに探すんですか?」

「そうだ、あっメリーもちろんマタンもつれて守れよ?」


俺は颯爽とハーゼを探しに行く。


待ってろ辻斬りのハーゼ、必ず殺して見せるぞ。




茫然と眺めていた二人


「あっあのダントフさんはいつもあんな感じなんですか?」

「人助けと闇ギルドつぶすときは大体あんな感じですよ」

「えぇ......えっ闇ギルド!?」

「意外と強いのマスターは」


メリーはマタンと一緒にダントフを追いかけていく。





「......」


その者は獲物を探している。


「......くだらなかったな」


闇ギルドに所属すれば、強者にであえると思ったが......


「今日は満月か......」


まん丸な満月は夜でも辺りを照らす。


「......満月だろうが変わらぬ」

「いや......変わる」

「!?」


驚き振り向く、ハーゼは後ろの存在に気づけなかったという事実がショックであった


「なっ!」

「キザったらしいか」


相手は剣を堂々と構えハーゼに近づいてくる。こんなことは初めてであった。今までにないほど闘志が燃え上がる。


「それなりの剣士とお見受けする。我が名、ハーゼ=ジン。巷では辻斬りのハーゼと呼ばれている」

「ご丁寧にどうも、俺はダントフ=ネフル、いつかはギルド・クラッシャーとか言われてた」


ダントフの名を知らなくとも関係ない、幾人切っても満足できぬこの体、久しぶりに燃え上がるこの闘志、だからやめられぬ辻斬りを、気まぐれに出会ってしまう強者だけに唯一喜びを感じる。






満月の夜の下に剣士二人が向き合う。


「ッ!」


お互い剣がぶつかり合うと

ダントフとハーゼはぶつかるのと同時に後ろに下がる


ダントフが剣を横に切れば――

ハーゼは後ろに避ける


後ろに避けたハーゼは、そのままダントフの横腹を切り裂こうと突っ込むが、ダントフは後ろに飛んで回避する。


「まだまだぁ!」


回避したダントフを追いかけるように、近づいて剣を横振りすると、剣で弾かれたためハーゼはダントフの横腹に、回し蹴りをして吹き飛ばす。


吹き飛ばされたダントフは即座に立ち上がり、剣を構える。


「グッ!おいそういやお前闇ギルドに所属してるのか?」

「闇ギルドか?あぁ【炎楽会】になぁ!」


ハーゼはダントフに剣を突きたて飛び込んだ、ダントフは横に避けた後、ハーゼを切ろうとするが、ハーゼは即座に横に切り、ダントフへ飛び込み突いてくる。


「おぬしは我と同じだな」

「はぁはぁ何がだ」


ダントフは横に避けてハーゼを狙い切るが、ハーゼもまた同じように剣を切る。

お互い向き合う状態が続く。


「おぬしはこの戦いを喜んでいる」

「はぁはぁ、そうか俺は今疲れてる...ぞ!」



カキンッ!!



お互いの剣がぶつかり合い拮抗状態となった。


「我は常日頃より強者との闘いを至上の喜びとしておる」

「そうかい、好きに戦ってきたつけを払うときがきたんだよ、あんたには」

「お前は闇ギルドのものと同じ目をしとるわ」

「屈辱的だな」


お互いに一度後ろへ下がり、相手の動きを探りあう。


「あんたは一体何人の人間を殺した?殺した中には聖騎士もいたんだろ?」

「殺した雑魚など記憶にないわっ」

「っそうかい!」


お互い今度は一気に近づき剣でぶつかり合う。


「我こそ聞きたいわ、お前は何人殺してきたと」

「さぁな......闇ギルドの連中なら殺してきた」

「ふはは、お前はまともな世界では生きていけんだろうな」


ハーゼの力が強まり剣がダントフの方へ寄っていく。


「ここへ来る時わくわくしたのだろう?」

「......っ!」

「さぁそろそろ終わりだな、楽しかったぞっ!」



ハーゼがダントフに剣を押し込もうとした瞬間――



スッ――



ダントフは僅かに横にずらし――




ハーゼの剣をいなし――




そのままハーゼの体を両断した。




「なっ!」


ハーゼは何が起きたのか一瞬理解できなかった。理解したのは自身の腹から血があふれ出た時であった。


「ハーゼ、強かった、それにお前のいうとおりだぜ」


ハーゼは立ち上がろうにも立ち上がらず、血があふれ出てくる。


「ヌッグッ!」

「俺は正直わくわくしてた、雑魚と戦っても楽しくなんかないもんな」


ハーゼの周りには血だまりができ、ついにハーゼは動かなくなった。


「だが、それでもお前とは違うぜ、俺は少なくとも殺しを楽しいとは思っていないからな」


ダントフ既に動かなくなったハーゼを見た。


「仇はとったぜ」







俺が少し歩くとメリーとマタンが茂みの中にいた。


「さすがですねマスター」

「見てたのかよ......」

「そらそうです、あっマタン君には目隠ししてます」


マタンの眼の周りには黒い布で目隠しされている。


「あっあの終わったのですか?」

「あぁ、仇はとった」


マタンが嬉しそう笑う、そこまで喜んでもらえるか。


「とりあえずギルドへ戻ろうか」





俺たちはギルドでマタンとともに朝まで過ごすことにした。

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