第2話:レンジャー試験開始

 それから三日後、町の入り口にレンジャー試験を受ける人達が集まった。

 僕よりも大人の人もいれば、いつもからかってくるジョージ達も居た。

 周囲の大人たちはいぶかしむような目で僕を見ていた。

 僕が能無しであることを知っているからだ、だからこそ…


「それでは、レンジャー試験について説明する!」


 しばらく待っていると、レンジャーの一員であるトーマスさんが大きな声で説明を始めた。

 レンジャーたるもの、命を預ける相棒がいてこそ初めてレンジャーと名乗れる。

 そのため、荒野に出て自分の相棒となる魔物を連れてくるというものだった。

 ただし、どんなものでもいいというわけではない。選考基準は秘密であるとのことだった。

 説明が終わると、武器と装備を持った人達が一斉に荒野へと走り出した。

 その中にジョージ達もいたが、僕は逆に町の中へと向かおうとした。


「お、おいおい!ナイン、もう諦めるのかお前!?」


 僕が引き返すのを見て、トーマスさんが声をかけてきた。

 兄さんと同じレンジャーの人であり、僕のことを応援してくれる数少ない人である。

「いえ、試験には時間制限はないんですよね?それなら、しっかり準備をしてから挑もうかと思いまして。非常食や水を数日分買ってくるつもりなのですが…ダメでしたか?」

「いや、ダメではないが…お前、どれくらい外に出てくつもりなんだ?」

「一週間くらいはかかると思います。僕はただでさえ他の人と比べて弱いので…」

「一週間?荒野で一週間も過ごすとか、死ぬ気か!?」

「いえ、死なないために準備をするんです。どのみち僕じゃ、普通の魔物は捕まえられませんので、遠出しないといけないんです」


 その後も必死で止められたり手伝おうかとも言われたが、そんなことをしてはレンジャーとは名乗れない。

 心配そうな声をあげているトーマスさんの声をあとにして、酒場に向かう。

 酒場であれば、保存食なども多く置いているからだ。

 酒場に入ると、リップが掃除をしていた。そして僕を見つけると、驚いた声を出した。


「ちょっと、ナイン!あなたもしかして、レンジャー試験から逃げてきたの!?」

「違うよ、保存食と水を買いに来たんだ」


 そう言ってカウンターにお金を置く。

 それを見てリップがさらに怪訝な顔をして僕を見てくる。


「…レンジャー試験なのよね?」

「そうだよ、荒野に出て行かなきゃいけないから保存食が必要なんだ」

「ということは!今、保存食が沢山売れるってことよね!」

「いや、他の人はもうみんな町から出て荒野に行ったと思うよ」


 僕がそういうと、輝かせていた顔つきが一気に暗くなり、怪訝な顔を向けてきた。


「どういうことなの?」

「レンジャー試験の内容については秘密だけど、僕は遠くまでいくから保存食が必要なんだよ」

「よく分からないけど、分かったってことにしておくわ…はい、これ」


 そう言ってリップは数日分の保存食と水を僕に渡して、カウンターにあったお金を乱暴に取っていった。


「ありがとう、それじゃあ行って来るから」

「あぁ、待って。何をするかは分からないけど、怪我だけはしないようにね?もし大怪我なんてしたら、エイトさんも…もちろん私だって心配するんだから」


そう言って彼女は店の裏側に引っ込んでいった。


 怪我をしないように…確かにとても重要なことだ。

 荒野でもし怪我を負えば、その分行動に大きな支障が出てしまう。

 仮に足などを挫いただけでも、危険な魔物に出会えば満足に逃げることできずに食べられてしまうだろう。

 いや、怪我をしてなくても死んでしまうかもしれない、兄さんから何度も荒野の恐ろしさを聞いていたので、荒野の恐ろしさについては分かっているつもりだ。

だけど、普通に魔物を相棒にするだけではきっと試験には合格しないだろう。

 一握りの人にしか受からないレンジャー試験なのだ、だからこそ遠出をしてこれだと思える魔物を相棒にしなければならない。


 魔物を相棒にする方法はいくつかある。

 力でねじ伏せることで自分を認めさせる方法、相手が降伏するまで痛めつける方法、最後に小さな子供の頃から育て人に慣れさせる方法。

 魔法が使えない僕じゃ無理やり認めさせる方法は取れない、レンジャー試験の選考基準は分からないが、僕でも勝てる町の近くにいる魔物では間違いなく基準を満たさないことだろう。

 子供の頃から育てるという方法も今からでは無理だ、そもそも小さな魔物をさらう方法が僕にはない。

 そこで、僕は遠出することを考えた。あまり強くなくても、町から遠い場所にいる珍しい魔物であればもしかしたら試験に合格できるかもと思ったからだ。

 とはいえ、試験の合格基準が魔物の強さであればどうしようもない。

その時は諦めてその魔物をそのまま育てようと思う。

 そうすれば、次の試験で役に立ってくれるかもしれないからだ。

 ただ、それができるのもこの旅から生きて帰ることができればの話だ。

 死ねば天国に行けるだとか、勇敢であればいと高き館へ招かれるだとか、そういうものに僕は期待していない。

 ただ僕は認められたいのだ!僕をからかう人に、リップに、そして兄さんに!

 無能である僕であっても、成し遂げられることがあるんだということを。

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