異世界でゴーレム整備兼パイロットしてます~チート機体は今日もボロボロ~

@gulu

第1話:ネクロマ、起動!

 異世界転移というものは色々な理由があってなされるものだ。

 例えば選ばれし者、例えば運命、あとはまぁ事故だったりそういうのもあったりする。


 ただ、どんな理由であっても俺には勝てないと思う。

 なにせ『手伝ってくれる暇な奴』ってことで呼び出されたんだからな!

 そりゃ夏休みだったよ?

 受験勉強は来年でいいやってことで思う存分遊ぼうと思ってたよ?

 だからといって、いきなり異世界連れて来てロボットの整備させるってどうなのよ。


「うぉーい、四番取ってくれぇ!」

「どの四番か言ってくれっていつも言ってるだろ!」


 大体使うモノは同じなので恐らくそれっぽいものを投げて渡す。

 今なにをしているかというと、ゴーレムの組立作業である。

 まぁゴーレムといっても、俺には鉄板やらなにやらを貼り付けた巨大ロボットにしか見えない。


 それでも全長四メートルほどあるので迫力だけは凄まじいものだ。


「なぁ爺さん、これってどうやって動くんだ? 電気?」

「あぁん? そんなん魔力に決まっとろうが」


 流石は異世界だ、魔力なんてものを動力にしてるのか。


「その魔力ってどうやってゴーレムに入れる感じ? どっかの穴から水みたいに入れる感じ?」

「アホ抜かせ、搭乗者の魔力を使うに決まっとるだろ。おかげでワシは全然動かせんがな」


 つまり搭乗者によってどれだけの時間乗れるかが決まってるのか。

 …いいのかそれは?

 爺さんみたいな人じゃ操作できないって汎用性が無いように思えるのだが…まぁこの世界じゃそれが普通なのかもしれないから別にいいか。


 その後もロープで牽引してパーツを持ち上げるなどして手伝った。

 異世界ならもっと魔法的な何かで作業をすればいいのに、やってることは工場勤務の力仕事のようであった。

 そして手足やパーツを全て付け終わり、遂にロボットが完成した。


「苦節何十年…ようやく出来たわい」

「お疲れさん、爺さん。これで俺もお役御免か」


 この世界に来てから二週間、遂にゴーレムが完成した。

 かろうじて人型だと分かるような継ぎ接ぎなロボットのような見た目だか、苦労しただけあってか中々感慨深いものがある。


「その前に試運転が必要だ、頼んだぞ」

「うぇっ! 俺が乗るの?」

「当たり前だ。ワシの魔力量じゃ動かせんからな」

「んなこと言われても、免許もないし操作方法も知らないぞ」


 組み立て作業ですら言われた通りのことすらできない俺にどう動かせというのだろうか。

 せめて説明書かゲームのコントローラー方式にしてくれないとゆとりの俺は大事故を起こす。


「大丈夫だ、乗れば分かる」


 そう言われて爺に後ろから蹴りを入れられてゴーレムの背中部分にぶつかってしまう。

 普通ならゴツンとぶち当たるところだが、何故かパーツが分かれてゴーレムの中に身体が飲み込まれてしまう。

 全身を虫が這い回るようなおぞましい感覚がしたかと思えば、突如周囲の風景などが頭の中に流れ込んでくる。

 まるで自分の身体とゴーレムが一体化したかのような感覚であった。


「ケツが二つに分かれたらどうすんだ爺!」

「そんときゃまた一つに戻してやるよ、それで動かせそうか?」


 軽く腕を動かそうとするが、何か異常があることを表すアイコンが視界の隅にあった。

 それどころか身体の各所で異常が発生しているアイコンが次々と点灯していった。


「おいヤバイぞ、どこもかしこもおかしいものだらけだ!」

「まずい、今すぐ降りろ!」


 降りろと言われても身体が動かないどころか俺の体内にある魔力が勝手に吸われ、ゴーレムの身体が勝手に動いて軋めいている。


 アイコンを見る限りパーツのせいで魔力の流れがおかしくなっており、そのせいで動作不良を起こしているようだ。


 なんとか問題のパーツを引き剥がそうとするが、ここで問題が起きた。

 大きな叫び声と共に巨大な猪のようなモンスターが入り込んできたのだ。


「ティタノボアーじゃと!? 魔力に釣られて来よったか!」

「こんなのが近所に住んでたとか聞いてないぞ!」

「やかましい、ワシもまさか居るとは思わんかったわい!」


 ティタノボアーは俺が乗っているゴーレムめがけて突進して押し倒し、こちらの右腕に喰らい付いてきた。

 だが鉄製のパーツが邪魔なようで、いくつかのパーツを吐き出した。


 だがそのお陰で右腕の動きを阻害していたパーツが外れた。

 奴が再びこちらを食おうを口を大きく開けたので、自由になった右腕で左腕のパーツを引き剥がしてその中にぶっ刺した。


 大きな悲鳴と共にティタノボアーが後方へと下がりこちらを睨みつけてくる。

 食べたそうにしてたからアーンしてやったというのになんという顔だ。

 あれか、ブサメンのアーンは拷問だとかそういうやつか?


「好き嫌いするんじゃないって親から言われなかったのかお前は」


 自由になった両手で両足のパーツのいくつかを外すと両足も動くようになったのだが、今度は最初に動いていた右腕が力をなくしたかのように動かなくなった。


「パーツの外しすぎだ! 魔力が漏れて動かなくなるぞ!」

「欠陥品にもほどがあるだろ爺さん!」


 まぁ文句を言ったところでどうしようもない。

 身体についているパーツなどを剥がして右腕につけるが今度は左膝がおかしい、なんだこれパズルか!?


 こっちが自由に動けないことを悟ったのか、ティタノボアーがこちらに突進してくる。

 なんとか避けようと飛び上がるが、激突の瞬間にあっちがアゴをしゃくりあげたせいで牙がかすった。

 そのせいで空中で制御不能になる、相手の背中へと張り付く形となってしまった。


 背中にまとわりついた俺を振り落とすためにあっちはさらに暴れるので、こちらも負けずとパーツをぶっ刺してしがみつく。

 刺して、刺して、動きがおかしくなったから引き抜いてまたくっつけて、空中に吹き飛ばされてまたしがみついて。

 ゴーレムの動きが正常になるまでパーツを付け替えた時には、辺り一面は血だらけになっていた。


「どうだ、爺さん。動きはこんなもので大丈夫なのか?」

「…あぁ、完璧だよ」


 苦虫を潰したような顔で爺さんが唸る。

 まぁゴーレムの格納庫がボロボロになって、さらに血まみれになったんだから無理もないだろう。


「これで、最強のゴーレムが完成したってことでいいんだよな」

「あぁ、こいつが世界を変えてくれることだろうよ」



 爺さんの夢、それは最強のゴーレムを作ること。

 世界征服でもするつもりなのかと思ったが、そういうことには興味はないらしい。


 だからこそ俺もノリノリで手伝ったわけだが、まさか一ヶ月以上も力仕事をすることになるとは思いもしなかった。


「ところでこいつの名前はなんていうんだ?」

「ネクロマだ、イカスだろ?」


 ごめん、爺さん…そこはノーコメントにしておく。

 それにしても丸っこい身体に手足がついただけのロボットだったのだが、血や傷跡のおかげでいっぱしの兵器のように見える。

 次に何か作るときは塗装にも力を入れてみよう。


「じゃあ爺さん、俺は帰るから。元気でな」


 だが爺さんは気まずそうな顔をして顔を背けている。

 俺の役目はこいつを仕上げる手伝いまでのはずだ。

 だからもう俺は帰ってもいいはずだろう?


「実はな…お前さんを召喚した方法、一回こっきりのものなんじゃ」


 俺は給料を払うどころか帰れなくした爺さんの顔を全力でブン殴った。

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