怪人撲滅組織、トランキライザー! ~マトモなのは俺だけか!?~

@gulu

第1話:毒々?蛇目怪人との遭遇!

 時は20XX年、世界で正義と悪による戦いの火蓋が切って落とされた。

 世界中で様々な怪人が目覚め、その力で傍若無人に暴れる者が増え続けたのだ。

 治安維持組織はこれに対して厳しく取り締まるも、その手の数は圧倒的に不足していた。

 そこで国はトランキライザーという、特殊な力で暴れる者を捕まえる組織を作った。


「そこまでだ、蛇丸!」

「我々はトランキライザーだ、大人しくしろ!」


 トランキライザーとしての初出動である俺たち二人は、いきなりの出動に戸惑っていた。

 なにせ実戦はこれが始めてなのだから。


「あらあら、坊や達が相手なのぉ? ゾクゾクするわぁ」


 敵は長髪でやつれた顔をしている男…声からして男のはずだ。

 長い舌をチロつかせながら、細い目をさらに細めてこちらを嘗め回すように見ている。


「大人しく投降しろ! お前には数々の容疑がかけられている!」


 いくつもの高級飲食店を襲ってきた意図は不明だが、罪があるならば捕まえなければならない。

 俺もトランキライザーの一員だ、これ以上の増援が来なくとも最後まで抗ってみせる!


「たった二人であたしを捕まえようとするだなんて、無謀もいいところだわ。いいわ、今日の晩御飯はあなた達にしちゃおうかしら」


 そう言うと、自分の口の中に手を入れ出した。

 手…手首…そして腕まで入れたかと思うと刀と一緒に引き抜いた。

 刀からはポタリポタリとよく分からない汁が垂れている。

 その液体の臭いがとても鼻につき、思わずえずきそうになる。


「あの刀には触らないように気をつけろよ、正太郎」


 流石は俺の相棒だ、一目見ただけでアレの恐ろしさを感じ取ったようだ。


「あら、これの怖さが分かるのねぇ」


 蛇丸は刃を舌なめずりしている。

 あの口調から察するに、これがあいつの秘密兵器なのだろう。


「さっきまで胃の中に入ってたやつだ。ゼッテーに汚いぞアレ」


 いや違うだろう。

 間違ってはいないけど、注目するところはそこじゃない。


「あなた達、これが私の胃液塗れだとは思わないことね。私はさっき、間食としてフグを食べてきたわ。これの意味が分かるかしら?」

「あぁ、よく分かるよ…酒や他のツマミの臭いも混ざって凄い異臭がしやがるぜ…!」


 いやいや、ちょっと待て。

 汚いとか臭いとかそういうことを言い合う場面じゃないだろ。

 相手が蛇っぽい顔してるなら、危険な毒があるって思う場面だよ。


「なぁ、蛇ってことはやっぱりマムシみたいな毒がその刀についてるのか?」

「お前、マジメにやれよ…顔が蛇っぽいからって蛇の毒を使うだなんて本気で思ってるのか?」

「顔で人を判断するなんて、あんた最低ね」


 怒られた。

 すげぇ納得いかないけど、見た目で判断するなって怒られた。


「けど、少しだけあなたの予想は当たってるわよ。この刀には恐ろしい毒があるもの」


 そうか、やっぱり毒があったのか。

 そうなると掠り傷でも死ぬかもしれない。


「さっき釣ったフグを生で三匹たいらげたからね、きっとこの刀には恐ろしい毒まみれよぉ」


 今こいつなんつった。

 さっき釣ったフグをそのまま食ったのか?


「ちなみに…調理免許は持ってるのか?」

「おい正太郎、いい加減にしろ! 怪人がわざわざ免許をとってるとでも思ってるのか!?」

「こんな状況で免許を気にするようなオツムだなんて、おバカな仲間を持って大変ねぇ」


 怒られた。

 至極まっとうな意見なのかもしれないが、全く納得できない理由で怒られた。

 あれか、おかしいのはこの二人じゃなくて俺なのか?


「お喋りはここまでよ。あなた達に、蛇の毒を味あわせてあげるわぁ」


 いや、フグだよ。

 さっきの話が本当ならその毒はフグのものだよ。

 なんで蛇がフグを食べてテトロドトキシンを発生させてんだよ。

 ワケがわかんねぇよ。

 蛇丸はクラウチングスタートのように体勢を低くし、こちらに飛びかかろうと…する前に地面に倒れ伏した。


「クッ…どうしたの、私の体……なんで動かないのよ…!」


 さっき自分で原因言ってたよ。

 免許もないのに生でフグを食ってたからだよ。

 なんで無事でいられると思ったんだよ。


「蛇丸、お前は多くの者を食い物にしてきた。そのせいでお前は自分が動けなくなるまで肥え太ったんだ…お前が目を背けてきた、罪の意識と共に膨らんだ腹のせいでな…」


 いや食べ物のせいだけどそういうイイ感じの理由じゃないから。

 罪の意識の有無じゃなくて毒の有無だから。

 俺は動けなくなった蛇丸に手錠をかけて、警察病院に患者一名を予約をしておいた。



 救急車で運ばれる蛇丸を見送り、俺たちはタバコを吸う。


「虚しいよな…」

「そうだな…怪人にだって罪の意識があるのに捕まえて収容しないといけないだなんて、虚しいよな」


 そういう意味じゃねぇよ。

 あいつがただバカだっただけだよ。

 初の実戦でこれとか本当に頭が痛くなってきたよ。

 夜の街を眺めていると、腹が空いてきた。


「今日は初仕事祝いだ、肉でも食いに行こうぜ」

「そうだな正太郎…そうだ、俺いいフグ刺しの店を知ってんだ。そこでたらふくフグ肉を食おうぜ」


 俺は全力で走って逃げた。

 追いつかれた。

 捕まった。

 食わされた。

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