愛によって完成されたモノと、愛によって狂ったモノの物語

@gulu

第1話:愛によって完成されたモノ

 朝の鐘の音が聞こえる。

 目を開けてベッドから起き上がり、身支度を整える。

 少し古臭いゴシック調のドレスに着替えたら外に出ていつものように公園に向かう


 公園にある噴水近くのベンチで読書をすること、これが私の日課だ。

 本を読むことが楽しいわけではないのだが、これが一番私らしい行動らしいのでやっているだけだ。


 少し待つと、私の隣に彼が座る。

 いつの日も、初めて会った時でさえこの人は私の許諾なく隣に座る。


 「おはよう、いい天気だね」

 「しばらくは晴天であると決められているからね」


 本から目を離さずに答える。

 天候調整機構により天気が決まっているのだ、予報の通りの天気になるに決まっている。


 「オットーさん家の子供、産まれたみたいだよ」

 「そう」


 彼の話に適当に相槌を打つ。

 私は欠陥品である。

 他の姉妹は愛を与えられたが、私には不完全な心しか宿っていない。


 そして私は捨てられ、ただ過ぎゆく日々を眺めていた。

 だというのに、この人は私の傍へと寄り添った。


 姉も妹も…皆がこの人への愛に溢れているというのに、何故かこの人は欠落した心を持つ私へ愛を贈ろうとしている。

 この人への愛のために奔走している姉妹が、本当に不憫でならない。

 だというのに何故私がこの人と一緒にいるのか、私にも分からない。


 けれど、私の隣に座ることにはある条件があった。

『私の名前を呼ばないこと』

 一度でもこの誓いを破ったならば私は躊躇なくこの人の傍から離れようと思っていたのに、器用にも私の名前を呼ばずに私へと愛を語るのだ。

 そんなアナタの声のせいで、私の心は軋んでいく。


 アナタが紡ぐ愛の言葉が不完全な私の心に注がれる。

 けれども私はアナタを愛しているかが分からない。


 アナタの言葉で変質してしまったこの心を愛と形容していいのだろうか?

 私にも、姉妹にも、そしてアナタにもそれは分からないだろう。


 何度も繰り返してきたやり取りであったけれども、これ以上は限界であった。

 私の姉妹にも、私の心も、そして諦めないあなたを見ることが。


 いたたまれない私はアナタから遠ざかろうとする。

 「待ってくれ、アウストラリス!」


 何かを悟ったのか、アナタは咄嗟に約束を破って私の名前を叫んで呼び止める。


 「約束を破ったのね、オリオン」

 

 彼は青ざめた顔で私を見つめる。

 私の名前を呼び、青ざめたアナタの顔を見ても、私の心には何の変化もなかった。

 

 「ようやく分かったの、アナタとの日々にどんな価値があったのか」

 「アウストラリス…」

 「アナタに名前を呼ばれて、やっと分かった。アナタの愛が、私の心を満たしていたのだと。これが愛なのだと、ようやく分かったの」


 私はアナタに告白する、この心にある感情こそが本当の愛なのだと。

 それに応えるようにアナタは私を抱きしめた。

 機械の身体である私を強く抱きしめ、喜んだ。


 私の姉妹は皆、愛に溺れていった。

 オリオン星の王子であるアナタに名前を呼ばれたから。

 私達は、アナタに愛してもらうために作られたのだから。


 けれど、不完全であるが故に私はアナタに名前を呼ばれても何も感じなかった。

 そう…最初からあるこの心が指し示すものが、作られたものではないとようやく確信できた。


 アナタと私が結ばれ、これで私達の役目は果たされた。

 サジタリウス星の平和が約束された。

 あとはただ、アナタと共に在るだけでいい。


 いつかアナタが老いさらばえるその時まで、私はアナタの愛の証明として傍で寄り添いましょう。

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