第78話 勇者、城下町の異変の理由を知る
「やはりおかしいな……」
「……そうですね」
「そうじゃの」
「フランでもわかるんだ、おかしいのは間違いないな」
「カーライルさん、失礼ですよ!?」
叫ぶフランは無視して、王城へ向かって城下町を歩く。
いつもは魔族達で溢れて賑わっているはずの城下町は今、誰も出歩いていない。
気配は感じるから、誰もいなくなったわけではなさそうだ。
「この雰囲気……何かに怯えてるのか?」
「魔族が怯えるなんて、よっぽどですよ?」
「ふむぅ、何かあったのかのう……」
辺りの様子を窺いながら、王城へと向かっている俺達。
「お、誰かいたぞ」
「そうですね、話を聞いてみましょう。おーい」
「ひぃ!」
「なんじゃ、怯えておるのか?」
「ド、ドラゴンだー!」
途中、一人だけ見つけた通行人にフランが声をかけるが、怯えた声を出した後、フランが肩に乗せているドラゴンに気付いて逃げ出した。
「あ、おい。ちょっと待ってくれ!」
「ひぃ、お願いだ! 助けてくれ!」
「大丈夫、大丈夫だから。何も危害は加えないから」
「……本当か?」
「あぁ、本当だ」
俺達に背を向けて、走り出した魔族の男を追いかけて止め、何とか危害を加えない事を伝える。
ドラゴンだからな、怯えるのも仕方ないか。
「ちょっと聞きたいんだが……町の様子がおかしいんだ。何か知らないか?」
「そ、そりゃ……ドラゴンが来るとわかったからだ」
「ドラゴンが? あのドラゴン?」
町の様子がおかしい理由を聞くと、ドラゴンが原因らしい。
俺が指を差して、フランと一緒にいるドラゴンを示すと、コクコクと頷く男。
「えっと、もしかしてだが……皆ドラゴンが来ると察知して、逃げた?」
「逃げるも何も、ここから離れて安全な場所があるとは思えねぇ。皆、外に出ないようにして、息を潜めてるんだ……」
「……何てこった」
嫌な予感とか、そんな事とは関係なく、城下町が静まり返っていたのは、ドラゴンがここに来てしまったかららしい。
人間である俺にはわからないが、魔族は魔力や魔法の扱いに長けてると聞いた。
ドラゴンの魔力を感知して、接近に気付いた事で今の状況になってる……という事なんだろう。
「おい、俺達の……いや、お前のせいだぞフラン。町の人達をこんなに怯えさせて」
「こんな可愛い子を怖がるだなんて、皆どうかしてます! 常識で考えてあり得ません!」
「……お前が常識を語るんじゃねぇよ」
人間も魔族も含め、俺が今まで出会った人達の中で、一番常識が無いのがフランだからな。
そんなフランに、常識を語られたくはない。
「はぁ……俺の取り越し苦労だったのかもな……」
「まったく、カーライルさんったら。はやとちりさん」
フランの物言いには少々イラっとするが、今回は俺が悪いので黙っておく。
そのまま俺達は、静かな町中を歩いて王城へ……到着しそうな時、内部から大きな音が聞こえた。
「今の音は?」
「……なんでしょう? 誰かの魔法が暴発したとか?」
魔法の暴発なんて、危ない事をしてるのか?
とにかく、何か大きな爆発があったような音が聞こえて来たんだが……。
暢気に鼻歌を歌いながら、ドラゴンを弄っているフランを見ていると、どうでも良くなりかけたが、何とか気を持ち直す。
「……やっぱり何か大事のようだ」
「どうしたんでしょう?」
「なんなのじゃ?」
王城に到着した俺達だが、いつもはいるはずの衛兵の姿が見えない。
不思議に思いながらも中へ入ると、そこかしこに剣で斬られたような跡が、壁や柱に刻まれていた。
「……何かの襲撃か? それにしてもこの傷跡……魔法じゃないな」
「魔法以外でこんな傷を付けられるなんて、魔族じゃあり得ないです」
「ほとんどの魔族が魔法に頼りきりじゃからの。じゃが……これはもしかしたら……カーライル、妾の感じた気配……本物かもしれんぞ?」
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