第77話 ルイン襲撃



 カーライル達がドラゴンと話している頃の王城。


「ふっ! ふっ! ふっ! ふっ!」

「何で私はこんなとこにいるのかしら……?」

「カーライルを待っているからなのよ」


 リィムとマイアの二人は、カーライルがドラゴンの所へ行った後も、執務室に残って帰りを待つ事にしていた。

 しかし、その二人を余所に、一人筋肉トレーニングに励むアルベーリを見て、残ったことを後悔しつつある。


「ふっ! ふっ! ふっ! ふっ!」

「ひたすら筋肉を鍛える魔王様……夢かしら?」

「現実なのよ。逃避しちゃダメなのよ」


 マイアに言われても、目の前の現実が信じられないリィム。

 筋肉至上主義の魔王が、目の前でひたすら自分を苛め抜いてる姿は、年頃の女性であるリィムにとって、あまり現実感を感じられないのだろう。


「むっ! この気配は!」

「……どうかしましたか?」

「何なのよ?」


 ひたすら筋肉を鍛えていたアルベーリが突然動きを止め、睨むような目つきで部屋の入り口を見る。

 その様子に、何事かと声をあげる二人。


「……カーライルか……? いや、違うな。気配がおかしい……」

「……一体どうしたんですか?」


 眉間に皺を寄せ、入り口を睨みつけるアルベーリ。

 いきなり険しい雰囲気になった魔王に、何が起こったのかを聞こうとするリィム。

 その瞬間……。


 ドゴォ!


「むぅ!」

「きゃあ!」

「何なのよー!」


 突然大きな音と爆発により、吹き飛ぶ入り口。

 悲鳴を上げる二人とは違い、アルベーリは毅然とその場所に立ち、入り口を睨む。

 筋肉を鍛え続けているのは、伊達じゃないのかもしれない。


「ほぉ、さすがは魔王ってとこか。全く怯まないんだな?」

「貴様は……」

「この声……?」


 爆発により舞う砂塵の中から、剣を持った男が現れ、アルベーリに感心したような声を出す。

 その声は、リィムやマイアにとって、聞いた覚えのある……ある種忌々しい声だった。


「リィム、マイア……久しぶりだなぁ?」

「……ルイン!?」

「どうしてここに、なのよ!?」


 砂塵の中から現れたのは、かつて同じパーティ、カーライルを追放した張本人、ルインだった。


「はんっ! どうしたもこうしたも……勇者が魔王を倒しに来るのは、当然だろ?」

「勇者が魔王を……?」

「聞いた事が無いなのよ」

「……そういう事か」


 二人に見下した声で言い切るルイン。

 リィムとマイアは、ルインの言っている事はわからない。

 ただ一人、アルベーリだけが理解していた。


「古い言い伝えだな。しかし、お前が勇者だと? 勇者は一世代に一人のはずだが?」

「だから俺が勇者なんだよ」

「……勇者はカーライルでしょ?」

「うるせぇ! あいつの名前を出すんじゃねぇ! くそがっ!」


 アルベーリが冷静に問いかけると、ルインはなんてことない様子で答える。

 しかしリィムがカーライルの名前を出すと、それに激高し、持っていた剣を振るルイン。


「きゃあ!」

「リィム! なのよ!」


 その剣からは、カーライルのよく使う剣気が飛び出し、リィムに襲い掛かった。

 剣気はリィムの肌を幾度も切り裂き、あっという間に全身傷だらけにしてしまう。


「……かつての仲間にすら、容赦無しか」

「はんっ! あんな奴ら、仲間でもなんでもねぇよ。俺には俺だけで良い。勇者である俺だけでなぁ!」


 アルベーリの言葉に、陶酔したように言い放ち、最後には目を見開いて今度はアルベーリに向かって剣を振る。


「私には、その程度では効かんぞ!」

「ち、さすが魔王ってとこか」


 ルインによって放たれた剣気は、アルベーリの筋肉によって無効化される。

 よほどの硬さなのだろう、その筋肉には微かな跡が残るだけで、斬られることは無かった。


「カーライルなら、既に我は細切れにされていたであろうな……」

「くそがっ! だったらこいつでどうだっ!」


 アルベーリの挑発に、ルインが激高して渾身の力を込めた――。



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