第63話 勇者、怒りの爆走……部下を添えて



「急ぐぞ!」

「ち、ちょっと待ってカーライル!」

「置いて行かないでなのよー!」

「フゴー! フゴー! フゴゴゴゴゴゴ!」


 フランを引きずりながら、急いで山を下りる。

 馬が繋がれているかどうかを確認……よし、いるな。

 叫びながら、俺を追いかけて来たマイアとリィムを馬に乗せ、繋いでいた縄を外した。


「え? ちょっと待って。この馬って……きゃぁぁぁぁぁぁ!」

「待つなのよカーライル……ひょぉぉぉぉぉ!」


 走り出した馬の上で、悲鳴を上げる二人を見送って、俺も走るために構える。


「フゴ! フゴフゴ! フゴゴゴゴゴゴゴ!」


 何かを掴んでる手の先で、誰かのくぐもった声がした気がしたが、それは無視して、そのまま馬を追い越す勢いで走り始めた。



「……ふぅ、着いたな」

「ふぅ、じゃないわよカーライル! 死ぬかと思ったじゃない!」

「生きてるのが不思議なのよ……」


 城下町に着くと、馬から降りて来た二人が文句を言って来る。

 まぁ、早く帰れたんだから良いじゃないか。

 ちなみに、いつも何かに激突しないと止まらない馬は、柔らかい魔法の盾を出して受け止めた。

 さらに、軽く馬の首あたりに手刀を入れて気絶させる事で、何事も無く止まる。

 この二人は、フラン程丈夫じゃなさそうだから、一応な。


「フランが静かだが……まぁ良いか」


 自分とは違う扱いに、フランが文句を言って来るかと思ったが、それもなく何故か静かだ。

 静かな分には平和なので、気にしない事にしよう。


「それじゃ、私達は宿を探すわ」

「前はフランの家に泊まったんだったな?」

「そうなのよ。一晩中踊らされたなのよ」


 以前に暇だから踊るとか言ってたが、二人も巻き込んだのか……。

 リィムとマイアは、今夜こそしっかり休みたいと言って、城下町の人ごみに紛れて行った。

 明日にはまた、王城に俺を訪ねて来るみたいだな。


「さて、アルベーリに文句を言いに行くか……」

「……ちょっと待って下さいよ」

「ん?」


 何か聞こえたような?

 ……気のせいか……さっさと王城に行って、アルベーリに文句を言わないとな。

 どうせまた、筋肉トレーニングとかしてるんだろうし。


「そういや、魔王であるはずのアルベーリだが……忙しそうな所を見た事が無いな……王って暇なのか?」


 王としての仕事がどんな物なのか、俺には知る由もないが、忙しく無い事なんて無さそうなんだけどな……。

 側近だとか、城に勤めてる他の魔族達が優秀なんだろう、きっと。


「もうひとっ走りするかね……」

「……ちょっ……ンゴゴゴゴ!」


 また何か聞こえた気がしたが、気のせいという事にして、俺は城下町から王城へ向かった。



「アルベーリ! てめぇ、よくも無駄な事をさせやがったな!?」

「お、カーライル。早かったな……しかしどうした? 血相を変えて……」

「暢気に逆立ちなんてしてんじゃねぇよ! サラマンダーのサラちゃんから聞いたぞ! 卵を守る必要なんてなかったんじゃねぇか!」


 俺が勢いよくアルベーリの執務室に入ると、奴はいつものブーメランパンツのみで逆立ちをしていた。

 その状態で腕を曲げたり伸ばしたりしているから、変則的な腕立てなんだろうと思う。


「ふっ! ……っと。おぉ、サラちゃんに会ったのか。元気にしていたか?」

「元気過ぎて襲って来たぞ。そんな事より、卵の話だ。俺が行く必要が無かったじゃねぇか!」


 やはりアルベーリは、サラちゃんの事を知っている様子だ。

 知っていて、俺を火山に行かせたのは確定だな。


「あぁ、それか……それはだな……あー、話は変わるが、それは大丈夫なのか?」

「あん?」


 話を強引に変えられてる気がするが、一応アルベーリの示す方を見てみる。

 そこは俺の手の先……ずっと引きずって来ていたフランだ。



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