第62話 勇者、怒りが沸いてくる



「じゃあ、襲って来たのは何だったんだ?」

「あぁ、あれねー。あれは貴方達を試したのよー。弱ければ卵を任せるわけにはいかないしー。強ければ私の代わりに守ってくれるしねー」

「何なんだそれは……」


 結局、俺達がここに来る意味は無かったようだ……。

 サラちゃんの話す驚愕の事実に、俺以外にもリィムやマイアも愕然としている。

 ……フランだけは、俺が足を持って引きずっているせいで、顔が地面を向いていて、表情が見えないが。

 というか、他にサラマンダーがいないって……何から守る必要があるのだろうか……?


「じゃあ、あの卵はサラちゃんが産んだんだな?」

「そうよー」

「こっちの二人が、卵から孵った時に母親と認識させるとか言って、色々やっていたんだが……大丈夫か?」


 マイアと引きずってるフランを、手で示しながらサラちゃんに聞く。

 あれくらいなら大丈夫だろうが、念のためな。

 変な刷り込みがあって、サラちゃんが怒る事が無いか心配だ。


「大丈夫よー。サラマンダーは卵の状態でも、最初から母親がわかってるからねー。本能だと思うわー」

「本能か……それなら安心だな」

「そんな……あれが意味無かったなんてなのよ……」

「フガー! フガー!」


 何も問題が無いと笑うサラちゃんに、俺は安心したが、マイアはショックを受けたようだ。

 夜を徹して卵に色々したり、フランと言い争ったりしてたからな……それが全て無駄な事だったとわかったからだろう。

 フランの方は、地面にへばりついているから、何を言ってるのかわからない。

 うるさくないから、このままで良いだろう。


「でもまさか、私を簡単に気絶させるなんてねー。それだけ強いなら、私を殺す事もできただろうにねー?」

「まぁ、こうして話してる相手を、むやみやたらに殺すのもな……」

「私は殺される覚悟だったんだけどねー。卵が無事なら、次のサラちゃんが産まれて来るしねー」


 あの卵から孵ったら次のサラちゃんとなるのか……まぁ、サラマンダーだから間違っちゃいないが、ややこしいな。


「……そうか……すまなかったな、静かに暮らしてるのを邪魔して」

「良いのよー、ここに私だけでいるのも寂しいしねー。久しぶりに誰かと話す事ができて楽しかったわー。頭への打撃は、久しぶりに気持ち良かったしねー」

「気持ち良かったのか……まぁ、邪魔じゃなかったんなら良いが……」


 他に話す相手のいない状況で、ずっと暮らすのは結構寂しいもんなんだろうな。

 俺には耐えられそうにない。


「その引きずってる人は大丈夫なのー?」

「あぁ、こいつはこの扱いで良いんだ。それじゃあな……」

「フゴー!」

「また来てねー……」


 サラちゃんに見送られて穴を出る。

 またここに来ることがあるかはわからないが……その時は話し相手にでもなってやろう。

 サラマンダーの子供達もいるだろうしな。


「さて……」

「ん?」

「どうしたなの、カーライル?」

「フゴ?」


 穴を出て、火山を降りる段階で俺は立ち止まる。

 皆はそんな俺を見て首を傾げてる。


「急いで王城に帰るぞ! アルベーリに文句を言わなきゃ気が済まん!」

「魔王様に?」

「どうしてなのよ?」

「ここに来た意味が無かったんだぞ? なんだよ、サラマンダーが1匹しかいないって……しかも自分で産んだ卵は食べないって……見張り損じゃねぇか!」

「きっと魔王様も、そこまで知らなかったのでは?」

「魔王と言えども、サラマンダーの習性を全部知ってるわけないかもなのよ?」


 ふつふつと湧いて来るアルベーリへの怒り。

 卵の前で、フランとマイアが繰り広げる母親戦争を見ながら、一夜を過ごした事が無駄だったんだ。

 これが怒らずにいられるか! 無駄な事させやがって!

 フォローしようとするリィムとマイアだが、この二人はまだアルベーリがどんな人物かわかってないからな。


「あいつは、絶対知ってて俺を差し向けた。間違いない!」


 俺は断言した。

 筋肉とボケに関しては、異常な執着を見せる奴だからな。

 帰ったら、「あれ? 無駄な事をさせたか? すまんすまん」とか笑って言いそうだ。

 むしろ、俺が文句を言う事まで想像してるかもしれない。



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