第58話 牢獄の偽勇者



 カーライル達がサラちゃんと出会っていた頃、ロラント王国の牢獄にて。

 そこにはルインとミオリム、ムオルナがそれぞれの牢獄に入れられていた。

 全員、鎖で繋がれている。


「ルインのせいよ、こんな事になったのは!」

「そうだぞ。お前がカーライルを追い出したり、勇者を偽って無ければ!」


 牢獄に入れられて数日、二人共、起きている時は延々とルインを責め続けていた。

 今までは、ルインからの反撃が恐くて言えなかった事だが、鎖に繋がれ身動きができない状態なので言えるのだろう。

 ずっと責められているルインの方は、俯いたままうつろな目で、何も言い返さない。


「カーライルさえいなければカーライルさえいなければ……勇者は俺だ勇者は俺だ」


 ミオリムやムオルナから言われてる事には耳を貸さず、延々と小さな声でカーライルへの怨嗟を呟き続けている。

 狂気に取り付かれてるとしか見えないルイン。

 その眼は、充血を通り越して赤みを帯びている。


「聞いてるのルイン!? 貴方が馬鹿な事を考えなければ、私はもっと良い男と遊べたのよ!」

「何が俺に付いて来れば手柄も思うがままだ! このペテン師が! 私の出世計画がパァになったじゃないか! どうしてくれる、この偽勇者!」


 ミオリムもムオルナも、マイアとは違って積極的にカーライルを追い出そうとした二人だ。

 だが、二人共自分の事は棚に上げてルインを責め続ける。

 

「この偽勇者!」

「偽勇者が!」


 言う事が無くなった二人は、ルインに対し偽勇者、とだけ叫ぶようになった。

 ルインは偽勇者と言う言葉には、ピクリと体を動かして反応すると知っているからだ。


「おい! うるさいぞ罪人共! 静かにしろ!」


 見張りの兵士が、叫ぶ二人を注意してようやく鎮まる牢獄。


「全く、お前も偽勇者と騙らなかければ、ここに入る事も、罵声を浴びせられる事も無かったのにな……」


 静かになった牢獄で、兵士はルインのいる所に近付き、声を掛ける。


「ん?」 


 その時、ルインを見ていた兵士が異変に気付く。


「お前……何を……」


 瞳が完全に赤くなったルインが顔を上げ、兵士を見ている。


「俺を……俺を偽勇者と言うなぁぁぁぁぁぁぁ!」


 その叫びと同時に、ルインが体を繋いでいた鎖を引き千切った!


「お、おい! 何をしている!」


 まだ鉄格子に挟まれているのに、恐怖を感じた兵士は腰から剣を抜き、ルインに向かって構える。


「うるさいんだよお前らぁぁぁぁぁ! 俺が、俺が本物の勇者なんだぁぁぁぁぁ!」


 ルインは叫びながら、鉄格子を握り力任せに曲げた!


「ひっ、ひぃぃぃぃ!」


 ルインの怪力を見た兵士は、出て来ようとするルインに腰を抜かしそうになりながら、牢獄から逃げ出す。


「あぁ、ルイン。良かったわ。私達を助けてくれるのね!」

「ルインよ、お前にそんな力があるとは……何でも協力する。だからここから出してくれ!」


 ルインが牢獄から出て来たのを見て、自分達も助けてくれるものだと疑わないミオリムとムオルナ。

 今までルインを罵っていた事は、既に忘れているようだ。


「うるさい……」

「え?」

「ルイン?」


 ルインがミオリム達を見てぼそりと呟く。

 ゆっくりとした動きでムオルナのいる牢獄に近付き、鉄格子を曲げる。


「助かったぞ、ルイン!」


 人が通れる程曲げられた鉄格子から入って来るルインを見て、助かったとばかりに声を上げるムオルナ。

 だが、ルインは何も言わない。


「ぐっ!」


 ゆっくりと近づいたルインが、無造作に振り上げた腕で、ムオルナの首を絞め、折る。

 くぐもった声を出しながら、ムオルナはそのまま絶命する。


「どうしたの? 何あったの!?」


 牢獄の中にいるため、他の場所の様子がわからないミオリムが問いかけるが、答える声は無い。

 代わりに、ゆらりと現れたルインが、ミオリムが入れられている牢獄に近付いて、鉄格子を曲げた。


「あぁ、ルイン……ひっ!」


 助けに来てくれたと思い、ルインに呼びかけたミオリムだが、その手に持っている物を見て、顔を引き攣らせる。

 ミオリムが見た物は、血が滴るムオルナの顔だった。

 首を折ったムオルナの首をそのまま引き千切り、ルインが持って来たのだ。


「お前も……こうしてやる……」

「嫌、ルイン止めて……何でもするから……おねぎゃぁぁぁぁぁ!」


 ミオリムの悲鳴が止まった後の牢獄には、無残な死体となった、ミオリムとムオルナが転がっているだけだった……。



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