第57話 勇者、火山に入る



「カーライルが言い合ってる……さっきの魔王様ともそうだったけど、こんな姿今まで見た事無かったわ」

「いつも冷静だったカーライルなのよ。これが真の姿なのよ?」


 おっと、フランとの言い合いに夢中になってしまった。

 落ち着かないと……。


「さて、これから火山の火口に向かうんだが……」

「冷静を装っても、誤魔化されませんよ!」

「ええい、うるさい! ちょっと黙ってろフラン! ……サイレンス」

「モゴモゴ……モゴー! モゴー!」

「これで静かになったな……」

 

 俺の魔法で喋れなくなったフランが、なおも口を動かして何かを叫ぼうとしているが、声にならない。

 リィムとマイアを見ると、二人共若干引いてるようだが、気にしないでおこう。


「コホン……さて、火口へ行く前にだが……当然この火山の火口には、マグマがあるだろう」

「強引に話しを始めたなのよ」

「しっ!」


 俺が話し始めると、マイアが何か言っていたが、すぐリィムに黙らされた。

 ……それでよろしい。


「マグマは熱い……当然だが、人が触れられる物じゃない。だから、魔法を掛ける」

「魔法なのよ?」

「あぁ、そうだ。魔法でマグマに近付いても平気になるはずだ。まぁ、触れたりするのは危険だからお勧めしないがな」

「マグマになんて、触れないわよ」

「人が近づいたらジュッって溶けるなのよ、ジュッなのよ?」


 何故二度言ったマイア……。

 とりあえず、ここにいる人数分の魔法を掛ける事にする。


「アイスウェア」

「……寒っ」

「……凍えるなのよ!」

「モゴー! モゴー!」


 俺が魔法を掛けると、三人共寒がるように体を震わせ、手を擦り合わせる。

 ちょっと強めに掛けたからな……まだほとんど熱が伝わってない入り口付近なら、こんなものだろう。


「寒いのは我慢してくれ。これから暑い場所に行くんだ。直にちょうど良くなるだろう」

「うー……我慢するわ」


 火山を登り、頂上付近まで歩く。


「穴が開いてるな……ここがサラマンダーの棲み処か」

「そのようね」

「大きい穴なのよ」

「モゴー! モゴー!」


 頂上近くに、人が数人並んで歩けるほどの大穴が開いていた。

 ここから山の内部に入る事ができそうだ。

 サラマンダーは好んで、こういう場所を棲み処にするはずだしな。

 ただ、マグマもあるだろうから、そこには注意しないといけない。


「あらー、お客さんかしらー?」

「あ?」


 穴の中に入り、少しだけ進んだ頃、奥から女性の声が聞こえて来た……こんな所に女性だって?


「ちょっと待ってねー、すぐそっちに行くわー」

「あ、あぁ」


 女性がいる事は驚きだが、こっちに来るというのだから待ってみよう。

 俺達はその場で立ち止まり、女性の声が言っていたように少しだけ待つ。

 すると、奥の方から、重い何かの足音が聞こえ始めた。


「何だ?」

「相当大きい何かが動いてるぞ!」

「怖いなのよ……」

「モゴー! モゴー!」


 その音に俺達は警戒する。

 しかしフラン……さっきからモゴーとしか言ってないが……あ、俺が魔法を掛けたからか。

 うるさくなるのが嫌だから、もう少しこのままにしておこう。


「お待たせしたわねー。こんな所までどうしたのー?」

「……サラマンダー?」


 奥から現れたのは、ロラント王国でも退治した事があるサラマンダーだ。

 赤い鱗を纏う、トカゲを大きくしたような出で立ち。

 二本足で歩いて、前足……短い手からは鋭い爪が生えている。

 間違いなく、俺が知ってるサラマンダーだ……喋る事以外は。


「そうよー、サラマンダーよー。サラちゃんって呼んでね」

「サラちゃんって……」


 サラマンダーは、左手を腰っぽい部分に当て、右手を頭の後ろに回して、器用にポーズを決めた。

 ……何だこれ。



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