第51話 リィムとマイア、魔王城の城下町へ



 カーライルがフランを走らせ、王城まで帰って来る少し前の事。


「カーライルという者が、この城にいないか?」

「いれば会わせて欲しいなのよ」


 リィムとマイアの二人がカーライルに会うため、王城の入り口まで来ていた。

 デザート屋のお姉様から聞いた情報で、カーライルが王城にいると知ったのだ。


「カーライル様は出ている。今会う事はできない」

「どこに行ったかわかる?」

「すまないが、それを話す事はできない」

「そう……わかったわ。また来るわね」

「次はカーライルがいると良いなのよ」


 兵士にカーライルがいない事を教えられ、二人は諦めて王城を離れる。

 この時、名前を伝えていたら、カーライルに誰が訪ねて来たのかわかったのだが……。


「カーライルは、今ここにいないのか……」

「考えてたよりも早く、ここまで来ていたなのよ」

「そうね……苦手なくせに、馬車か馬ででも移動したのかもしれない」

「これからどうするなのよ?」

「どこかで宿を取ろう。明日また王城を訪ねて、カーライルが帰っているかを確かめましょう」

「わかったなのよ」


 カーライルに会うためにここまで来た二人は、宿でカーライルが帰って来るまで待つつもりのようだ。


「せっかく、カーライルの足取りを掴んだんだしね……このままロラント王国に帰ることはできないわ」

「わざわざ魔王国まで来たのになのよ。カーライルに謝るまで帰れないなのよ」


 リィムはカーライルと再会するため、マイアはカーライルに謝るためにここにいるのだろう。

 追放した時とは違い、マイアは自分の行いを反省している様子だ。

 宿を探すため、城下町を歩きながら何かを考えているリィム。


「……しかし……今の兵士、カーライルの事を様を付けて呼んでたわよね……?」

「確かにそうなのよ。何でなのよ? カーライルは魔王国に来た事が無いはずなのよ?」

「理由はわからないわ……だけど、カーライルが魔王国で重要な役職に付いている、という事なのかもしれないわね」

「私達に追い出されてから、まだそんなに経って無いなのよ?」

「何か理由があるのかもしれないわ。カーライルの事だから、知らず知らずのうちに勇者の力を発揮して、抜擢されたのかもしれないわね」

「……カーライルなら有り得るなのよ。勇者の力を無自覚に使うなのよ」

「しかも、数人に一人の万能勇者だからな。魔法すら使いこなす。……魔族達の国で出世する事も簡単だろう」


 実際は、カーライルが自ら管理職という、詳細もわからない募集に食い付いた結果なのだが、二人は知る由も無い。


「……マイア……ここはどこ?」

「知らないなのよ。私はリィムに付いて来ただけなのよ」


 ふとリィムが周りを見渡すと、見た事の無い場所。

 元々初めて来た城下町、不案内なのは仕方ないが、話しに夢中になっていたため今自分が何処にいるか、何処から来たのかを見失っていた。

 リィム自身が方向音痴なのを忘れて、マイアを連れて歩いていたせいだったりもする。


「あれ、人間ですか? こんな所でどうかしたんですか?」

「……話しながら歩いていたら、道に迷ってしまって……」

「ここが何処だかわからないなのよ」

「迷子なんですね。私が案内しますよ。どこに行きたいのですか?」

「すまない。今日泊まる宿を探してるんだけど、どこか良い場所は無い?」

「宿まで案内してくれれば良いなのよ。けど、お金は出せないなのよ?」

「ちょっとマイア、失礼でしょ?」

「良いですよ、お金は無くても。どうせ暇でしたし……ふむ、宿ですか……どうせなら、私の家に来ますか? 二人くらいなら、泊められる広さがありますよ?」

「いや、でも……初めて会った私達を泊めてもらうというのも……」

「ちょうど良いなのよ。泊めてもらえば宿代が浮くなのよ」

「ちょっと、マイア」

「ふふふ、遠慮なさらずに我が家へ来て下さい。……窓から落とされて暇になりましたしね……一人だと踊る事くらいしかできないですし……。まったくカーライルさんは、あんな硬い物をぶつけて来て……たんこぶができたらどうするんですか……?」

「ん? どうしたの?」

「何かブツブツ言ってるなのよ?」

「いえいえ、何でもありませんよ。では、私の家はこっちです」


 リィムとマイアは、偶然出会った女性に案内され宿代わりにと泊めてもらう事になった。

 その女性が、ここ最近カーライルと一緒にいるフランだとは知らずに……。

 二人が迷子になっていた場所は、王城の裏口……カーライルに落とされたフランが出て来た場所だったのだ。



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